ホンダN-VANが軽商用車の在り方を変える!?【試乗インプレッション】
- 2019/04/04
- ニューモデル速報
「軽バンでFFは不利」そんな常識を覆すべく登場したN-VAN。運転席以外フルフラットになる低い荷室や助手席側ピラー内蔵ドアによる広大な開口部、CVTを採用したN-BOX譲りの走り……。世の中が瞠目するに足る1台が誕生した。
レポート●佐野弘宗(SANO Hiromune)
フォト●平野 陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
FFならではのメリットを最大限に引き出した
N-VANのような商用車は日本に馴染まない……というのが、これまでの暗黙の了解であり定説だった。「N-VANのような」とは「FFの商用バン」のことである。
軽自動車(以下、軽)に限らず、商用バンで強く重視されるべきポイントは大きくふたつ。ひとつは当然ながら「荷室の広さ」であり、もうひとつが荷物を容赦なく満載したときの走行性能=トラクションだ。
軽バンの主力であるキャブオーバー(スズキ・エブリイとダイハツ・ハイゼットカーゴ)や床下エンジン車(先代アクティ)と比較すると、エンジンルーム分だけ室内長が削られるFFは「荷室長」で不利がある。また、クルマは後ろが重くなるほど、前上がりの姿勢となって前輪荷重が抜ける。だから、荷室に大量の荷物を詰め込むのが大前提のバンでは「FFは満足に走らない」というのが長らく定説となっていたわけだ。
もっとも、FFの軽バンとしてはダイハツ・ハイゼットキャディという前例はあるものの、キャディはあくまでウェイクから派生したニッチ商品。その証拠にキャディの最大積載量は150㎏しかなく、バン機能をある程度割り切っている。
対して、N-VANの最大積載量は、他社の本格軽バンと同じ350㎏。しかもN-VAN発売に伴い、従来のアクティバン/バモスは生産終了。今後はこれが真正面からホンダの主力軽バンになる。
N-VANもN-BOXもつまりは同じプラットフォームで最大の室内空間をねらっているわけで、両車のシルエットが似てしまうのは必然だ。それでも、N-VANはより背高で、少しの無駄もない真四角スタイルで、外板パネルやガラスにN-BOXとの共通点はない。さらに12インチの貨物用タイヤはN-VANをなんとも質実剛健に見せる。
FFの本格バンという意味では、N-VANは日産NV200バネットや仏ルノーのカングーにも似た存在である。FFのバンというと「荷物満載で急坂が登れるか?」とツッコミが入るのも昔ながらの定説だが、NV200やカングーの例から見ても、実際には大きな問題にならないであろうことは想像がつく。
それに、最新Nシリーズのパッケージは前後オーバーハングもほとんど残っていない。だから、リヤに荷物を満載しても実際には後傾姿勢にはなりにくく、N-VANは特別な手当てをせずとも「トラクション性能に問題なし」だったという。そして、さらに強力な登坂力をご所望ならば、N-VAN専用のタフな設計が施された4WDもある。
というわけで、商用バンとしてN-VANに唯一残された明確な弱点は「荷室長」だけだ。さすがに、この部分だけは物理の法則を覆すことはできず、N-VANの荷室長はキャブオーバー各車に明確に及ばない。しかし、N-VANはそこを「運転席以外すべてを床下収納」「長尺物を最短距離で積めるピラーレススライドドア」、そして「低床設計」といった創意工夫とFFならではの構造的利点でカバーする。
ご想像の通り、筆者は商用車をヘビーデューティに使い倒すプロとは無縁のヘナチョコのクルマ好きでしかない。しかし、そんな筆者でもN-VANの後席と助手席をすべて倒して左側のドア2枚を開け放した瞬間に「○○も積める! ××にも使える‼」と想像力と妄想力が一気に掻き立てられるのは事実だ。
N-VANのシートアレンジは一見すると複雑そうだが、シートの動きを一度でも確認すれば、あとはオレンジ色で識別されたベルトやレバーを直感的に操作すればほとんど間違えることはない。このあたりは、さすが多様なシートアレンジを歴史的に提案してきたホンダである。
別項にもある通り、当初のクリニックでは「あり得ない」と、FF化に否定的だった従来のアクティバン/バモスのオーナーも、N-VANのという意見が実際にあったからである。ただ、そこまで特殊で限定的なニーズとなると、さすがのN-VANも「他社キャブオーバー車をどうぞ」というほかないだろう。
従来タイプの軽バンに対するFFレイアウトの大きな利点として、自然なドラポジと運転感覚もある。
N-VANの運転席の基本レイアウトはN-BOXと共通で、まったく乗用車的である。まあ「視界と乗降性を独自にバランスさせた」という運転席ヒップポイントこそ、N-BOXより高めに固定されているものの、ステアリングには軽バンにはあるまじき(!)チルト調整まで付いて、一般的なハイトワゴンより少しアップライトな姿勢で落ち着く。両脚にステアリングシャフトを抱えて小高く座るキャブオーバー車も、狭い道での取り回しでは有利な面もあるが、市街地から高速、場合によっては山坂道、そして長距離……といったあらゆる走行パターンを考えると、N-VANのほうがはるかに疲れにくく、運転しやすいことは疑いようがない。
今回用意されたN-VAN取材車は3台。王道の商用グレード「L」と従来のワゴン登録モデル(バモス/バモスホビオ)の実質後継機種といえる「+STYLE」が2台だ。
N-VANには乗用ワゴン登録モデルは用意されず、個人ユースを想定した「+STYLE」も含めて、すべてが4ナンバー登録となった。よって、シートアレンジやタイヤその他も含めて、純粋商用の「G」や「L」と「+STYLE」の間に、使い勝手や乗り味の差異は基本的にない。
今回の「+STYLE」の2台は、ハイルーフ(というかN-VANではこれが標準ルーフ)の「FUN」がNA車、ロールーフの「COOL」がターボ車だった。N-VANといえば、S660ゆずりの6速MTが用意されたこともマニア界隈では話題となっているが、今回は全車が圧倒的売れ筋のCVTだった。
運転席は厚みのあるクッションと頻繁な乗り降りに備えた丈夫な表皮を備える。アームレストも大型のしっかりしたものだ。一方助手席は後方へのリクライニング機構はあるが、スライド機構は備わらないなどあくまでも補助席的な感は否めない。ただし、後席と合わせ、折り畳んだときの格納性は見事! のひと言だ。
N-VANのウリである、助手席&後席を折り畳んだ状態のフラットで広大な荷室には圧倒される。さらに助手席側ドアインピラー構造による横からのアクセス性の良さにより、リヤハッチを開けない場所でも荷下ろしを容易にする。FFならではの低床設計による荷室の高さも、これまでの軽バンになかった光景だ。この室内空間はホビーユースでも魅力となる。
ホンダN-VANをスズキ・エブリイ、ダイハツ・ハイゼットカーゴと徹底比較!〈コクピット/シート/ラゲッジスペース/スペックetc……〉
規格サイズをギリギリまで使ってスペースを稼ぎ出している軽バン。もはやどれも同じ……に見えながら、実際にはメーカーごとにさまざまな工夫が見て取れるから面白い。
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