2050年カーボンニュートラルは実現するのか!?——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第68弾
- 2021/06/25
- Motor Fan illustrated編集部
2050年までの実現を目指すカーボンニュートラル。解決策のひとつとして、地下にCO2を閉じ込めるCCSという手段をご紹介しよう。
日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)社会を実現するとの目標を掲げており、自動車メーカーもそれに向かって取り組む姿勢を見せている。そのカギを握っているのは、二次電池でも燃料電池でも合成燃料でも水素エンジンでも、恐らくない。
何かと言えば、CCS(Carbon dioxide Capture Storage=二酸化炭素回収・貯留)だ。簡単にいうと、経済活動によって排出されるCO2を集め、地下にあるCO2不透過層より深いところに圧送して、生活圏から隔離してしまおうという技術だ。
なぜそう断定できるのかといえば、ヒントは道路。舗装に何を使うかを考えれば、CCSの重要性は見えてくる。
現在、舗装材料としてもっとも多く利用されているのはアスファルトで、舗装道路の約95%に使用されている。そのアスファルトは、原油を精製することによって得られるもの。アスファルトそのものからCO2は出ないが、アスファルトを得れば、より軽質な成分(灯油や軽油、ガソリンやナフサ)も一緒にできてしまう。これらを燃料油として燃やせばCO2が出るし、プラスチックを作っても、焼却すればCO2が出るから、使い途のない軽質油が溜まる一方になってしまうのだ。
ならば脱石油をして、アスファルト以外の材料を使って舗装をすれば、と考えて当然で、最右翼にあるのはコンクリート。コンクリートは耐用年数がアスファルトの4〜5倍(40〜50年)と長いため、頻繁な補修工事が不要で、ライフサイクルコストが安い。また、アスファルトに較べて蓄熱しにくいため、ヒートアイランド現象も抑制できる。表面硬度が高いから、高荷重がかかっても変形しにくく、それによって失われるエネルギーも少ないから、クルマの燃費を低減することができる。主原料の石灰岩は国内で採掘でき、安全保障上の問題もないなど、メリットは多い。
デメリットがあるとすれば、施工期間が長いこと。アスファルトは半日養生すれば使用できるが、コンクリートは実用強度に達するまで、一ヶ月弱かかる。逆に言えば、それさえ許容できれば利用価値は非常に高い、ということだ。
ところが、問題はCO2。主原料となる石灰石の化学式はCaCO3で、これを高温で焼成してCaO(酸化カルシウム)にして使用するから、余ったCO2が生成されてしまい、カーボンニュートラルは実現できない。
そう考えて気付くのは、コンクリートはすでに建造物に多用されているということ。道路の舗装以前に、建造物に使用するコンクリートのCO2をどうにかしなければ、2050年カーボンニュートラルなど実現できるわけがない。それを打開する切り札が、CCSなのである。
そこは当然、経済産業省もコンクリート業界も認識しており、現在は2030年の商用化を目標に、北海道の苫小牧でCCSの実証実験が続けられている。
こうした理由から、すべてのクルマが電動化されても、CCSが実用化できない限り、カーボンニュートラルは夢のまた夢なのだが、逆にこれさえ実現できれば、化石燃料の利用を続けられる可能性さえ出てくる。
たとえば水素を得る手段として、水の電気分解より低コストなのが、メタン(CH4)からの分離だ。メタンは天然ガスの主成分だし、日本近海に豊富に眠るメタンハイドレートも原料になる。あるいは、すでに川崎重工はオーストラリア政府と共同して、利用価値の低い褐炭から水素を取り出し、分離したCO2をCCSで処理するプロジェクトを推進している。
しかもIEA(国際エネルギー機関)のレポートでも、2070年までの累積CO2削減量のうち、15%はCCS(とCCUS=油田に注入して貯留すると同時に石油を押し出す)が担うというシナリオを描いており、世界的に見てもCCSの実現は必須であることがわかる。
ただしCCSができる地質的条件は限られているから、実現したとしても、化石燃料を野放図に使用できるようになるわけではなく、再生可能エネルギーが重要な地位を占め続けるのは間違いない。しかし、再生可能エネルギーだけに頼るのに較べれば、水素は容易に手に入るようになり、FCVでは対応の難しい小さなクルマに水素エンジンを搭載する可能性も開けてくるはずだ。
というわけで、2030年までに首尾良くCCSが商用化されることを、切に期待する。
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