ただし車両本体価格は496万8000円 【試乗記:トヨタ86GR】驚異的なまでのオンザレール感。すべてが調和するよう設計・チューニング・生産できる“匠”の“業”がそこにある
- 2019/05/07
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遠藤正賢
そんな86GRの運転席に収まると、その低い着座位置と包まれ感から、このクルマがセダンやハッチバックをベースとしたものではない、生粋のスポーツカーであることを強く実感する。特にGRの場合は10mmローダウンされ、レカロシートも装着されているため、より一層スポーツカーらしい空間設計を体感しやすくなっているのだろう。
と同時に、この86GRの出自が、2012年2月デビュー当時のカスタマイズベース車「RC」で199万円というプライスタグを提げていたクルマであることも、そのインパネの質感から強く実感させられてしまう。これはいくらアルカンターラをレカロシートに、セーレン製のスエード調表皮「グランリュクス」をインパネやメーターバイザー、ドアトリムに用いてもカバーしきれるものではない。

フラットライド、オンザレール。
サスペンションがしなやかに動き、ボディは路面の凹凸に対してやすやすと動かず、また動いてもすぐに収束し、ドライバーに伝える路面からの入力は最小限。加減速や旋回時の前後上下動も少なくしかもリニアな、シャシー性能が極めて高いクルマはしばしばこのように表現されるが、より近いのは線路の上を走る鉄道になぞらえた後者だろう。
荒れた路面の首都高速道路を相応のペースで走った時はもちろん、タイヤが冷えた状態で一般道をごく低速で流した時でも、下手な高級車が裸足で逃げ出すほど快適な乗り心地を堪能できた。

この驚異的なまでのオンザレール感、バランスの良さは、単に高価な部品を贅沢に採用したり、ボディ剛性をただ上げたりしただけで実現できるものでは決してない。すべての部品がいたずらに自己主張せず調和するよう設計・チューニング・生産できる、自動車メーカーの中でもほんの一握りであろう確かな技術とノウハウを持つ“匠”の集団だからこそなしえる“業”(わざ)であるに違いない。
ただし、フロントへの荷重と旋回速度を上げてロールを深めれば深めるほどリヤの接地感が薄れていくそのハンドリングの味付けは、基本的にベース車と何ら変わらない。絶対的なグリップの限界がベース車より飛躍的に高まっているため、事前に危険を察知できるという点ではありがたいものの、旋回中常に不安がつきまとうという点では疑問符が付く。
なお、マフラー以外はベース車と共通のパワートレインについては、207psという絶対的なパワーにこそシャシー性能との相対比較では物足りなさを感じるもののレスポンスは良く、トルクやパワーの出方もいたってフラット。音質はマフラー+「サウンドクリエータ」からの低音が主体ではあるが決して耳障りではない。
6速MTはストロークが短く重めでソリッドな感触だが、レバー操作やエンゲージの際の手応えはスムーズ。ヒール&トーがしやすいペダル配置とエンジンレスポンスの良さも相まって、この点では世界一と評されるホンダS2000を長年愛車とする筆者でも、充分以上にシフトチェンジを楽しめた。
そんな86GRだが、やはりネックになるのはその絶対的な価格だろう。GRMNより150万円ほど安いとはいえ、ベース車のGT(298万1880円)に対しては約200万円も高価な496万8000円である。今や86全体がそうなりつつあるとはいえ、最早デビュー当初に志していた、クルマ離れした若者を回帰させるための存在から遠くかけ離れたものとなっている。
ベース車プラス200万円の価値は、間違いなくその走りに備わっている。だがそれ以上の、かつ現在500万円で購入できる他の新車に勝る価値があるのかと問われると、自信を持って首を縦に振ることは難しい。そこに86GR、ひいては現在の86が抱える存在意義の危うさが潜んでいる。
【Specifications】
<トヨタ86GR(FR・6速MT)>
全長×全幅×全高:4290×1790×1320(アンテナ含む。ルーフ高は1285)mm ホイールベース:2570mm 車両重量:1240kg エンジン形式:水平対向4気筒DOHC16バルブ直噴 排気量:1998cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:152kW(207ps)/7000rpm 最大トルク:212Nm(21.6kgm)/6400-6800rpm 車両価格:496万8000円
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