火曜カーデザイン特集:京セラ・モアイのデザインを読み解いてみる 京セラのコンセプトカー「モアイ」に見る新たな道
- 2020/10/06
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CAR STYLING編集部 松永 大演
京セラから未来への提案となるコンセプトカーが発表された。京セラは2年前にもコンセプトカーを提案しており、これが2代目となる。京セラの持つテクノロジーをインテリアに応用したトライアルだが、ここでは興味深いエクステリアについても見ていこう。
そのデザインの狙いを考える
一見レトロなデザインを纏う、京セラのコンセプトカーがモアイ。京セラは多分野での製品開発を行なう企業で、自動車用部品も多く扱っている。以前はいすゞ・ジェミニをベースにセラミックエンジンの開発も行ない、当時のセラミック技術は現在の京セラの屋台骨のひとつにもなっている。
そして同社は、2018年にもコンセプトカーを発表している。初代モデルはトミーカイラZZをベースとし、インパネ周りの提案モデルとなっていた。そして今回登場したのが、京セラとして2代目のコンセプトカーとなる。
今回のコンセプトカーは、一歩進んだ未来のコクピットを提案。前回とは大きく異なり、エクステリアも含めたすべてが完全なオリジナルとなる。新たな提案が、こうした完全オリジナルモデルとして結実したともいえる。
京セラでは「自動運転、MaaS (Mobility as a Service)の普及が進む中で、車室内空間の重要性に着目。驚きと快適をもたらす、未来のコクピットを提案した」として、この自動運転車「モアイ」が発表された。
ここではそのデザインについて見ていきたいが、その前に主な採用技術について紹介しておこう。
今回のメイン技術となるのが、光学迷彩技術だ。あたかも物質を透過してその先の景色が見えるようにしたダッシュボードを採用。技術的協働を行なったのは東京大学・先端技術センターの稲見昌彦教授。ダッシュボードに微細なビーズ敷き詰めたような再帰性反射材(入射された光をその方向に反射する素材)を用いることで、ダッシュボードの先にある映像をリアルタイムで投影させている。これによって、あたかもダッシュボードが透明になったように見える技術だ。
ピラーに液晶画面を装備して死角部分を投影するアイデアをコンセプトカーに搭載したり、中央のモニターにノーズ先端部分やフロア下のフロントタイヤ付近の映像を映し出す技術の製品化はすでに発表され実用化されたものもある。しかし、全域に表示を前提としたダッシュボードのアイデアはなかった。また、この面にすべての情報、操作系をバーチャル3Dの形で表示するという。
また今回のモデルは、インテリアに京セラのオリジナル技術をはじめとした装備が採用されている。
空中ディスプレイは、「モビすけ」と呼ばれるキャラクターがダッシュボード上の空間に浮かび上がる投影技術。対話型の操作、案内を実現する。
LED照明CERAFPHIC(セラフィック)は、光スペクトルのカスタマイズが可能な技術でLEDでは難しかった繊細な調光が可能となり、ルーフがありながらも朝夕の自然光を車室内で作り出すことができる。
「京都オパール」宝飾は、京セラ製人工オパールを用いたもので、宝飾というこれまで車に採用されなかった素材を用いた。
触感リアクション技術としては、これも京セラ独自技術のHAPTIVITY(ハプティビティ)をダッシュボード面に採用。バーチャルで表示されたスイッチを操作する際に、あたかも物理スイッチを押したようなリアクションを感じられるものだ。
スピーカーは、ピエゾ素子の振動を利用するもので、ダッシュボードに内蔵したものは音楽などの再生に用い、ヘッドレストに装備したものはサウンドの他にモビすけのインフォメーションなどを伝達する。
またアロマ芳香器は、5種類の香りを噴射するもので気分転換などを嗅覚によって喚起するものだ。この技術はフランス車などをはじめとして一部で採用されているが、多種類を使い分けるのが特徴だ。
こうした装備によって、人間の五感のうちの四つの感覚に作用するものとなっているのが大きな注目点だ。
京セラ初の試みとなるエクステリアの開発
そしてこのデザイン・クリエイションを担当したのが、フォートマーレイ(Fortmarei)の石丸竜平氏。ミラノ工科大学、IED (Istituto Europeo di Design)ヨーロッパデザイン学院, 本拠ミラノ) で学び、GLMのチーフデザイナーとなったが、その後独立してデザインオフィスを設立した。
エクステリアを見たときにまず感じるのが、その懐かしさだ。しかし、途中でおやっと思うことで、単なるリスペクトではないことを実感する。様々な面の流れのなかで感じられるのは、優しく流れていく面が、途中で巻き込まれるようなインバース面と呼ばれる凹みに転じる。
検討スケッチを見ると、その考え方がわかる。ここで参考として描かれているのは、左上にチシタリア202 (1947年)。今の視点で見ればごく普通の車にも見えるが、この車は世界で初めてフェンダーをボディと一体化した車。現代の自動車デザインの基礎ともなるデザインだ。
その下にはシトロエン2CV (1949年) とDS19 (1955年) が描かれる。この2車によって、独立したフェンダーがなくなる過程でどのような進化があったのか、を知ることができる。しかもDSは当時、極めて前衛的なモデルとして大人気を得た。
そんな中で、車のボディとは何なのか? 車の危険な部分を保護する、隠す、という目的で採用されてきたカウルやサイクルフェンダーが、一体化したときに何が目的となったのか。
右上と右中の2点のスケッチは、まずはルーツのアイデアからできるだけ合理的に、余分な空間を持たずに一体化。最新造形の灯体を外付けすることで、異次元感の表現にトライ。ある意味、人がウエラブルの通信デバイスを身につけたようなイメージか。さらに、時代進化分のシェイプアップ=現代技術により進化した面の豊かさを加味。
そして右下のスケッチが、まだクラシカルで単調なスケッチに、光のリフレクション(反射)の新しさを加えている。それがインバース面へと転じる造形テーマだ。
実車にはこのスケッチが、忠実に再現されている。
しかしながら、このインバース面をサイドウインドウに採用することには興味深い効果がある。ウインドウを下げるためにはかなりの工夫がいるが、この造形によって豊かなボディサイドの面を受けた自然な造形を作りながらも、広い頭上空間を両立することができる。イメージ的にはコンパクトなキャビンに見えながら、その実、ゆったりとした空間を得ることが可能だ。またルーフやフロントウインドウも上端を前進させた個性的な造形となっている。
さらにダッシュボードに映像を映し出すために、パッセンジャーの視点に近づけた位置(天井部分)に映像を投影する装置が必要となるが、その空間を自然体のなかで確保できたのも、この造形によるところが大きい。
そして気になるのが、フロントの造形だろう。こちらもインバース面との融合が織りなす独特の形状だが、むしろ当たり前の形で登場しなかったことに大きなインパクトを感じる。フロントグリルは、様々な伝統的なメーカーが苦心しながら長年を経て造形をまとめてきた。その点はレクサスも同様だ。そんななかで、上下2つのツイン・インテークというようなテーマを打ち出したあたりは興味深い。今後の京セラのコンセプトカーでどのように進化するのか、これからどのようなバランスを見出していくのか期待も大きくなる。
さらにインテークに挟まれたセンター部分の造形は、左右のフェンダーに流れていくような造形。単なるインテークの分割点ではなく、ボディ全体の起点出るとみるならば、その責任は重要だ。
ドアを開け室内を見れば、ソファーのような造形のシート。また大きなダッシュボードがそのまま表示部となる構成。外部の景色を投影するため、できるだけアイポイントは固定しておきたいところ。それもあり、ヘッドレストを固定式としてシートを動かすことで体型や姿勢を合わせる。ここに前述のような最新の技術が採用されているという仕立てだ。
一見するとクラシカルながら、原点を見直したともいえるのが今回のモアイだ。原点からあらたなトライアルを始めることで、今までとは異なる別の道が見えてくるのではないだろうか。
「インパネが透けて前方が見える!」京セラ、新コンセプトカー「Moeye(モアイ)」を発表 京セラ独自のデバイスが満載!
京セラ株式会社は、当社独自のデバイスを数多く搭載し、コンセプトカー第2弾となる「Moeye(モアイ)」を開発したと発表した。
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