連載コラム「酷道を奔り、険道を往く」Vol.10 関東屈指のロングダートを制覇せよ! 秋鹿大影林道&万沢林道(酷道 険道 未舗装路:群馬県)スズキ・ジムニー&ジムニーシエラ
- 2019/08/17
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MotorFan編集部 小泉 建治
「酷道」や「険道」に溢れる我が国でも、やはり究極を求めていけば「未舗装林道」に辿り着く。とはいえ舗装化が進み、とりわけ関東では未舗装の林道に巡り会う機会も珍しくなってきた。スズキ・ジムニーで本州有数のロングダートを走る。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
日本はほぼすべて山の中である
「木曽路はすべて山の中である」とは島崎藤村の「夜明け前」の有名な書き出しであるが、実際のところ「日本はほぼすべて山の中である」と言ってもあながち間違いではない。
日本の国土の7割は山岳地帯なのだ。よって、自ずと急峻で狭隘な道も多くなる。
高速道路やバイパスが整備されているように思えても、それは3割たらずの平野部に集中しているにすぎない。そこから一歩踏み出せば、我が国には「酷道」や「険道」が溢れているのだ。
言うまでもなく酷道とは国道を、険道とは県道を捩った言葉である。国道や県道でありながら道幅が狭く、路面状況も劣悪な道を、揶揄しつつもどこか親しみを込めて酷道や険道を呼ぶのである。
とはいえ当連載は、とくに対象を国道や県道に限定しているわけではない。日本が世界に誇るクネクネ道をポジティブに楽しもうという企画であるとご理解いただきたい。
そんなクネクネ道のなかでも、究極の存在は未舗装の林道ということになるだろう。
舗装化が進むなか、関東屈指のロングダートとして名を馳せる秋鹿大影林道と万沢林道が今回の舞台である。
群馬県は、関東のなかでも比較的ダート林道が残されているエリアである。最も未舗装区間の距離が長いのは栗原川林道の39kmだ。
一方、秋鹿大影林道は13km、万沢林道は21kmだが、この2本は僅かな国道区間をはさんで近接しており、つなげれば34kmにもなる。2本の林道の間にある四万湖と四万温泉にも興味があったため、今回はこちらを選んだ。月夜野から草津にかけて東西に延びる秋鹿大影林道と万沢林道を東側からアプローチすることにする。
関越自動車道を月夜野インターチェンジで降り、国道17号線を西に向かう。布施交差点で県道53号線に左折し、そのまま須川川沿いに走る。ほどなくして左に大きくカーブを描きながら須川川と離れそうになるところ右折し、あくまで須川川沿いを西に針路を取り続けると、突如として道がググググーッと3分の1くらいの幅に狭まり、未舗装路になる。
フツーなら「おっと間違えた」と、引き返すところだ。
いよいよ秋鹿大影林道の始まりである。
それにしても狭い。今回の旅の伴侶は日本が世界に誇る最強の林道エクスプレス、「ジムニー」と「ジムニーシエラ」だが、軽自動車のジムニーでもギリギリで、全幅が170mm大きいジムニーシエラは路肩からはみ出てしまっているような感覚だ。
こんな狭い未舗装路が、この先に13kmも続いているとはとても思えない。ちょっと行ったところに何かの施設があるか、あるいは何もないか、いずれにせよすぐに行き止まりになっているような気配である。
ただ、この狭さが思わぬ効用を生んでいる。事前に調べて知ったのだが、秋鹿大影林道も万沢林道も、東に行くにつれて狭く険しくなるらしい。だから西からアプローチすれば最初は簡単で、慣れるのに伴って難易度も上がっていくということになる。
だが、初めてこの林道を走る場合は東からアプローチした方がいい。東側の難易度が高いということは、この林道を走り切るスキルのないドライバーや物理的に通り抜けるのが無理なクルマは、最初にふるいに掛けてもらえるのだ。これが、延々と何kmも走り続けた先で進退窮まってしまったら目も当てられない。
逆に言えば、東側の数kmを切り抜けられれば、最後まで走破することができる。そういうことだ。
狭い上にもうひとつ注意しなければならないのは、路面がガレていて、尖った石や岩が多いことだ。パンクを避けるためには、とにかく速度を抑えること。そしてゴツゴツした岩を避けることだ。避けるといっても道幅が狭いため、ラインの選択肢などほぼないに等しいが、気づかずに勢いよく乗り越えてしまうのは厳禁である。
ちなみに伝説の鉄人ライダー、賀曽利 隆さんが作成した「未舗装林道リスト」らしきものを何かの雑誌で見た記憶があるのだが、それによれば秋鹿大影林道は満点の「三つ星」だった。鉄人カソリをして最高難易度と言わしめる秋鹿大影林道……しかも賀曽利さんの愛機はオフロード用バイクである。ジムニーとはいえクルマは幅もあるし、大丈夫か、我々?
しかし鉄人カソリが難しいと仰るのならば、もう見栄も恥もない。手慣れたフリをして無理をすることなく、素人は素人らしくゆっくり慎重に行けばいいだけだ。
だが、そもそも見栄など張る場面がないことにすぐに気づく。
対向車も後続車も、まったくいないのだ。こんな狭い道で対向車が来たらどうするのだろう、とは思いつつも、来る気配が微塵もないから、実はそんなに心配にはならない。
一回だけ、撮影のために停止していたら後方から一台のクルマがやってきたが、この林道を管理しているであろう林野庁の車両だった。結局、この後に走る万沢林道を含め、今回の林道ドライブで出会ったクルマはこの一台だけだった。
ただ、対向車が来ないからといって油断したり、安心して飛ばしたりできる状況ではないことくらい、みなさんも写真をご覧になってご理解いただいているだろう。
狭隘な道幅と見通しの悪いカーブによって、出せる速度はせいぜい10〜20km/hほど。路肩が崩れそうな箇所も多々あり、そんな場面では徒歩よりも遅い速度でジワジワと前進せざるをえなくなる。
まぁそれにしても、こうした極限状況下でのジムニーおよびジムニーシエラの頼もしさといったらない。およそ、クルマが通ったであろう形跡が確認できるような道であれば、ジムニーで通れないはずがない。ジムニーで通れなければ、ほかのクルマで通れたはずがないのだ。
数回、汚泥の乗った急坂やツルツルとした岩場のアップダウンでトランスファーを4L(4WD低速)に入れ、ヒルディセントコントロールもオンにしてみた。徒歩でも足元がおぼつかないような状況だが、ジムニーはのっしのっしと歩を進める。
ただ、一応メディアとしてデモカーを借りているから試してみただけで、今回は全行程において2H(RWD)や4H(4WD高速)があればこと足りた。高難易度の未舗装路とはいえ、林道は林“道”である。4Lやヒルディセントコントロールは、“道”ではないところでようやく出番が回ってくるのだろう。
市井のSUVとは、遺伝子レベルからして次元が違う。
とりわけ、伝統の3リンクリジッドアクスル式サスペンションがもたらす「どれだけサスペンションがストロークしても対地クリアランスが変動しない」というアドバンテージと、それによってドライバーが得られる安心感がこの上ない。
高い悪路走破性はもちろんだが、それをドライバーが「確信をもって引き出せる」ところにジムニーの強さがあるのだろう。
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