構造用接着剤の効能を再考する——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第47弾
- 2020/03/22
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安藤 眞
自動車の軽量化において、接合技術である構造用接着剤に注目が集まっている。採用を決定した各社のアナウンスによれば、なるほど効き目は確かに高そうである。しかし、実際の効果をデータとして把握するのは困難だという声もある。あらためて、構造用接着剤について考えてみた。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
ボディの組み立て工法のひとつとして、国産車にも採用が広がっている構造用接着剤。近年は軽自動車にも採用が拡大しており、ホンダに続いてスズキも、新型ハスラーから導入を開始している。
一般に言われている構造用接着剤の効能とは、剛性と振動減衰性の向上だ。スポット溶接だけだと、溶接点間は結合されず、力がかかった場合、結合されていない部分に滑りが生じてしまう。そこを接着剤で結合すれば、滑りが抑えられて変位量が小さくなる=剛性が高まる、という理屈だ。振動減衰性も同様。剛性と固有振動数は比例関係にあるから、剛性が高まれば固有振動数も高まり、低周波騒音と共振しにくくなる。しかも接着剤はエポキシなどの樹脂だから、内部損失(変位エネルギーが熱エネルギーに変換されて失われる率)は鋼板よりはるかに大きく、高周波の振動も素早く減衰される……はずである。
と仮定調で書いたのは、複数の自動車メーカーで「それを裏付けるデータは取れていない」という話を聞いたから。接着剤メーカーが作るテストピースやCAEによる解析では違いが出ても、実車レベルになると、従来の計測方法では差が現れないというのだ。
あるメーカーのエンジニアは「スポット溶接もピッチが15mm以下になると、接着剤の有無で剛性の計測値に差は出ない」と言い、別のメーカーのエンジニアは「振動減衰性はセンサーの質量が影響する微少レベルのため、正確な計測ができずに論文が書けない」と嘆いていた。
しかし、数値の裏付けがないから、効果はプラシボだ! オカルトだ!と言うことはできない。乗り較べれば、テストドライバーでなくてもその差は実感できるレベルで、「導入を渋る部署や役員に乗り比べてもらい、効果を納得してもらった」という話をするエンジニアは、ひとりやふたりではない。
ということは、物理特性は間違いなく変わっているはずで、いずれ新たな計測方法が開発されれば、数値で裏付けられると思う。問題はそれを行うために、どれだけマンパワーをかけられるかということ。効果を実感できるなら、商品として数値的な裏付けを提示する必要はないわけで、それをやるのはメーカーではなく、学術機関の仕事になるのかも知れない。
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