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連載コラム「酷道を奔り、険道を往く」Vol.11 ひしゃげたガードレールが怖い! もうすぐ走れなくなるかも知れない冠山峠へ『林道冠山線&国道417号線(酷道険道:岐阜県/福井県)』VWポロ

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あまりの険しさゆえに途中から「国道」の名を外された悲運の(?)酷道険道───岐阜県から冠山(かんむりやま)峠を越えて福井県へ通じる国道417号線は、県境近辺で林道冠山線へと名を変える。緊張感はピカイチで、なおかつ絶景も楽しめる。しかし現在この林道の下では、2022年の供用を目指して新しいトンネルが建設中。まだなんとも言えないが、林道冠山線を完全に走破できるチャンスは、そんなに残されていない可能性もあるのだ。2台のフォルクスワーゲン・ポロで、美濃国から越前国へと駆け抜ける。

REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)

岐阜県は酷道険道のメッカ

 岐阜県は山深い。飛騨地方という本州屈指の山岳地帯を抱き、高山、郡上八幡、白川郷、馬籠宿など、昔ながら町並みを今に残す名所旧跡を数多く擁する。

 実際、これらの町は東海北陸道が開通するまでは都市部からのアクセスが困難で、まさに秘境の地といった風情だった。交通整備が進んだ現在、観光客は外国人も含めて激増したが、それでも古き佳き風情を守り続けている。

 そんな岐阜県は、だから酷道険道のメッカでもある。今回で11回目を迎えた当連載だが、これまでの10回で岐阜県が登場したのは2回もある。

 とりわけ第9回で訪れた国道157号線は日本最凶との呼び声が高く、「落ちると死ぬ」の看板があまりに有名で(ただし現在この看板は撤去されてしまったらしい)、道幅の狭さ、路面状態の劣悪さ、ガードレールやカーブミラーがないことにより危険度の高さ、落石の危険性の高さなど、どれを取っても一級品の酷道っぷりだった。

 そんな国道157号線の10kmほど西側を並行して通っているのが今回の舞台である国道417号線である。酷道としての知名度は国道157号線に一歩譲るが、それには理由がある。

 国道157号線は、岐阜県から温見峠を越えて福井県に至るまで、一貫して「国道」であり続ける。

 しかし国道417号線は、県境である冠山峠の前後20数kmほどの区間において「国道」の肩書きが外され、「林道冠山線」と名称が変わってしまうのだ。

 だから厳密に言えば冠山峠を越える辺りは酷道ではない。一般的に酷道とは、国道にも関わらず狭隘で急峻で劣悪な道路を、「国道」の読みに掛けて呼んでいるからだ。

 よって林道冠山線は、ワースト酷道などを考える際に、その俎上に載せてもらえないことがほとんどなのだ。

 ただ、それだけに冠山線にはより期待が高まる。なにしろ、特定の区間だけわざわざ国道の名を外されているのだから。

 ちなみに当連載は「酷道を奔り、険道を往く」と銘打たれているものの、その対象を国道や県道に限定しているわけではない。日本ならではのクネクネ道をポジティブに楽しもうという主旨であることをご理解いただきたい。

 関 広見(Seki-Hiromi)という女性の名前みたいなインターチェンジで東海環状自動車道を降り、国道418号線に入る。余談だがこの高速道路には、五斗蒔(Gotomaki)や富加 関(Tomika-Seki)など、アルファベット表記が女性の名前にしか見えないインターチェンジが続く。

 国道418号線を北西に進むと、ほどなくして国道157号線と合流する。このまま進めば「落ちると死ぬ」の温見峠だが、すぐさま左に逸れて県道270号線を西に進む。

 この県道もなかなかの険道っぷりで、ここを目的地にしてもよかったと思うほど。今回は先を急いだが、いずれこの道を当連載で取り上げることがあるかもしれない。

 県道270号線を走ること30分弱、15kmほど進んだところで目前に徳山湖の雄大な景色が広がる。それと同時に現れるのが国道417号だ。丁字路を右折し、冠山峠を目指す。

 この国道417号線だが、徳山湖に沿って走っているうちはとにかく道が真っ直ぐで路面状況もよい。真新しいトンネルが続き、とてもこの先が酷道険道に続いているとは信じがたい。

 実は現在、国道417号線の岐阜県と福井県の県境を跨ぐ区間は「冠山峠道路」の開通を目指して大規模な工事が進められており、早ければ2022年には共用が開始されるという。その際、晴れて全線を通じて国道を名乗ることになるのだ。

 そんな具合だから、徳山湖沿いに4本(県道270号線との交差点より南側にも我々が通ってこなかったトンネルが5本あり、2019年9月現在で計9本の新トンネルがある)もある真っさらなトンネルを走るうちに「このまま福井県側まで抜けてしまうのではないか? 林道は閉鎖されてしまったのではないか?」といった不安が募ってくる。筆者がここに来るのは二度目だが、前回から2年ほど経過している分、当たり前だが工事は進んでいるわけで、不安の度合いは高かった。

 そして4本目の、とりわけ長いトンネルを抜けると、前方に警備員が仁王立ちしているのが見えてくる。

 Uターンさせられるのでは? そんな不安に駆られたのも前回と同じだが、無事に左の脇道に誘導されてひと安心。この脇道のように思えた道こそ、ほかでもない林道冠山線である。

 酷道険道の例に漏れず、林道冠山線の道幅は狭い。つい先ほどまで道幅が3〜4倍はあろうかという新しいバイパス道路を走っていたことも相まって、コンパクトなフォルクスワーゲン・ポロでも左右ギリギリいっぱいな感覚だ。すれ違いは基本的に不可能と思っていたほうが正しい。対向車が来たら、どこか広い場所までどちらかが後退する必要がある。

 とはいえ、酷道険道に慣れている人には説明不要だろうが、どんなに狭隘なクネクネ道でも最終的には必ずすれ違える。市街地とは異なり、酷道険道では極低速での離合にさえ生命の危険が伴う。そんな状況下での人間の阿吽の呼吸というものは実にすばらしい。街中の狭い生活道路などでのすれ違いでは、「なんでそんなスピードで突っ込んでくるんだ?」とか「もう少し向こうに寄ったらどうなんだ?」とか「そっちがあと数メートル手前で待機すれば済んだ話なのに」とか、まぁいろいろ腹の立つ場面も少なくないが、一方で酷道険道でのすれ違いで不快な思いをしたことは、少なくとも筆者は一度もない。

 しばし酷道険道らしく薄暗い区間が続く。路面はそれほど劣悪ではないが、穴が開いたような荒れた箇所が冠山峠までに二、三度ほど見受けられたから注意が必要だ。

 そして、林道に入ってから8kmほど走った辺りからだろうか。それまでのうっそうとした林を抜けて、突然、目の前に眺望が開ける。右手に冠山をはじめ、能郷白山、金草岳といった山々を望み、その狭間にある険しい峡谷の眺めも圧巻だ。

 こうした林道や酷道険道から、これほどの絶景が望めるのは実は珍しい。

 眺望がすばらしければ、当然ながらそこを観光で訪れるクルマは多くなり、観光バスも通るようになる。自ずと道は拡幅され、やがて林道でも酷道険道でもなくなる。眺望が楽しめないからこそ、林道、酷道険道のまま維持されているのだ。

 もちろん、そもそもクルマが通れない登山道となればまた話は変わってくるが、自動車の通行を前提とした酷道険道が酷道険道のままであり続けているのは、つまりはそんな理由に依る部分も少なくないのだ。

 そんなわけで、これだけの絶景をガードレールなしに楽しめる機会もなかなかない。

 クルマの撮影というものは、ある意味でガードレールとの戦いでもある。

 一般的なガードレールはボンネットからヘッドランプ、そしてバンパーにかけた辺りの高さにある。よって、どんなに景色がすばらしくても、クルマの高さに合わせてカメラを構えると、ガードレールが景色を隠してしまう。

 また、絶景のなかを走るシーンを撮ろうと遠くからカメラを向けると、ガードレールがクルマの姿の大部分を隠してしまう。

 その点、林道冠山線は酷道険道らしく、ガードレールがほとんどない。だから今回の記事でみなさんがご覧になっているポロの雄姿は、取り立てて珍しいものではないように思えても、実はなかなか見たことのないはずのものである。少なくとも日本では、あるいは本州では、自動車が通行可能かつガードレールがなく、これだけの険しい山々のなかで絶景を望める道は稀有な存在と言って間違いない。

 もちろん、狭くてガードレールのない道を雄大な峡谷ギリギリに走るわけだから、危険度はマックスだ。こんな状況で油断する人などいないだろうけれど、景色に見とれて運転がおろそかにならないように気を引き締めたい。

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