〈試乗記:日産NV350キャラバン〉ハイエースだけじゃない! プロや趣味人のための、もうひとつの選択肢
- 2019/12/02
- ニューモデル速報
アラウンドビューモニターの採用や自動ブレーキの標準装備化。LEDヘッドライトの設定……いわば「乗用車的」な変更点が目に付く今回の改良。確かに趣味のために使うユーザーには福音となるものばかり。だがそれは、あくまでもこのクルマ本来の役目である、プロユースを大前提とした改良点なのだ。
REPORT●高平高輝(TAKAHIRA Koki)
PHOTO●井上 誠(INOUE Makoto)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本稿は2017年7月発売の「新型VV350キャラバンのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
「働くクルマ」だからこそ充実させたい装備を搭載
夕闇迫る高速道路の追い越し車線を、どこか必死の気配を漂わせながらひた走るワンボックスのバン。上司の言いつけで急ぎ会社に戻って日報を提出しなければならないのか、あるいはお得意様の急な呼び出しに応えて駆けつける途上か、はたまた娘の誕生会に遅れそうなオトーさんなのかは知らないが、いずれにしてもそんなバン、たいていは白いキャブオーバーバンかライトバンが懸命に急ぐ姿は、当たり前になり過ぎて誰も気にも留めないけれど、実は日本の基礎を支える日常風景である。そんなクルマが迫ってきたら、お疲れさん、と心の中で呟いて喜んで道を譲る。急ぐ人には理由があり、働く人はお互い様である。そして気を付けて、と思う。急ぐ気持ちはわかるが大分年季が入ったそのクルマで無理は禁物。荷物と人を積むのがバンの役目であって、他人よりスピードを出すことが目的ではないからだ。
そんな働くクルマの代名詞が日産キャラバンである。キャラバンは、宿命のライバルであるハイエースともう50年近くも競い合いながら、日本を支えてきたコマーシャルバンの代表的存在である。2012年に「NV350キャラバン」という名前とともにフルモデルチェンジした現行型は、迫力を増したフロントグリルなどの外観だけでなく、インテリジェントキーとプッシュボタン式スターターなどを装備し(キャブオーバーバンでは初めてだった)利便性を高めたおかげで従来型より販売台数を伸ばし、強敵ハイエースにジリジリと迫っているという。
今回のマイナーチェンジでは、いわゆる緊急ブレーキのインテリジェントエマージェンシーブレーキを標準装備化するなど、さらに機能性と安全性を向上させ、また現在の日産のファミリーフェイスであるVモーショングリルを採用、LEDヘッドライトも設定し、よりクリーンで迫力のある外観に一新されている。
かつては商用のバンのみならず乗用のワゴン(現在も送迎車用途のワゴンは存在する)も用意されていたが、多人数を乗せるためのいわゆるミニバン(エルグランドのデビューは97年)が登場した後はバンが中心である。趣味やスポーツのために、あるいはキャンパーのベース車としてプライベートで使うユーザーも少なくないが、基本はあくまでコマーシャルユースが第一、仕事で使う際の実用性、機能性そして安全性を最優先に企画されたクルマである。
とはいえ、以前は商用車だから、仕事で使うクルマだからということで、安全快適装備の面ではなおざりにされていたのが実情だ。コスト重視というのはもちろん理解できるけれど、仕事で乗る人ほど走行距離は多く、当たり前だが事故やトラブルの可能性も高くなるはずなのに、プロだから、慣れているからということを理由に後回しにされがちだった。本来万一のアクシデントを可能な限り防止するためのセーフティネットとしての安全装備は、仕事で使う人にも遊びで使う人にも公平に与えられなければならないはずだが、正直言ってないがしろにされてきたのである。人手不足だ、働き方改革だと世の中で言われる割には、本当に現場で働くドライバーのことを考えているようには見えない。
そんな風潮に風穴を開けたのが日産だ。今回のマイナーチェンジでバン全車に標準装備されたエマージェンシーブレーキは、実は16年初頭に一部車種にスタビリティコントロールのVDC及びヒルスタートアシストとともにエマージェンシーブレーキパッケージとして設定したもの(小型商用バンとしては初採用)。同年の末にはパッケージではなく標準装備化、そして今回バン全車に標準装備が拡大されることになった。
乗用車ではすでに一般的になっている緊急ブレーキはカメラやレーダーセンサーで前走車を検知して、衝突の可能性がある場合にドライバーに警告を発するとともにできるだけ衝突を回避するためにブレーキをかけるというドライバー支援システムだ。キャラバンの機構はミリ波レーダーを使用するもので、約5㎞ /h以上で作動し、停止車両に対しては80㎞/hまで、また30㎞/h以下では衝突回避能力があるという。
もちろん言うまでもないが、これが備わっていれば100%追突を避けられるものではない。また歩行者や自転車は検知しない。そもそもこの種のバンは荷物の積載状態によっても違いがあるから過信は禁物だが、それでもほんの一瞬、注意力が散漫になって前のクルマに近づき過ぎた時、警報音とブレーキでドライバーをアシストしてくれるシステムは、働く大人たちにとっての大きな福音である。睡眠不足や疲れで注意力が落ちているような場合は運転してはいけない建前だが、それは一部の大手の企業でのみ可能なことであり、現実的に中小企業の社員や個人事業主に寝不足だからと言って代わりはいない。疲れたからといって約束の時間に遅れて済むわけがない。働く大人なら誰もが共感してくれるはずだが、エマージェンシーブレーキはこのようなバンにこそ必要なものなのである。「働き方改革」を言うなら、働く人が乗る働くクルマも同様に改革しなければならない。
プロが欲する性能には妥協なく応えるのが大前提
キャブオーバー型バンは限られたサイズの中でいかに実用性、機能性を確保するかを追求したクルマであり、合目的的ということではフォーミュラカーやスポーツカー、あるいはダンプトラックと同じぐらいその道において高度に研ぎ澄まされたものだ。NV350にもスーパーロングやワイドボディなど幅広い車種が用意されているものの、基本はいわゆる5ナンバー枠いっぱいの寸法をはみ出さず、どれだけ多くの荷物を積むことができるか、ついでに人も乗せられるかが最重要の課題である。昭和35年から長く続いた全長×全幅×全高=4.7×1.7×2.0m未満という5ナンバー(小型車)枠は、小型ハッチバックの代表であるVWゴルフさえも今や全幅1800㎜で3ナンバー登録であることを考えると、制度上ではほとんど有名無実のものになっていると言える。だが、長く運用されたことで社会のインフラとして根付いており、現実の街中での使いやすさ、利便性には大きく影響する。駐車スペースなど様々なものがこの数字を基準としており、少しでもその枠を超えると途端に扱いにくい場面に遭遇し、ユーザーから苦情がでるのだという。 それゆえ、大きくマッシブに見えるキャラバンだが、全幅は1695㎜ときっちり1700㎜以下に収まっているのだ。一方そのせいでパッケージングに苦労するのは自明の理。荷室を大きく取るためにドライバーはエンジンとタイヤの上に座るという、本来自動車の運動性能を考えればまことに無理矢理な配置を余儀なくされている。
当然エンジンの振動・騒音もダイレクトに伝わってくるし、サスペンションにスペースを割く余裕もないので相変わらずフロントはトーションバースプリングによるダブルウイッシュボーン、リヤはリーフリジッドである。その割には乗り心地も直進性もまず不満のないレベルに仕上げているのは、長年の苦心の積み重ねによるものだろう。ただし、重心の高さは否めないから(荷物積載状態によっても極端に変化する)、VDC(スタビリティコントロール)が装備されるのは非常に心強い。これもまた運転手が乱暴な運転をしなければいい、で済まされるものではなく、万一の際の緊急回避を考えればこうしたバンにこそ必要である。
パワートレーンに関しては従来と変更はない。130㎰と18.1㎏mを生み出す2.0ℓ4気筒ガソリン、同じく2.5ℓガソリン(147㎰、21.7㎏m)、そして129㎰と36.3㎏mを発生する2.5ℓ4気筒ディーゼルターボの種類である。ディーゼルは最新の乗用車用ディーゼルユニットに比べれば、振動・ノイズともに古い世代に属することは明白だが、1400rpmから最大トルクを生み出してくれるおかげで、よりスムーズで静かだが線の細いガソリンユニットよりも扱いやすいことは間違いない。ノイズに耳をふさいで、ディーゼルにするか悩みどころだろう。走行距離が多いなら燃費(と燃料代)の差も大きい。
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