歴史が育む至高の移動空間 トヨタ・センチュリーをメルセデス・マイバッハSクラス、ロールスロイス・ファントムと徹底比較!「ライバル車比較インプレッション」
- 2019/06/07
- ニューモデル速報
「長き歴史と発展した自動車文化を持つ三ヵ国、日独英が誇るショーファードリブンの世界観を探る。」すべての性能と機能が、後席に座るパッセンジャーが安全、快適に移動するために考え尽くされ、磨き抜かれるショーファーカーは、それぞれのお国柄やホスピタリティに対する考え方が如実に現れていた。
REPORT●渡辺敏史(WATANABE Satoshi)
PHOTO●藤井元輔(FUJI Motosuke)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)/宮門秀行(MIYAKADO Hiroyuki)
ビジネスシーンにも自然に対応できる秘匿性も併せ持つ
先代50系の登場から数えて21年の2018年。満を持して、センチュリーは60系へと完全刷新された。その半世紀以上の歴史の中で、受け継ぎ守り続けてきた最も大切なことといえば、後席最優先のエンジニアリングを貫くことだ。所有者であれ賓客であれ、主が座るのは前ではなく後ろということがはっきりしている。開発の過程で迷うことがあれば後席本位で決定する。そんな前提で開発されるクルマは世界を見渡しても、今日、本当に数少ない。
そのうちのひとつとして挙げられるのは、ダイムラーの中でも最もラグジュアリーなラインとなる、メルセデス―マイバッハだろう。
02年にその名が復活して以来、ごく一部の例外を除いては一貫してジョーファードリブンを手掛けるこのブランドは、現在Sクラスをベースにロングよりもさらに長い5465㎜の全長に3365㎜のホイールベースをもつモデルを展開。さらにボディを1m以上も長くしたストレッチモデルを、代々のリムジンに充てがわれてきたプルマンの名を携えて受注生産している。
取材に駆り出したS560はメルセデス―マイバッハ(以下マイバッハ)の中でも言ってみればベーシックなモデルとなるわけだが、それでも6ライト化でスクエアな開口型となったリヤドアを開ければ待っているのは、並のSクラスとは異なるゆったりとした空間だ。
後席を大型コンソールでセパレート化して格納テーブルを備えるファーストクラスパッケージは敢えてマイバッハを選ぼうというオーナーであれば迷わず載せるだろう70万円余のオプションだが、革の張り感やクッション材も並みのSクラスより緩やかに身体を包み込むように調律されていることもあり、特徴である可動域の大きいリクライニング機能も出番が多くなるに違いない。
一方で、その後席を最も立てた状態に調整し、センターコンソール側方に収められたテーブルを引き出せば、そこは無理のない姿勢でデータと対峙するビジネススペースにも変貌する。テーブルのサイズは12インチくらいのモバイルラップトップなら載せられるほど大きいところも、そういう用途を考えてつくっている
と伺えるところだ。
それが前席であれ後席であれ、車窓越しに歩行者の視線を感じることは少ない。もちろん見る人が見ればそのサイドシルエットは特別なものだろう。が、Sクラスが当たり前のように走る東京の特殊な地域性を差し引いても、マイバッハは対外的に敢えて目立たないように加飾などの要素を抑えているようにも見える。
でも、恐らく多くのオーナーにとって、これは好都合なことなのだと思う。昼日中の一般的なビジネスの場所においては、一見普通のSクラスのように見えるという、ある種の秘匿性が望まれることは我々のような庶民でも理解しやすい。同じに見えて実は素材が違う時計とか、実は裏地が違うスーツとか、そういう礼式と嗜好を両立したニーズがクルマにもあるということがダイムラーに読めていたとするならば、それは先代マイバッハの経験からくるものかもしれない。
マイバッハの乗り心地はあくまでSクラスの延長線にある。ファントムのように愕然とするほど静かでもないし、時折ランフラットタイヤ越しの細かな突き上げが伝わることもあるが、ビジネスサルーンとしては十二分に上等だ。
むしろ驚くべきはこのロングホイールベースをして殆ど基準車のSクラスと変わらぬ感覚で走れてしまうドライバビリティの高さにあって、運転席に回ってステアリングを握っても、背後に長いものを背負う癖は無に等しい。ドライバーの身になれば普通のクルマを運転する感覚で接しても後席の主に不快なGを伝えることは少ないだろう。或いは週末、主が運転側に回るという場面でも煩わしさはないはずだ。
〈トヨタ・センチュリー〉
V型8気筒DOHC+モーター/4968㏄
最高出力:381㎰/6200rpm[モーター:224㎰]
最大トルク:52.0㎏m/4000rpm[モーター:30.6㎏m]
JC08モード燃費:13.6㎞/ℓ
車両本体価格:1960万円
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