どんな道でもほぼ安全に走れる制御こそ、自動運転化時代に重要となる 【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】ダイナミシストの仕事とは?
- 2019/07/15
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牧野 茂雄

ビークル・ダイナミクス(車両運転性能)領域の研究・開発に取り組んでいる技術者および学識経験者の多くは、日本車のこの領域はいまだに欧州車、とくにドイツ車に及ばないことを認識している。同時に、近年はこの領域に割ける工数とコストが全体的に減っている。コネクテッドなど「わかりやすい商品価値」を訴求する傾向はいまや世界共通である。
TEXT&PHOTO:牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
自動車技術会春季大会に合わせて行なわれるSVD(シニア・ヴィークル・ダイナミシスト)の会合に、今年も参加した。ダイナミシストとは聞き慣れない言葉だが、自動車の運動性分野の研究や開発に携わる人、ダイナミクス+シストという英語であり和製の造語ではない。この会には私が取材を通じて知り合った方々が多い。年に一度、ここでしか会わない方が大半だが、皆さん日夜、自動車の運動性能向上のために努力をされている。
運動性についての考え方やアプローチの流儀はそれぞれであり、研究テーマと開発目標がそのまま流儀である。同時に、サイエンスを探求する大学とテクノロジーとしての実用化を考える企業とは微妙にスタンスが違う。使う言葉も違う。しかし、細かな違いを尊重し合いながらまるめて呑み込むふうのダイナミシストの集いは、私にさまざまな知見を与えてくれる。
ジャーナリストの役割は「比較」であると思う。こちらはこうです。あちらはこうです。違いはここです。これに集中して世の中に情報開示することだ。ただし、人間である以上は好き嫌いがあり、40年近くも取材を重ねた私は、自分なりの流儀を持っている。そのベースはダイナミシストの方々からの言葉であり、早い話が受け売りだ。しかし、多くの方々の言葉を自分なりに噛み砕き、あれこれ組み合わせ、あるいは組み換え、これが自分流の考え方だというものを持つに至った。
気を配らねばならないのは、自分の好き嫌いをあたかも絶対的な価値観による優劣であるかのように勘違いしないことだ。自動車の運動性については物理法則に基づく原理原則があり、これはすべての流儀の上に立つものだと思う。自動車130年の歴史の中で先達が考え、検証し、あるべき方向を見出した原理原則は、ダイナミシストが共有すべき財産である。
私的解釈では、ビークル・ダイナミシストはダイナミクス・サイエンティストとダイナミクス・エンジニアに分かれる。前者はサイエンスを担い、後者はテクノロジーを創造する。両者はいま以上に緊密な連携が必要だと思う。内閣府のSIP(戦略イノベーションプログラム)では自動車用内燃機関研究でサイエンスとテクノロジーの連携が大きな成果を生んだ。熱効率50%超えという成果を「現時点では机上の空論」と言う人も私の周囲にはいるが、すべての始まりは机上論であり、これを現実のものにするのがテクノロジーだ。商品はその先にある。
今年のSVD総会では「2018日本ヴィークル・ダイナミシスト・オブ・ザ・イヤー」の賞状授与式が行なわれた。ビークル・ダイナミクス分野での研究開発成果を讃えるために創設された賞であり、2018年が第1回に当たる。選考は昨年に行なわれ、受賞者はトヨタ自動車先進シャシー開発部第1シャシープロジェクト室主幹の勝山悦生氏である。2018年自動車技術会春季大会での学術講演で発表した『トリプルスカイフック制御による乗り心地の研究』が栄えある第1回受賞である。
世に言うスカイフックダンパーとは、空中に固定したダンパーから車輪を吊り下げればつねに安定した姿勢を保つことができるという理論であり、ばね上共振周波数付近の振動を減衰させる効果を狙っていた。これに対し勝山氏は「動かされた車輪」を制振制御するのではなく、車輪が路面から受ける反力・外乱、駆動・制動および操舵といった車両動作から、ばね上への入力をばね上に設置した加速度センサーだけを使って制御するという理論である。ばね上を制御するためにはばね下の状態を推定する必要があるが、勝山氏はばね上側のセンサーだけで制御する方法を提案した。
トリプルスカイフック制御は、いってみれば従来理論に対するアグレッシブな挑戦である。当然、賛否両論があるだろう。しかし、新しい研究はすべて挑戦から始まる。私はこの理論の発展と深化に期待する。
原理原則に縛られない考え方があってもおかしくない。考え方そのものをはじめから拘束するのはナンセンスだ。年月を生き抜いた原理原則がまったく修正不要なものではなかったという事実は、さまざまな自然科学分野で起きた。ひとつの鍵がパズルを解き、連鎖反応としていろいろなことがわかってくる。ビークル・ダイナミクスにもそういう進化を期待したい。
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