エンジン車は、いつまで続くか。その3「30年先でもエンジン車は残る」2020〜2021年自動車産業鳥瞰図
- 2021/01/12
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牧野 茂雄
ICE(内燃エンジン)搭載車にいつまで乗れるか……あちこちから出てきた「○○年にエンジン車の販売禁止」という話が、まだどの国でも法制化されていないのに、あたかも「決まりごと」のように報じられている。筆者の持論は「欲しい人がいるかぎりICEは続く」だ。とくに日本に限定すれば、世界の現状に比べてやましいことなどない。ICEの進化はまだまだ続く。日本の自動車メーカーは今後も、環境性能で恥ずかしくない、乗る人が後ろめたさを感じないICE車を世の中に送り出し続けるだろう。そのうちの大半が何らかの電動機構を持ったHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=混合電動車)になったとしても、HEVの半分はICEである。30年後もICEは確実に残るだろう。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
日本の現状は、世界に比べてやましいことなどない
エンジン車禁止の世界的潮流に日本は乗り遅れた……2019年はこういう論調の記事が多かった。管政権が誕生し、なんの前触れもなく「カーボンフリー」を唱え始めると、こんどは海外のいわゆる「環境関連企業」が日本への売り込みを狙い始めた。それで国際協調路線を歩めればいいのだが、おそらく、そうはならないだろう。日本企業の収益が海外に流出し、国民の税金も海外企業やファンドに吸い取られる。そんな気がしてならない。きれいごとだけでは済まないのがエネルギーの世界であり、EUが仕掛ける「脱炭素」というゲームに日本が参加するとき、その副作用も覚悟しなければならない。
世界中のファンドが「CO2関連の銘柄は儲かる」と宣伝している。投資はその方面に流れている。日本でも「環境投資にいまシフトしなければ日本経済は沈没する」といった声が大きくなりつつある。菅総理の首相動静をみれば、そうした手合いの「専門家」が今回のカーボンニュートラルという入れ知恵をしたのだろうという推測は容易に成り立つ。中国の習近平国家主席がなぜCO2を言い出したのかを分析する能力が現政権にはないのだろうか。
案の定、欧州企業が日本をプッシュし始めた。2019年の風力発電設備(いわゆる風車)設置は、ドイツを中心に騒音や環境影響面での訴訟が相次いだため陸上への設置が激減した。陸上への新設はきわめて難しくなった。そのため洋上風車へとシフトしている。日本にもその売り込みが始まった。ノルウェーのエネルギー大手エクイノールやデンマークの洋上風力世界最大手であるオーステッドなどがジャパンマネーへの攻勢を激化している。しかし、これだけ台風の多い日本のどこにどうやって巨大風車群を設置しようというのか。
実体経済とはかい離した株価高騰は、世界中で余っている資金が上場投資信託(ETF)に流れたという理由もあって、おそらく今後も続くだろう。その受け皿がCO2関連株であり、どこに投資すればよいかをESG(環境・社会・統治)という物差しが親切に指南してくれる。「は〜い、みなさん。投資先はCO2削減に熱心な企業ですからね」と。同時にノルウェー年金基金など欧州の政府系ファンドが脱CO2投資へと意識的に資金を移している。すでに日本企業は実害を被っている。ベトナムでの火力発電所建設に関わる三菱重工を投資対象から外すといったことが始まった。
ESG投資という考え方は筆者も否定しない。しかし、現状では欧州勢が演じるマッチポンプ的な利益誘導であり、資金は欧州に流れ込むようになっている。EU委員会のフォン・デア・ライエン委員長が「再び強い欧州を!」と演説し、この行為にお墨付きを与えたから、もう流れは止まらない。
菅政権が。この動きに乗っかるようにカーボンニュートラルを言い出したものだから、日本の産業界は慌てた。しかし政権の意向は無視できない。「Go To トラベル」よりもはるかに罪が重いのは、事前の根回しがないままの「Go To CO2」だ。また再び、日本が海外の食い物になりそうな気がしてならない。
やるべきは、排気量税制の廃止とエコカー減税のような「モード燃費」にもとづく優遇の廃止だ
日本は世界第3位の経済大国である。21世紀に入って以降、その実感は非常に希薄ではあるが、ほとんどが製造業で占められる輸出型企業が海外で稼ぎ、その身入りによって経済が回っている。いっぽう国内消費はジリ貧で物価も上昇していない。そんななかでの2018年度CO2(カーボン・ダイオキサイド=二酸化炭素)排出量確報値は11億3800万トン(国立環境研究所まとめ)、前年度比3.9%減である。2011年3月の東日本大震災以来、原発がほとんど稼働していないなかでの3.9%減は立派だ。
その代わりエネルギー自給率は2017年実績で2010年の20.3%に対し9.6%まで落ちた。これは原油輸入のほか発電用の石炭と天然ガスの購入が背景にある。ただし2014年には6.4%まで下がったエネルギー自給率を4年間で3.2%リカバーした。あらゆる分野での省エネの成果であり、これは誇るべきことだ。
2018年のEUは43億9200万トン、前年比2.1%減だった。自動車など運輸部門のCO2排出は全体の約25%を占める。日本は輸送部門の比率が17.8%であり、CO2排出全体に占める自動車の割合は日本のほうがEUより少ない。それだけ自動車分野での省エネが進んでいる証拠だ。大都市内や幹線道路の渋滞でロスする燃料消費がありながら、である。
何らかの電動モーター機構を搭載したクルマは、日本では年間100万台以上販売されている。1997年12月にトヨタが世界初の市販フルHEV、初代プリウスの納車を開始して以降、23年をかけてここまで来た。車両価格の上乗せ分と日々の燃料代とを比べてみれば、日本平均の年間走行距離7000km程度では10年以上乗らないと絶対にフルHEVではモトが取れないが、新しいモノへの興味と勤勉な日本人の環境意識とが相まって、HEV需要を下支えしてきた。
世界中でもっとも新車販売台数での電動化率が高いのはノルウェーだ。年間販売台数約13万台のうち7割弱がBEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=外部充電できるHEV)だ。しかし販売台数は9万台ほどだ。ノルウェーの事情は前々回取り上げたが、BEV購入層は生活レベルが高い人びとが中心である。何らかの電動機構を持った車両の普及率という点では、日本は世界一である。その証拠が、自動車を中心とした運輸部門のCO2排出比率に表れている。
興味深いのはEU加盟国の国別CO2排出量だ。人口ひとり当たりで見るとフランスが低くドイツが大きい。これはCO2排出量計算で使うエネルギー種ごとのCO2係数のマジックであり、たとえば原子力比率の高いフランスは、発電端でのCO2係数が0.06でドイツは0.4だ。発電量がいかに大きくても係数でひと桁違うのだからCO2排出が少なくなるのは当然だ。
その代わり、前回書いたように欧州大陸内では国境を超えて電力を融通し合っているからどの国も政治的にはフランスを非難しない。脱原発を政治が決めたドイツは現在、フランスから電力を買うことで南ドイツの電力不足をしのいでいる。しかし、EUという枠組みになると再エネ発電を礼賛する。このちぐはぐさはじつに滑稽だ。
もうすでに「CO2が本当に悪者なのか」と問題提起しても世の中は動かない。しかし、温暖化や気候変動のメカニズムは解明しなければならない。欧米ではCO2悪玉論に懐疑的な発言をしたり論文を発表したりすると研究費の助成が打ち切られたりする。CO2悪玉論は「踏み絵」になった。地球物理系や熱力学系の研究者・学識経験者諸氏に訊くと、ほとんどの方が「太陽の黒点活動の影響や地球の歳差運動の影響のほうが大きいだろう」という。人為的温室効果ガス排出の影響は、エネルギー量としてほぼ無視できる、と。古気象学系の方々に訊くと「過去には現在より地表の気温が高い時期があったことはすでに証明されている」という。しかし、これらの意見は無視されている。
日本は「はやぶさ」プロジェクトのような日本らしい低予算創意工夫型プロジェクトで「温暖化」の真偽を検証すべきだ。日本中のお金が余っている方々と企業はここに投資してほしい。口封じされている世界中の研究者の方々のネットワークも使えるはずだ。それで本当に大気圏内のCO2濃度がもっとも疑わしいとなれば、おそらく誰もがCO2削減に協力するだろう。「ウソ」とは言わないが、パリ協定の根拠になっている考え方と数字は容疑者レベルに過ぎない。
同時に、日本の政府がやるべきことは、排気量税制の廃止とエコカー減税のような「モード燃費」にもとづく優遇の廃止だ。本当に使ったぶんのエネルギーに課税する。電気も例外にせず、車両ECUから抜き出した電力消費量に課税する。ガソリン、軽油、天然ガス、LP(液化石油)ガス、電力それぞれについてWtWの物差しでCO2発生量を計算し燃料課税する。欧州はTtW=タンク・トゥ・ホイール、「走行中に排出されるCO2」だけを規制対象とするが、WtW=ウェル・トゥ・ホイールはウェル(井戸・油井)からホイール=車輪までの間という意味だ。エネルギーを作る段階、運ぶ段階でのCO2排出も含める。日本は唯一、この考え方を自動車に取り入れている。ならば、課税もWtWをベースに電力も含めたエネルギー全般で行なうべきだ。
財務省にとっては、自動車が使う電力が急増したらどうやって課税するかが頭痛のタネだ。ガソリン税は国税で軽油引取税は地方税。財務省にとって聖域は国税であり、だから過去に「ガソリン車代替」と言い出すと徹底的ないじめに遭った。いずれ自動車関連の税体系は完全な見直しを迫られるだろう。
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