「空母型」護衛艦「ひゅうが/いせ」の航空機運用能力を災害に活かす訓練を見る 自衛隊新戦力図鑑15
- 2020/05/09
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貝方士英樹
日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は、海上自衛隊:護衛艦「ひゅうが/いせ」である。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
全通甲板は、いずも、かが、ひゅうが、いせ、そして輸送艦のおおすみ、しもきた、くにさき
いわゆる空母(航空母艦)のスタイルと機能を持つフネを海上自衛隊は計7隻、保有運用している。その内訳は、ヘリコプター搭載護衛艦の「いずも」「かが」「ひゅうが」「いせ」の4隻、そして輸送艦の「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の3隻だ。
これら7隻に共通するのは「全通甲板」を持っていること。全通甲板とは、艦首から艦尾まで続く平坦で広い甲板を指す。全通甲板はヘリコプターやティルトローター機「オスプレイ」などの発着場として使う。洋上の航空基地だ。
もうひとつ、主に「おおすみ」型では全通甲板を駐車スペースとして使い、車両やヘリなどを繋留し輸送する。名称通り輸送艦だ。同時に、これら7隻の艦内には格納庫スペースがあり、ヘリなどの航空機や車両等を多数、収めることができる。加えて「おおすみ」型では艦内にエアクッション艇LCACというホバークラフトを2隻、収容し運用できるから、積載した車両や物資、人員をLCACで陸揚げすることも可能だ。
これら7隻は、平たい甲板とドンガラの艦内空間を活かし、モノを収め・運び、航空機を飛ばすことができる。ヘリ搭載護衛艦「いずも/かが」「ひゅうが/いせ」の4隻については、艦内に各種司令部を立ち上げる能力もあって、洋上司令部にもなれる。専門性と汎用性を併せ持ち、拡張性も高いフネたちだ。今回はこのなかからヘリ搭載護衛艦「ひゅうが/いせ」に注目し、能力の『一端』を見てほしい。
ヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」は2004年に建造された護衛艦「はるな」の代替艦だ。排水量1万3950トン、現役艦艇のなかでは「いずも」に次ぐ大きさだ。順番で言えば「ひゅうが」建造後に「いずも」を作っている。
全通飛行甲板では、哨戒ヘリコプターSH-60Kを3機、掃海・輸送ヘリMCH-101を1機搭載し、運用する。艦内格納庫を使うと最大11機の航空機を搭載可能だ。多くの航空機を搭載できることで、前述したように洋上航空拠点となり、艦載航空機による活発な海上行動を行ない、主に対潜水艦戦闘を行なうことが本艦の主任務となる。また、対潜・対空ミサイルや新開発されたC4I(情報処理)システムを搭載し、護衛艦としての戦闘能力も強化されている。これが「ひゅうが」とその2番艦「いせ」の基本プロフィールだ。ヘリなどの航空戦力を持ち、敵性潜水艦を「狩る」能力に長けている。ここが専門性の部分。
大規模自然災害が多い日本では非常に重要なフネ
一方の汎用性はというと、大規模自然災害時に発揮されるものだ。フネが災害に対して発揮する対応の特長は、海から救援する手法そのものにある。陸地が被災し道路が寸断した状況でも、海路で被災地域の沖合へ進出し、各種の手段で着上陸できる。そして救援物資の搬入や傷病者の救護などを行なう。護衛艦は行方不明者捜索や救助活動の拠点となり、沖に停泊した病院・避難所にもなる。海から助けること、移動可能で自己完結した機能と装備を持つ艦船を使った救援策は、自然災害の多い日本には不可欠なものだ。
東日本大震災での例を振り返ってみる。海上自衛隊は発災直後から稼働可能な艦艇ほぼすべてを東北地域へ急行させた。到着した護衛艦等はすぐさま漂流者の捜索救助を開始。狭い水域にまで進入可能な掃海艇などは、三陸の入り組んだ沿岸部へ入り込み、行方不明者等の捜索にあたった。輸送艦を発進したLCACは破壊された海岸線をものともせず着上陸し、救援物資を陸揚げした。これらは艦艇による救援策のほんの一例だ。
東日本大震災後の2012年、神戸市は広域搬送を主眼とした防災訓練を2度、行なった。同年2月に「いせ」が、10月には「ひゅうが」が神戸港に停泊し、各々の飛行甲板を自治体防災ヘリのヘリポートとして内陸から傷病者を搬送。エレベーターでストレッチャーごと艦内格納庫へ降ろす。格納庫には救護所が設置され、傷病者はトリアージ(緊急度による優先順判定)を受け、軽症者・中等症者・重症者に分けられた各エリアへ運ばれ、DMAT(災害時派遣医療チーム)など医療者による必要な治療を受ける。さらに重篤な傷病者の場合、別のヘリに乗せて他の地域の医療施設へ急速搬送する。こうした流れの防災訓練だった。
大規模自然災害が発生すると、一度に大勢の傷病者の発生が予想される。被災地では病院などの医療施設も被害を受けるから、現地の被災した医療施設では対応不可能なことが多いのも数々の災害を経験したことでわかった。こうした状況下で、被災を免れた隣県や遠隔地の医療施設へ、航空機の高速性を生かして広域搬送する。広域搬送は災害救助・救急・医療の急性期の切り札だ。
南海トラフ地震などのように、複数の県にまたがる被災が予想される極めて大規模な災害の場合、たとえば西日本から東日本への大量空輸の必要も考えられる。「ひゅうが/いせ」「いずも/かが」「おおすみ」のような全通甲板艦、多目的に使える艦種の増勢は、災害対応面でも有効なものとなる。
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