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サスペンションブッシュの話——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第64弾

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(PHOTO:STI)

クルマにとっての“縁の下の力持ち”といえば、サスペンション。路面から入力を緩和し、乗り心地を良くするには欠かせない機構だ。そのサスペンション性能を語る際、リンクの配置やバネの硬さ、ダンパーの減衰力は話題になっても、滅多なことでは話題に上らない部品が、ラバーブッシュ。今回はこの“地味な部品”についての話をしよう。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 ラバーブッシュはサスペンションリンクの関節点に使用される部品で、多くの場合、金属でできた内筒と外筒の間にゴムが充填された構造をしている。ぱっと見は単純な部品だが、実はこの中には、さまざまなノウハウが詰め込まれている。

 ゴムを使用するのは、ロードノイズや駆動系の発生する微振動(=ノイズ)を遮断するため。NV性能を問題としない競技車両などには、ゴムを挟まないピロボールやボールジョイントが使用される。

ブッシュの例。これはサブフレーム用。(PHOTO:STI)

 ゴムは力を加えると変形し、力を除去すると元の形に戻るが、その際に若干の遅れが生じる。これはゴムの分子間に摩擦が発生することによって起きる現象で、振動の伝達抑制には、この特性を利用する。摩擦が発生するということは、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されるということで、その分だけ振動エネルギーが失われる。単純に考えれば、粘性が高いほど(一般に柔らかいゴムほど)、高い振動減衰性を持つ。

 ならば、柔らかいゴムを使えば良いのかというと、そうはいかないのが難しいところ。まず、柔らかいゴムはおしなべて耐久性が低いため、耐久要件を満足できる範囲までしか低硬度化はできない。しかも、柔らかすぎるとサスペンションのジオメトリー剛性が低くなり、操縦安定性が悪化してしまう。そこで行われるのが、「潰して使う」という方法だ。

 内外筒の間にゴムを充填して加硫接着した後、外筒を絞って直径を小さくする。こうすることでゴムが圧縮され、柔らかいゴムの減衰特性(内部損失)を維持したまま、耐久性を向上させると同時に、軸直角方向のばね定数を高めることができる。

(FIGURE:HONDA)

 また、硬さに方向性を持たせい場合には、構造で工夫する。たとえばロワアームのブッシュは、タイヤの横力方向には硬くしたい一方、回転(サスストローク)方向には柔らかくしておきたい。それを両立させる方法のひとつが、内筒と外筒の間に“インターリング”を挿入することだ。

 インターリングとは、金属や樹脂の板を円弧状に成形したもので、これをゴムの間に挿入して加硫する。すると、インターリングを入れた部分のゴムボリュームが減り、その軸直角方向にだけ、ばね定数を高めることができる。

 もうひとつの方法が、内筒のバルジ加工。内筒の中央部を球状に膨らませることで、軸直角に硬く、その他の方向には柔らかい特性を得ることができる。特に、こじり方向のばね定数も柔らかく維持できるから、リンクの軌跡干渉を利用してトーコントロールするマルチリンク式のリヤサスペンションに使用されることが多い。

先代デミオで採用されたすぐり方向のチューニング@リヤサスピボット。(FIGURE:MAZDA)

 反対に、特定の方向にだけ柔らかくしたい場合に利用されるのが、“すぐり”という手法だ。これはブッシュのゴム部分に肉抜きや空隙を設けたもので、すぐりを設けた方向には柔軟に動くようになる。前後コンプライアンスを大きくして乗り心地を向上させる狙いで使用されることが多く、ストラット式フロントサスの後側ロワアームブッシュや、FF系マルチリンク式リヤサスのトレーリングアームブッシュに好んで使用されている。

 普段は存在すら意識されないラバーブッシュだが、長い年月をかけて、少しずつ進化してきた奥の深い部品なのである。

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