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連載コラム「酷道を奔り、険道を往く」Vol.8 酷道を知りたければ299を走れ!『酷道にして王道──国道299号線(酷道険道:埼玉県/長野県)』VWザ・ビートル

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確かに険しい。だが、必ず走り抜けられる。
距離は長いが、それだけに得られる達成感も大きい。
首都圏からアプローチしやすく、行き着く先は風光明媚な観光地だ。
関東から中部にかけ、屈指の酷道として知られる国道299号線───。
酷道ならではの魅力に満ち溢れていながら、取っつきやすさも兼ね備えている。
酷道険道の「王道」を、VWザ・ビートルで走破する。

TEXT:小泉建治(KOIZUMI Kenji) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

酷道の匂いがする

 関東甲信地方に住む者にとって、国道299号線は酷道の言わば王道だ。埼玉県入間市と長野県茅野市という、遠く掛け離れた街が一本の国道でつながっていると知ったとき......そしてそのルートが、中央道と関越道と上信越道に囲まれた広大な高速道路空白地帯を貫いていると知ったとき、誰もがその道を走破したいという欲望にかられるのである。

 そもそも、首都圏から茅野に行こうと思えば中央道を使うのが当たり前である。そこをあえて一般道で、と言うなら国道20号線、いわゆる甲州街道だろう。

 では視点を変えて、首都圏から佐久に行く場合はどうだろう。関越道&上信越道は当然だが、一般道ならば国道18号線、つまり中山道が古(いにしえ)からの定番だ。

 そして今となっては整備が進んだ国道254号線という選択肢もある。どちらも南東から北西に向け、地図で言う右側に膨らむ形で弓なりに伸びているが、国道254号線のほうが内側を走るために距離が近く、所要時間も短いだろう。

 ところがである。そんな国道254号線のさらに内側を、スコーンと直線的に伸びているのが国道299号線なのである。だが「なんだ、こんなにショートカットできる道があるじゃないか」と思うのは早計もいいところで、多くの人は地図を凝視して、あるいはグーグルマップを拡大して、それがショートカットという言葉からかけ離れた道であることにすぐに気づくのだ。曰く「こんなクネクネ道、とても走れたもんじゃないだろう」と。

 関東近郊ながら、これだけ高速道路空白地帯が広がっているということは、つまりそこに高速道路を通せないほどの険しい山々が連なっているからであろうと、ちょっと考えれば想像がつく。だから多くのドライバーは、そこでいやな予感を覚えるわけだ。「これは酷道の匂いがする......」

 さらに地図をよくよく見ると、今度はその国道299号線が、佐久穂を過ぎると南西に向きを変え、八ヶ岳やビーナスラインといった観光エリアに接続していることがわかる。

 急峻で狭隘な山岳路を這々の体で走り抜けた先に、風光明媚なリゾート地が待っている。これは酷道の理想形ではないか。

 そんなわけで今回のお題は、酷道界における関東甲信越の代表格───国道299号線の完全走破である。

三歩進んで二歩下がる

 圏央道を入間ICで降り、入間市駅からスタートする。飯能市内まではいわゆる郊外の幹線道路に過ぎず風情もへったくれもないが、高麗駅の手前から西武池袋線と並行して走り始めると、徐々に山あいの観光道路の様相を呈してくる。

 ちなみにこの辺りは、西武池袋線沿線で育った筆者が小学生だった頃の遠足の行き先の定番だった。天覧山、巾着田、高麗川......、昨日のことはすぐに忘れても、あの頃の楽しい思い出はなぜか鮮明に覚えているのはみんな同じだろう。

 秩父まで国道299号線はずっと西武池袋線および秩父線と並行する。吾野を越えた辺りから山深さを増していくが、センターラインのある整備された二車線道路で、まったくもって酷道の気配はない。取材したのは平日だったが、週末は交通量もかなり多く、思いのままに走りを楽しむのは難しいだろう。

 山深くなりつつあったはずだが、秩父が近づくにつれて再び沿道の建物などが増えていき、市内に入ると見事に活気のある地方都市となる。とにかく人もクルマも多い。しかし市の中心地を過ぎるとすぐさま沿道の緑が深くなり、国道299号線はちょっとしたワインディングロードとなる。

 いよいよこの先に酷道が待っているんだなという期待と不安が高まる。と思いきや、小鹿野町に入ると、またしてもコンビニやガソリンスタンドやチェーンの飲食店などでけっこうな賑わいとなる。なんなんだ、この三歩進んで二歩下がる感......。なんて、実は以前にもバイクで国道299号線を走破しているので知ってはいたのだが、何度通っても同じ思いである。

 だが、もったいぶりもここまで。小鹿野町を過ぎ、群馬県との県境が近づいてくると、急に、本当に急に、ググ〜ッと道幅が狭くなり、センターラインは消え、きついカーブが連続し、一気に酷道へと様変わりするのだ。

 何度かこの連載の撮影をお願いしているHカメラマンも、タイトな道が視界に入った瞬間に「おおおおおっ! 急に来たなオイ」と、驚きとも喜びともとれる声を上げた。いよいよ“酷道299”の始まりである。

今回の旅の伴侶は、直列4気筒1.2ℓターボに7速DCTを組み合わせたザ・ビートル デザインだ。とかく外観ばかりが注目されがちなザ・ビートルだが、こうした過酷な環境下でドライブを続けると、優れたドライバビリティや取り回しの良さなど、基本設計の真面目さがひしひしと伝わってくる。

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