〈トヨタ自動車〉二次粒子生成のメカニズムを解明する研究 排ガス低減技術だけじゃない、トヨタの大気汚染改善の取り組みとは?
- 2019/12/23
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牧野 茂雄

トヨタが未知の分野に挑戦している。クルマから大気中に排出されるPM2.5=粒径2.5マイクロメートル(0.0025mm)程度の超微粒子やHC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)が自然環境のなかでどのように変化し生体に影響を与える「2次粒子」になるのかを解明しようというプロジェクトだ。大気環境を再現できるスモッグチャンバーを設置し、2次粒子生成過程の研究を行なっている。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
PHOTO & FIGURE:TOYOTA
自動車の排出ガス中成分として規制されているNOxは、そのままでも有害だが、変化することでさらなる害をもたらす。NOxのほとんどを占めるNO2(二酸化窒素)は大気中で太陽光の紫外線にさらさると酸素原子(O)ひとつを放出する。これが大気中のO2と結びついてO3(オゾン)に変化するフォト・ケミカル・リアクション(光化学反応)を引き起こす。地表から約5万メートルにある成層圏でのオゾンは有害な波長の太陽光を吸収する「オゾン層」となるが、地表から1万6000メートル以下の対流圏では人間の気管支や肺に危害を加える。また、HCもNOxと同様に光化学反応を引き起こす。
PM2.5は、もともとは燃料の燃えカスであるすすなどであり、これを1次粒子と呼ぶ。この状態のまま人間が肺に吸い込んでも、ごく少量ならあまり問題にならないが、大気中で温度や湿度、紫外線などの影響を受けると化学反応を起こして2次粒子になる。この状態で大気中に長く留まることで、人体に対して気管支喘息や心筋梗塞をもたらすようになると言われている。その意味ではNOx、HCと同様に2次粒子への変化がカギである。
じつは、こうした大気中での化学反応についてはまだメカニズムが解明されていない。さまざまな因子がからんだ結果だという推定されているが、どのように2次粒子が生成されるかを突き止めなければ環境因子の制御はできない。そこでトヨタは、スモッグチャンバーを使った研究に取り組んでいる。
スモッグチャンバー内では、テフロンバッグで隔離された空間内に1次粒子を入れ、HC、NOx、SOx(硫黄酸化物)などを接触させる。この外側に温度管理を行なう冷暖房ユニットを置きバッグ内の温度を大きな幅で変化させるほか、132本のUVランプを使って波長と放射強度を管理した紫外線を発生させる。大気中の環境をバッグ内で再現するのだ。環境変化の中で2次粒子がどのように生成されるか、環境条件を変えた場合に生成能力がどう変わるか。再現性の高い検証ができる。すでに「太陽光に近い条件では2次粒子の生成量が少ない」点が観察されており、その要因としてトヨタは「紫外線としてはもっとも波長の長い400ナノメートル付近の光がNO3ラジカルを分解する」点を挙げている。過去にはなかった知見であり、その検証作業も進められている。
この研究は米国、EU、中国、東南アジア、インド、ブラジルの各研究機関や大学と連携しており、トヨタとしての研究協力と支援、トヨタからの研究委託などが行なわれている。自動車メーカーとしてこれだけの体制で2次粒子生成過程の研究を行なっているのは、おそらくトヨタだけではないだろうか。過去、欧州と米国は自動車の安全性と環境性能について無償の情報公開や特許開示を行なった。今度は日本の番であり、その先頭にトヨタがいる。
世の中の環境を正確に再現する






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