内外装のデザインと走りの軽快感ならCX-8、居住性と悪路走破性ならデリカD:5 < 300km試乗:三菱デリカD:5> 1BOXの不利をものともしない操縦安定性と快適性の高さに脱帽。これはマツダCX-8の強力なライバルだ!
- 2019/08/16
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遠藤正賢
自他共に「唯一無二」と認めるオールラウンドミニバン、三菱デリカD:5が2月、デビュー12年目にして初のフェイスリフトをディーゼル車において実施。外観のみならず走りや機能も大きな変貌を遂げている。その新たなエアロ仕様「アーバンギア」の上級グレード「G-Powerパッケージ」7人乗り仕様に、都内から首都高速道路湾岸線、東京湾アクアライン、館山自動車道を経て千葉県南部の館山市内を周回する、総計約300kmのルートを走行した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、三菱自動車工業
1969年デビューの乗用モデル「デリカコーチ」をルーツに位置付けると五代50年もの歴史を持つ「デリカ」シリーズ。様々なシチュエーションで確実に乗員と荷物を運ぶ「デリバリーカー」の「五代目」(のちにD:2やD:3が発売されると「5」は車格を表す数字に変化しているが)という意味が込められた現行モデルも、2007年1月の発売から早12年が経過している。
それほどに長い歴史を持ちながら、デリカシリーズ、そしてデリカD:5に明確な競合車が現れることはなく、「1BOXミニバンと本格SUVのクロスオーバー」という独自のポジションを維持し、月に1000台前後を販売していた。
そこで三菱が採った方策は、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジ。しかも、従来のデザインを踏襲するガソリン車を廉価モデルと位置付けて継続販売させながら、2012年12月に追加されて以来人気となり、2015年モデル以降は販売の9割超を占めるようになったディーゼル4WD車に、燃費・排ガス・安全規制強化への対応策を盛り込みつつ、基本設計以外のほぼすべてに大規模な変更を施す、というものだった。
その最たるものが、エクステリアデザインだろう。「アウトドア色が強すぎる」として主婦層から敬遠されがちだった傾向への対策として、新世代のフロントデザインコンセプト「アドバンスド・ダイナミックシールド」やマルチLEDヘッドライトを採用。さらにエアロ仕様の「アーバンギア」には専用のメッキグリルやロアスカート、18インチアルミホイールを与えることで、オンロードテイストをさらに強めている。
これにより、三菱の開発陣がコンセプトに掲げる「上質」「洗練」「プレステージ」「フォーマル」「都会的」といった項目は、確かに進化を遂げている。だがその方向性は、マーケティング上は大正解である一方、この手のクルマに乗らない、必要としないユーザーには眉をひそめられる類のもの。
大きなマスを感じさせ、光り物をこれでもかと身に付けたその出で立ちは、分かりやすく高級だが威圧感に満ちており、公道でこのクルマに出くわしたら近寄りたくない、後ろに着かれたら早々に道を譲りたくなる…というのが率直な印象だ。
しかしながらインテリアは、掛け値なしに「上質」「洗練」「プレステージ」「フォーマル」「都会的」なものへと進化している。インパネとドアトリムが一新され、新たに木目調パネルも装着されたことで質感は劇的に向上。
またシートも、1列目はヘッドレストやショルダーサポート、2列目もヘッドレストの大型化で、ホールド性が改善された。
ただし、ステアリングスイッチの文字がアクセサリーONで非常に見づらくなることと、シフトレバーをNポジションより下に入れるとそれにEPB(電動パーキングブレーキ)のスイッチが遮られて操作しにくくなる点は玉に瑕か。
だが走りは、それ以上に進化している。今回の試乗コースは風の直撃を受けやすい高速道路や、荒れていて凹凸も多くカーブも多い一般道など、背が高くスクエアな1BOX形状のデリカD:5には不利な状況が多かったのだが、アクアブリッジでも横風への耐性は望外に高く、かつその際の車内はいたって静かだった。実際に今回の改良ではキャビンのほぼ全周にわたって遮音・吸音対策が強化されており、その恩恵は確実に体感できると言っていい。
また館山市内の一般道でもNVHは非常に少なく、かつロールとヨーの出方も穏やかかつリニア。予想を遥かに上回るレベルで、快適かつ意のままにハンドリングを楽しめた。
デリカD:5は従来より「リブボーンフレーム」と呼ぶ環状骨格構造を採用しており、ボディ剛性は充分に高かったのだが、デザイン変更や歩行者脚部保護基準強化への対応に伴い、フロントエンドの構造を見直すことで、特にフロントまわりのボディ剛性をより一層高めている。
シャシーもフロントサスペンションのスプリング傾斜角を見直してフリクションを約20%減らし、リヤはダンパーのシリンダー径を30mmから32mmに拡大。さらにデュアルピニオンEPSを採用し、4WDにヨーレートフィードバック制御を新たに追加したことが、走りの質感向上につながっているのだろう。
そして、4N14型2.2L直4ディーゼルエンジンは、全車に尿素SCR(選択還元触媒)を搭載し、幅広い領域で排ガス浄化性能を高めつつ、インジェクターを最新世代のものにアップデート。ムービングパーツの重量を総計約17%軽量化し、フリクションも最大27%低減したことに加え、ATを従来の6速から8速に変更しトルク容量も拡大したことで、最大トルク20Nmアップを実現している。
そのおかげで、2t弱もの車重に対し必要充分な加速性能を得るに至ったものの、最新の他社製ディーゼルエンジンと比較すると、特にアイドリング時は振動・ノイズとも大きめ。しかもノーマルモードは事実上のスポーツモードで、エンジン回転を高めに維持したがるうえ変速ショックも大きいのが気になった。
なおECOモードでは、これらがすべて適度に緩和されるうえ、レスポンスの低下も少ないので、基本的には常時こちらで走行するのをオススメしたい。ワインディングでは、MTモードに入れてパドルシフトを駆使すると、加減速のコントロール性が大幅に向上し、俄然走りが楽しくなるので、試してみてほしい。
また8速ATは、1速のギヤ比を従来型6速ATのの4.119から5.250に、トップギヤを0.685から0.673にしたうえで、最終減速比を3.571から3.075へと大幅に高めている。そのため、多段ATに期待されるトルクバンドの維持しやすさ、変速時のトルク抜けの少なさといった恩恵はほぼ受けられない。代わりに実用燃費は良く、今回の行程では14.2km/Lという、WLTC高速道路モード燃費と全く同じ結果が出た。
最後に、改めて思い知らされたのは、1BOXミニバンでしか得られない室内空間の広さ、開放感の高さだ。こればかりは、通常のSUVがどんなに頑張っても、1BOXミニバンには太刀打ちできない。だからこそ、1BOXミニバンの居住性とSUVの悪路走破性を兼ね備えたデリカD:5は、今なおオンリーワンの存在であり続けているのだろう。
この大幅に進化したデリカD:5に唯一対抗しうるのは、ミニバンの代替モデルとして生み出されたマツダCX-8のみ。価格帯・ボディサイズ・性能とも近い両車だが、内外装のデザインと質感、走りの軽快感を優先するならCX-8、居住性と悪路走破性を重視するなら迷わずデリカD:5を選ぶべきである。
【Specifications】
<三菱デリカD:5アーバンギアG-Powerパッケージ7人乗り(F-AWD・8速AT)>
全長×全幅×全高:4800×1795×1875mm ホイールベース:2850mm 車両重量:1940kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:2267cc ボア×ストローク:86.0×97.6mm 圧縮比:14.4 最高出力:107kW(145ps)/3500rpm 最大トルク:380Nm(38.7kgm)/2000rpm WLTCモード平均燃費:12.6km/L 車両価格:420万7680円
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