海上自衛隊:もっとも秘密の多い艦「音響測定艦『あき』」就役、探知範囲数百kmの性能で音響情報の収集にあたる
- 2021/03/27
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貝方士英樹
海上自衛隊の音響測定艦「あき」が就役した。造船所から海自への引渡式・自衛艦旗授与式が2021年3月4日、三井E&S造船株式会社玉野艦船工場(岡山県)で行なわれた。「あき」は同型の音響測定艦「ひびき」の3番艦になる。これで海自の音響測定艦は3隻となった。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
音響測定艦とは、海中の音響情報を手に入れるフネのことを指す。とくに艦艇・船舶の発する音を拾い記録する。もっと言えば相手潜水艦の固有の「音紋」を集め、記録・識別することが主務となる。
音紋とは、たとえば人間でいう指紋や掌紋など基本的に終生不変の個人の識別点のひとつと捉えられるもの。これと同様に潜水艦ごとに微妙に違う推進スクリュー音の固有の特徴を示すのがここでいう音紋で、これを広く収集し整理・記録、蓄積すれば相手潜水艦の識別が可能になる。
そして音紋情報を共有した海自潜水艦がパトロールし、発見した潜水艦の特定を行なうわけだ。潜水艦が主役となる映画などで、海中の音(音波)を聞いているソナー員が『潜水艦発見、○○○○型〜』云々などと報告する描写があるが、あれが主に音紋による探知・識別を描いたシーンというやつだ。海中では音波のみが情報収集の手段になる。
こうして海自の潜水艦それぞれに音紋情報が行き渡っていることは警戒警備・防衛上で得策になるから、音響測定艦という特殊なフネが海中の音を拾い集め、データベースを作っているというわけだ。
海中音の取得手段は高性能曳航式ソナーで「SURTASS(Surveillance Towed Array Sensor System、サータス)」と呼ばれるものだ。中身は米海軍の水上艦用曳航式ソナーシステム装備「AN/UQQ-2」。曳航式という名称どおり、装置をフネで引っ張って使う。ソナー(SONAR:Sound Navigation and Ranging)は音波を利用して水中の物体を探知する装置だ。
サータスは広範囲を探知できるよう長大な曳航式システムとなっている。自艦から展張させるサータスの受波部は全長数kmにもなるもので、その探知範囲は前述通り数百kmのエリアをカバーするという。しかし、こうした装置の詳細性能や艦の運用は秘密扱いで、公開されることがない。
音を聞く艦「ひびき」はその用途により艦影も特殊なものとなっている。胴体がふたつある双胴船型で、左右で海中に没しているボディを持つ。この海中に没している部分は潜水艦や魚雷のような形状をしている。これは「SWATH(Small Waterplane Area Twin Hull、スワス)」と呼ばれる「半没水型双胴船型」というデザインだ。
半没水型双胴船型「SWATH」とは、喫水線の下に、海中に没した艦体(船体)「ロワーハル」を左右両舷に持つ構造を指す。そして海上の艦体とは全通式で薄い脚型構造物(ストラット)で繋いでいる。
ロワーハルの全体形状は魚雷や涙滴型潜水艦の形状に似ているものだ。たとえるならば、潜望鏡深度ほどに没した2隻の潜水艦の上に跨がって海上の艦体がある外観となる。
双胴船型(カタマラン:Catamaran)は軍用・民航船ともにさまざまなフネがあり、たとえば東京〜伊豆諸島をめぐる航路や博多〜壱岐対馬をつなぐ航路などで高速双胴船として運航されているものがある。軍用では米軍の高速輸送船を沖縄県那覇港などで頻繁に見かける。こうした双胴船のなかでも音響測定艦が採り入れた「SWATH」は、かなり特別なフォルムだとの印象を持つ。
音響測定艦「あき」が就役したことで、海自の音響測定艦勢力は3隻態勢となる。これで1隻が実働、1隻が訓練、1隻は整備と、ローテーションの機会と質が上がり、運用性が向上する。切れ間のない聴音・音響情報収集体制が組み上げられることになる。
ちなみに、艦名の「あき」は、海自のプレスリリースから引用、紹介すると
『屋代島(周防大島)の北側、斎(いつき)灘の一部である倉橋島の西側の中島から大崎下島付近までを含む「安芸灘」に由来する。船の交通が多く、漁業も盛んな海湾である。音響測定艦の名称は、主として海湾の名を付与することが標準とされています。本艦は「ひびき」型音響測定艦の3番艦であり、引き続き「海湾の名」から選出することとされ、海上自衛隊の部隊等から募集し、防衛大臣が決定しました』
となっている。
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