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陸上自衛隊:回転翼機と固定翼機の特性を併せ持つ新しい航空機「V-22オスプレイ」、陸自での現在の様子

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手前中央が陸上自衛隊のV-22オスプレイ。奥の機体は米海兵隊のもの。写真/DVIDS

前回は陸上自衛隊と航空自衛隊が使っている大型輸送ヘリコプターCH-47JAチヌークを紹介した。今回は同じく回転翼を持つ航空機、V-22オスプレイの現在に注目したい。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

ご存知の方も多いと思うが、オスプレイは回転翼機と固定翼機の特性を併せ持つ新しい航空機として開発されたものだ。ローター(プロペラ)を駆動するエンジンごと角度を変える機構を持ったティルトローターと呼ばれるメカニズム。オスプレイ最大の特徴がこの可変機構にある。

ティルトローターは回転翼機のように垂直離着陸が可能で、その場に滞空するホバリングもできる。そのまま水平飛行に切り替えれば固定翼機となり、高速飛行が可能だ。その最大速度は約565 km/h。オスプレイの次の特徴がこの高速性にある。

そして航続距離も長く、ヘリコプター以上の行動範囲を持つ。空中給油も行なえるから滞空時間と航続距離を大幅に延ばすこともできる。

ティルトローター機の研究開発の一例がこの、NASAや米陸軍、ベル社によるティルトローター研究機「XV-15」だ。1978年、実験機として機体モード転換と前進飛行を実証した。写真/NASA

そこで、ティルトローターとオスプレイの歴史を振り返ってみる。

可変機構を持った航空機が研究され始めたのは意外と古い。始まりは1900年代初頭、本格的な研究開発と機体製造は1930年代から第二次世界大戦中に遡れる。大戦中のドイツ、フォッケ・アハゲリス社が製作した「Fa269」などは源流の機体に相当する存在だと思う。

そして大戦後、1950年代から70年代にかけて米陸軍やNASA、ベル社などがティルトローターの研究と試作を続け、XV-3やXV-15などの試作機を飛ばした。80年代には、後のオスプレイにつながる計画が進められ、V-22の初飛行は1989年3月。この試作機では2度の重大事故が起きたが、1994年には量産が認可された。これ以降、2000年代を通じて具体化し、量産機が米軍の各部隊へ配備されていったのがV-22オスプレイという航空機だ。

日本が導入を決めたのは2015年ごろ。そして陸上自衛隊が導入を進め先発パイロットが北米の海兵隊基地で教育訓練を受け始めたのが2018年。そして2020年4月5日、オスプレイを運用する「輸送航空隊」が陸自第1ヘリコプター団に新しく作られ、本部と部隊は千葉県の木更津駐屯地に置かれた。

次に陸自輸送航空隊と当部隊向けの、つまり「陸自オスプレイ」の機体配備の動きをみてみる。
・2020年4月、輸送航空隊が木更津駐屯地に新編
・同年5月8日、山口県岩国基地に自衛隊向けの機体が陸揚げ
・同年7月10日、陸揚げされた1機が木更津駐屯地に到着
・同年7月16日、続いて2機目が同駐屯地に到着
・同年11月3日、木更津駐屯地で初飛行に先立つ飛行開始式を実施
・同年11月6日、配備機が約10分間の初飛行を実施
・以降、木更津駐屯地では暫定配備期間の2025年7月まで搭乗員や整備員の教育などを行なっていく予定

と、こうした動向が昨年2020年にあり、現在、陸自オスプレイと部隊は要員教育・飛行訓練などを進めている最中だ。筆者は2021年1月下旬に木更津駐屯地の近隣へ出掛けた際、離陸・着陸などの飛行訓練を行なっている機体を見た。おそらく今も着々と訓練は積み重ねられているのだと思う。

オスプレイ以外の機体例として挙げられる、アグスタウェストランド社製「AW609」。民間用ティルトローター機として2003年に初飛行した。写真は2007年のパリエアショーでのもの。写真/Neuwieser

陸自オスプレイに期待するのは島嶼防衛で機能すること。機体が持つ高速性能と輸送性能を発揮する運用だ。前述どおり、固定翼モードでの最大速度約565 km /hで進出できる高速性能が第一。次に輸送性能では、機内後部に24名(最大32名)の人員を収容可能であること。有事には武装した2個分隊規模の隊員を乗せ、目標地域まで固定翼モードで高速進出する。到着後は着地やファストロープ降下で隊員を目標地点へ送り込むことができる。つまりオスプレイとは陸上勢力を航空輸送で高速展開させられるメカであることが本質だ。その高速性は従来の輸送ヘリの性能を大きく上回るもので、島嶼防衛の現場である南西諸島の地理で見てみる。

米海兵隊ニューリバー航空基地での飛行訓練でヘリ姿勢に入った陸上自衛隊のオスプレイ。薄青の機体塗装は洋上飛行に対応したもの。島嶼防衛での運用を主軸にしていることがわかる。写真/DVIDS

沖縄本島・那覇から与那国島までの距離は約500kmだ。大型輸送ヘリCH-47JAチヌークの最大速度は約267 km /hで、与那国島までは2時間弱かかる。オスプレイの最大速度は約565 km /hだから、与那国島までは約54分で到達できる。これは机上の単純計算で、実際の防衛行動でどうなるかはわからないが、戦力の急速投入や急襲はオスプレイの得意な内容だから、こうした運用は折り込まれているものだと思う。

また、オスプレイの高速性と垂直離発着性能は離島地域での急患空輸(緊急患者輸送)や災害対応を、ヘリ以上の能力で行なえることを示す。オスプレイは「人しか運べない」のだが、急患空輸や災害時には人だけ運べれば良いのだから対応能力は大きいはず。一方「人しか運べない」のは軍事的には汎用性の狭いある種トンがった装備ということにもなり、運用研究がより必要だと思う。

米海兵隊のパイロット(右端)から指導や助言を受ける陸自パイロットとスタッフ(左4名)。彼らは陸自内でのオスプレイパイロット養成訓練で教官となる存在。木更津駐屯地では彼らが他の陸自パイロットに教育訓練を行なっているのだろう。写真/DVIDS

素人考えだがオスプレイには一撃離脱のような使い方が適していそうだと感じる。オスプレイは輸送機だから「一撃離脱」は適した表現ではないかもしれないが、前述どおり、輸送人員を素早くピンポイントで送りこめる性能や傷病者を高速で運べる性能は、日本の離島地域での適応性に優れるという意味だ。

陸自はオスプレイを全17機装備する予定だ。機体は、木更津駐屯地での暫定運用期間を終えたのちに九州・佐賀空港への移動・配備が予定されている。佐賀県の隣、長崎県には水陸機動団が駐屯している。この部隊は島嶼防衛の主力だ。オスプレイの輸送航空隊と水陸機動団が隣り合うことで、東シナ海や沖縄周辺海域へ素早く出張ることができる。佐賀への配置には反対の声もあり、それは一種のアレルギー反応とも考えられるけれど、丁寧な住民説明は必要だ。イージス・アショア設置候補地の秋田でやった対応はいけない。

2017年の日米共同訓練「フォレストライト02」には米海兵隊のオスプレイが参加。米海兵隊員と陸自隊員が共同する負傷者の搬送訓練などに使用されていた。オスプレイが負傷者の後送や、離島地域での急患空輸(緊急患者輸送)に適した能力を持つことの例を示す。

沖縄県石垣市登野城の尖閣諸島で、大口径砲を積んだ中国海警船が中国国内法を使って領海侵犯する現在、第一線の海上保安庁への支援や戦力増強とともに、水陸機動団を運ぶオスプレイ輸送航空隊の本格化・戦力化に向けた動きが後詰の実効力として相手に理解されるならば、そもそも領域を保安する法整備が急務だが、抑止力や防衛力として機能すると思う。
 

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