Honda e ”街乗りベスト”の看板に偽りなし。「現代に蘇るN360でF1なきあとのホンダらしさを引き継いでいってもらいたい」
- 2020/10/10
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瀨在 仁志
ホンダのコンパクトEV、Honda eは、その愛らしいルックスの下に、最近のホンダに、やや欠けていた”これぞホンダ!”と思わせる走りの実力と個性が詰まっている。走りの評価で定評のあるジャーナリスト、瀬在仁志がHonda eを試した。
TEXT◎瀬在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO◎Motor-Fan
ちょっとお試し、といった感じのショーモデルとばかり思っていたHonda eが、そのままのスタイリングで投入されたことには驚いた。
そもそも電池とモーターの置き場さえあれば自由度の高いデザインが再現できることは容易に想像がつくけれど、のっぺりとしたボディフォルムはアイデアスケッチの範囲内。加えて、デビューまでの時間が短く、久しぶりにホンダらしいフットワークの良さを印象づけさせた。
それだけに試乗の機会を心待ちしていたが、実車は予想を上回る出来だった。質感からしたらモーターポン付けで日本に入ってくる新興自動車メーカーのクルマと異なって、小型ながらどっしりと落ち着いた風合い。そもそもすっきりとしたデザインだから、見切り線も少なく、一体感あるフォルムは質感も高い。
室内は、ワイドに広がるメーターから各種情報が得られるばかりではなく、奥行き感や開放的な視界を得られて、実用性にも優れている。足元もほぼフラットな上に、フロントには動力機構などのシステムユニットがないから、左右前後とも広々していて、機能的で扱いやすい。シートもコシがあってサイズもたっぷりとしているから、見た目はコンパクトでも内容も濃くて使い勝手も抜群だ。
もっともEVとして200kmを少々超える程度の航続距離では現実性に乏しく、それ故にデビューは遠い先と思っていた。が、実際走らせて見ると実用性の高さが、その不安を大きく上回った。まさに”街乗りベスト”をコンセプトにしたクルマ作りが、ウィークポイント忘れさせ、逆にEVだからこそのパッケージングと、質感の高い走りを生み出し、EVの良さを最大限演出。ホンダの知恵と割り切りが新しい価値観を作り上げたと言って良い。
今回採用されたRRレイアウトも動力源を集中させるといった点では効率が良いものの、逆にフロント周りには重量物がなく走りの面ではなにかとバランスをとるのが難しいはず。背が高く、コンパクトなボディサイズでは動きすぎるのはやっかいだし、かといって反応をルーズにしすぎてしまっては操作量が増えてドライバーになじまない。
RRレイアウトがどのように消化されているかがHONDA eに対するもうひとつの気になるポイントだったが、ここは開発当初からジオメトリーを決定するなど早い時点から方向性は定まっていたという。乗った印象では高速のランプ等の高速コーナーなどでフロントが蹈鞴を踏むような動きが感じられたものの、適度に力を逃がしながら軽快さと安定感を両立させる動きを見せてくれた。
ステアフィールに無駄な反力は生まないし、低重心のキャビンはリヤの落ち着き感と相まって、しっかり進路をキープ。剛性感の高いボディとリヤから蹴り上げる安定したトラクション、それに適度に力をいなすフロントとの絶妙なバランスによって、落ち着いた走りを生み出しているのだ。
乗り心地的にはややピッチングが感じられるものの、カドがなく路面からの入力を足元だけでその都度処理しきれていることから、突き上げや音の侵入も少なくEVの静粛性を妨げない。この一連の作り込みに関しては軽自動車ながら抜群のハンドリング性能としっかり感を実現させたS660の技術が大いに反映されているに違いない。
もっともパワーを積極的に与えていくとリヤシートの下から重めの振動が残ることがあったり、前後方向の滑りを許容しすぎている傾向がウェット時には顔をのぞかせたが、そんなときにもボディの動きや進路に影響は少なく、いかにボディの作り込みがしっかりしているかがよくわかる。
肝心のパワーフィールは発進加速限定的ではあるものの、今回試乗したe・Advanceは2.0ℓ直噴ターボユニットレベル。加速初期に大きく立ち上がるトルク感は同程度なうえにレスポンスと滑らかさは上をいくから、街乗りの範囲では群を抜く扱いやすさと速さを持つ。そのうえ、RRゆえに駆動輪荷重が安定していて、発進時の滑りは発生しにくいし、滑りがでてもパワーを絞りすぎないから加速感は持続しやすい。高速道路に乗ると90km/hくらいから全体にザワついたノイズが侵入してきて、モーターが頑張っている様子が窺える。パワー的にはまだまだ元気で、実際には欧州の実用域と言える150km/h程度までは加速は続くだろうが、このレベルになるとギヤを組み合わせるなどのシステム追加が望まれるかもしれない。
減速方向に関しては、4段階あるパドルシフトを操作すればを最大0.1Gまで高めることはできるし、クリープも自然でのろのろ運転もたやすい。ワンペダルコントロールスイッチをオンにし3段階パドルを使えば最大0.18Gまでなど、減速Gを高めることができ、右足だけで停止まで行なえるなど、減速時の制御も多彩。高速はもちろん、街乗りでは大いに役立った。
Honda eはコンパクトなボディやショーモデルがそのまま世に飛び出してきたような、お遊び感満載のイメージながら、その中身はホンダならではのアイデアや技術が満載されていて、走りの性能も期待以上。結構荒い使い方で35kmほど走ってはみたものの、電池の減り具合はは10%と、ざっくり計算すれば300kmくらいは気楽に走れそうだから、街乗りに限らず使える幅は広そう。
ホンダが4輪に参入したときのトラックやN360などもロングドライブよりも技術の多彩さやアイデアこそが持ち味でいまにつながっているはず。そう考えると長距離ドライブ等を多少犠牲にしても、ホンダらしさをフルに投入したHonda eはEV時代の幕開けにふさわしい記念すべきモデルといえる。現代に蘇るN360でF1なきあとのホンダらしさを引き継いでいってもらいたいものである。
Honda e Advance
全長×全幅×全高:3895mm×1750mm×1510mm
ホイールベース:2530mm
車重:1540kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rマクファーソン式
モーター形式:交流同期モーター
モーター型式:MCF5型
定格出力:60kW
最高出力:154ps(113kW)/3497-10000rpm
最大トルク:315Nm/0-2000 rpm
電池:リチウムイオン電池
総電力量:35.5kWh
総電圧:355.2V
WLTC交流電力量消費率:138Wh/km
一充電走行距離WLTC:259km
車両価格○495万円
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