マツダ×ミズノのドライビングシューズ こだわりすぎの開発の裏側を知ったら欲しくなる! マツダ×ミズノ 人間の動きを知り尽くした両社が開発したドライビングシューズ「靴もクルマも人が乗るものという意味では同じです」
- 2021/07/06
- 2021/07/07
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MotorFan編集部 鈴木慎一
マツダがスポーツ総合メーカーのミズノとドライビングシューズを共同開発した。名前は「マツダ/ミズノ ドライビングシューズ」。両社のこだわりが詰まったドライビングシューズは、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」で予約注文できる。価格は3万9600円〔税込)。
どんなドライビングシューズで、いかにして生まれたのか? 開発陣を取材した。
PHOTO◎Motor-Fan
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靴とクルマは似ている!? 両社のエンジニアが意気投合
背屈サポートとは?
足裏の情報伝達とは?
踵支点の安定性とは?
靴のクレイモデルをつくる型破りなデザイン開発
このドライビングシューズをビジネスベースに乗せるには
実際履いてみたらどうだった?
マツダとミズノは、2015年からさまざまな分野でエンジニアの技術交流を行なってきた。マツダの開発トップの藤原清志さん(現副社長)とミズノの開発担当役員が意気投合したのがきっかけだという。当初は、素材分野についての交流だったが、次のステップとして、両社のものづくりの知見を具現化するためにドライビングシューズを開発することになった。
今回、開発に関わった両社のエンジニアに取材することができた。なぜ、マツダがシューズを開発したのか、なぜミズノがマツダと共同開発したのか、そこを掘り下げてみよう。
技術プレゼンテーションに登場したのは、梅津大輔さん。マツダの若きビークルダイナミシストであり、G-ベクタリングコントロールの技術開発をリードしたエンジニアである。
マツダがミズノとコラボレーション! 新コンセプト・ドライビングシューズの予約受注を開始
マツダは7月6日、大手総合スポーツ用品メーカーであるミズノと共同開発した新コンセプトのドライビングシューズ「マツダ/ミズ...
マツダ/ミズノ ドライビングシューズ
予約開始日:2021年7月6日
価格:Makuake販売価格 3万9600円(本体価格3万6000円)
※早期購入割引などがある。詳細はMakuakeプロジェクトサイトを参照
サイズ:24.5〜28.0cm(EE相当)
カラー:グレー×ブラック
素材:甲材/天然皮革・合成皮革・合成繊維 底材/ゴム
質量:約270g(27.0cm片方)
原産国:日本
■Makuake(マツダ/ミズノ ドライビングシューズプロジェクトサイト)
https://www.makuake.com/project/drivingshoes/
靴とクルマは似ている!? 両社のエンジニアが意気投合
梅津さん:僕は、ミズノさんはバイオメカニクスの研究分野が非常に優れていると思っていたので、ビークルダイナミクスの専門家として一緒にやりたいと考えました。広い領域のスポーツ競技用のシューズや用具を開発するなかで人の動きを研究し、人と用具の調和を追求するという姿勢が、マツダの人馬一体を目指す姿勢と共通するものがあり、ミズノさんとであれば、さらに高い人馬一体を実現するプロダクトが生まれるのではないかと考えたんです。
ミズノ側の開発担当、つまり梅津さんのカウンターパートを担ったのは佐藤夏樹さんだ。
佐藤さん:私は当時、研究開発の責任者から「マツダさんとの技術交流を開発者としてやりたいと思うか?」って聞かれて「もちろん!」と即答しました。ずっと興味があったのです。クルマとシューズって“その上に人が乗って移動する” っていう点は似ていますし、開発の歴史を振り返ってみても共通点が多い。最初は壊れない耐久性、次は安全性、その次にパフォーマンスとか快適性、乗り心地とか走り心地とか、 “心地”の部分の研究開発をしている歴史を繙いてみても、じつは靴とまったく一緒なんですよ。
おふたりとも、お互いの企業の技術開発に注目していたこともあり、プロジェクトに参画して初めて顔を合わせた瞬間から「意気投合した!」のだとか。
梅津さん:ミズノさんのお話を聞いて、技術的にすごく共感するところがありました。やっぱり人間中心でフィット感とか人間の動きを解析して作り込む、お互いのやっているレンジといいますか……。ミズノさんはありとあらゆるスポーツを解析し、我々は細かい運転操作を解析しています。スケールの違いが面白いねっていうのは最初から感じていました。
ふたりの熱い話は止まらない。シューズとクルマの開発が似ている?
梅津さん:シューズのソールの開発は、タイヤやサスペンションの開発にかなり近いです。ショックを吸収するクッション性、減衰性、そしてグリップ感、これはシャシーダイナミクスとかなり近いです。最初に「あぁそれだ!」と思ったのは、佐藤さんにシューズのグリップってどういうふうに設計するんですか?と聞いた時です。「たとえば体育館シューズ、バレーボール、バスケットボール、卓球、バドミントンのシューズとクレイコート用のテニスシューズはまるで違います。体育館は入力が大きくてグリップ重視。クレイコート用は滑りながら正確にボールを打てるように開発しています」と聞いて、これって、ドリフトコントロール性のことなんだ、これはシャシーづくりと同じだと思いました。タイヤのトレッドの設計とシューズのソール設計はものすごく近いなって思ったんです。
MF:ほかのスポーツのシューズでドライビングシューズに似ているものはあるんですか?
佐藤さん:我々ミズノは総合スポーツメーカーなので、いろんな種目のシューズや用具を作っています。しかし、今回くらい “かかる力” が小さい種目をやったのは初めてでした。未体験のレンジでしたね。普通のランニングシューズの接地時間って約0.2秒ほどで、100m走だと0.1秒くらい。そこに100kgとか200kgの力がかかるんです。しかし、ドライビングの場合、ペダルにかかる力は3kgとかそのくらいなので100分の1くらいです。この繊細な力加減をどうしようかっていうのは初めてのチャレンジでした。
MF:レーシングシューズとドライビングシューズは技術的にはなにが違うのですか?
佐藤さん:ものすごく近いと思っています。今回のドライビングシューズの開発は、我々の知見を確認するために、過去のミズノのレーシングシューズも引っぱり出して見てみました。そして、やっぱりこだわるポイントは決まっているんだなと気づかされました。結局はペダルの操作にどれだけこだわれるのか。ペダルの操作をもう少し分解すると足裏のペダルの感触、これをいかに正確に伝えるか、あとは足首周りの動きをいかに安定させるのかっていう、この2点がこだわりのポイントなんです。
ここでは話に出てこなかったが、“引っぱり出したレーシングシューズ” とはミズノが1990年代初頭に数年間開発した、F1ドライバー・故アイルトン・セナ選手のシューズのことだ。
佐藤さん:今回のドライビングシューズも当時のレーシングシューズもこだわりのポイントはまったく同じです。当時は考え得るベストな解決策として非常に薄くて硬いソールとハイカットのアッパーという選択をしたのですが、時代が進んで技術が進歩して、このふたつの課題に向き合ったときに、ずいぶんとカタチは変わるんじゃないかということで、今回の3つのこだわりポイントが導き出されたという流れになります。
3つのこだわりポイントとは
ひとつめが背屈サポート
ふたつめが足裏の情報伝達
3つめが踵支点の安定性
背屈サポートとは?
背屈サポートとは?
ペダル操作の際の足の運動を分析するとペダルの踏み込みのときは「底屈」という足を伸ばす動き、ペダルから足を引き上げるときは「背屈」という姿勢になる。前脛骨筋をアシストすることでペダル操作性が改善される。今回のドライビングシューズは、足首周りに伸縮性の高いストレッチ素材を採用。ストレッチ素材の戻る力(収縮力)がつま先を引き上げる動作をサポートすることで、ペダルの踏み替えをしやすくした。つま先を引き下げる動作をスムーズに行なうために、アキレス腱部分にジャバラ構造のメッシュを採用、ペダル操作時のアッパーの変形を吸収してシューズのフィット感を維持し、快適な運転をサポートする機能。
足裏の情報伝達とは?
足裏の情報伝達とは?
ドライビングシューズの課題は、いかに足裏感度を高められるか? であり、歩行時のクッション性とダイレクトなペダルフィールの両立である。それを実現したのがミズノの技術である「MIZUNO COB(ミズノコブ)」。複数の柔らかい突起が独立して情報伝達してくれる。足裏情報はペダルからのフィードバックがクリアに伝わる方がいいが、すべてを伝えるとノイズまで伝わってしまう。その加減が難しいという。
踵支点の安定性とは?
踵支点の安定性とは?
今回のドライビングシューズのアウトソールには、床面への足の接地を安定させる「ラウンドソール」を採用している。踵部分に丸みを持たせてアッパーまで巻き上げることで床面との接地面積を増やしつつ足を回転しやすくし、安定したペダル操作とスムーズな踏みかえ操作を両立した。ここでは、クルマの設計技術を取り入れ、三次元の滑らかな立体形状を追求した。
佐藤さん:ダイレクトなペダルフィールを実現するために、いままでは薄くて硬いソールを使用していたんです。でもそれでは日常では履けない。運転時だけでなく日常履きができるようにクッション性がほしいということからMIZUNO COBを使ったんです。S/N比という言葉がありますよね。シグナルとノイズの比のことです。我々ミズノはS/N比という言葉自体は使ってないのですが、マツダさんもそれをけっこう重視していると伺いました。クッションだけよくすると足裏の情報伝達って完全に消えてなくなるんです。ただフカフカなだけで足裏の感覚が完全になくなってしまう。その逆でものすごく薄いソールにすると足裏の情報ってどんどんくるんですけれど、逆にいらないノイズというか衝撃まで大きくなってしまう。ですから衝撃は小さくしてシグナルはちゃんと伝えるというというのは、ある意味二律背反というか、とても難しい。
梅津さん:サスペンションと同じですよね。
MF:ソールの裏側の凹みはなんのためですか?
梅津さん:この凹みはねじり剛性に効くんです。
MF:シューズでねじり剛性って言うんですか?
佐藤さん:言います。言うんですけど、普段はソールで剛性は見ていますが、アッパーも含めた靴全体の剛性バランスにこだわったのは今回が初めです。実際何回も修正しました。
佐藤さん:マツダさんの評価がすごく的確でした。機械では測れないレベルの細かさがちゃんと安定して評価できるマツダさんのテストドライバー、開発ドライバーの皆さんはすごいと思いました。こちらが言わなくても、直したところは、「ここってなにかされましたか?」って気づかれるんです。剛性バランスも、もっぱら我々はソールでやっていたのですが、梅津さんからのフィードバックがあったおかげでアッパーも含めた全体での剛性バランスにこだわることができました。シューズのレベルがいままでとは違う次元に上がったと思います。
靴のクレイモデルをつくる型破りなデザイン開発
今回のドライビングシューズは「マツダデザインが本気で取り組んだ美しいフォルムと質感」を謳っている。クルマのデザイン手法を使い、なんと! クレイ粘土を使ったクレイモデルも制作したという。シューズのミズノとクルマのマツダ。デザイン開発はどう進んだのか? お話を伺ったのは、マツダの寺島祐紀さん、藤川心平さん、ミズノの南場友規さんである。
MF:クルマのデザインについては何度も取材させていただいているので、大体わかっているのですが、普通のシューズのデザインはどういうプロセスで進むのでしょうか?
南場さん:靴を作る足形の原型があり、足のカタチを模した木型に柔らかい材料がうまく沿うようにします。立体にうまく沿うようにパタンナーがうまくパターン(素材)を切って柔らかいモノが立体になっていく……というか、立体を作っていくわけです。なので、マツダさんがクレイモデルを作るというのは、正直、我々にとって衝撃的だったんです。
MF:マツダ側としても靴のクレイモデルは初めてでしたよね?
寺島さん:そうですね。
MF:シューズのデザインは、クルマのパーツでいうとなにか似ていますか?
藤川さん:そうですね。プロポーションで考えるとエクステリアに近いところもありましたね。でもパターンで大きく変わっていくので、だんだんシートとか内装の世界に近づいていく。でもやっぱりそれとも違っていました。ここまではクレイでいいのですが、最終的には南場さんがおっしゃったとおり、パターンが組み合わさってそのまま浮いている状態なので、そこまではクレイでは表現しきれない。というか、クレイではわからないと言ったほうがいいのかもしれません。こういうところはミズノさんの知見がないとまったくできなかったですね。
MF:クルマのデザインだと「リフレクションが……」ってマツダのデザイナー陣はおっしゃいますよね。でもシューズにはリフレクション、ありませんよね?
藤川さん:そうですね、そういう意味ではやはり内装に近いかもしれません。立体感の取り方はエクステリアに近いのですが、素材を含めたデザインは内装に近い。たとえば、今回はヌバックを使っているのですが、素材の切り返しの面白さを組み合わせたりするところは内装デザインに近いですね。
寺島さん:大きく抑揚とつけるとか、プロポーションはエクステリアに近い。今回、クレイでも初めて挑戦したのですが、表皮が貼られた状態をクレイで再現してみました。クレイモデラーに「革を貼った感じで」とお願いして。「ここはちょっとゴムっぽい感じで」とか。
藤川さん:僕らはあくまでも靴の素人ですから「イメージをカタチにしたらこうです」というのができただけです。それをリアルなものに落とし込むのは、今回難しかったポイントですね。
寺島さん:クレイモデルはかっこよくできたけれど、実際にあのカタチで足が入るの? となるとかなりアヤシイ……(笑)。
南場さん:美しさと実際に使うときに「本当に使えるのか?」という議論はずっとあったかな。一番ぶつかったのは、靴のシェイプですかね。どうしても機能性を考えていくなかでいうと履き心地とかを考えるとある程度厚みも必要、でもマツダのデザイナーは、もうちょっとすっきり見せたい。そういったところでどこまで追い込めるのか、そんな議論は両社でかなりしていきました。
寺島さん:そもそもマツダ側がほんとに靴の作り方を全然理解できなくて、「なんで薄くできないんだろう?」とか「クレイだったらできるのに、なんでできないんだろう」くらいのところから入っていったので、ミズノさんにいろいろ教えていただいて、手探りで理解しながらカタチを作っていきました。そういう意味ではミズノさんに負担をかけてしまった。素人にいろいろ教えていただくというところでは、辛抱強く教えていただきました(笑)。
南場さん:ものづくりといっても、プロセスが違うっていうのが我々も驚きでしたし、勉強にもなりました。そういうなかでつくりの違いを理解していただきつつ、じゃあ理想を求めたとき、どこまでできるのか、という議論をしました。
寺島さん:マツダデザインにとっても非常に有意義な学びができました。
このドライビングシューズをビジネスベースに乗せるには
マツダとミズノが共同開発でドライビングシューズを作る。エンジニアやデザイナーがお互い刺激を受けてものづくりに取り組んだことはよくわかった。とはいえ、両社ともモノを作って売るメーカーである。作っただけでは終わりにはできない。今度は、このドライビングシューズをビジネスベースに乗せてさらに発展させる役割を担ったマツダの児玉さん、ミズノの香山さんにお話を伺った。
MF:今回の「両社の知見を合わせてドライビングシューズを作ろうよ」まではわかるのですが、作ったらちゃんとビジネスにしないといけないですよね? クルマもシューズも同じで「何個造って、いくらで売って」収益をちゃんと上げないといけない。しかるべきときがきたら限定モデルを出すとか、色違い、サイズはどう揃えるか、というように複雑なビジネスなんだと思います。このあたりは最初から、ちゃんと売って商売になるようにしようと考えていたのですか?
香山さん:ミズノとしては、スポーツのビジネスがメインです。そのスポーツの技術やノウハウをもっと違う方に向けていいものがあるんじゃないかということで、一般の人向け、働く人向けみたいなカタチでどんどん横展開していきたい。そのなかで、今回クルマを運転するという人向けの用具を新しくマツダさんと一緒に取り組ませていただきました。クルマの運転というのは、一般的にドライブする、仕事で運転するという人もいらっしゃいますよね。将来的にいろんな「運転する人」に向けての商品を横展開していくことでビジネスを広げていくというイメージはミズノとしてはもっています。
児玉さん:シューズに関して言うと、いま香山さんがおっしゃったようにまずはドライバーオリエンテッドですべての機能を盛り込んだものを作ります。今回のこれはクルマの運転を楽しむ人用のシューズです。最終的にはもう少し裾野を広く、職業ドライバーさん、タクシー運転手さんだったり宅配便のトラック運転手さんだったり、クルマを使って働いているかたの負担を少しでも軽くするシューズを作るという考えを最初から開発陣は共有していました。マツダはそこにも共感して、梅津も開発に入っていったんです。
MF:なるほど。今回のドライビングシューズは、いわゆる全部のせのフラッグシップモデルのような存在なんですね。
児玉さん:梅津がプレゼンテーションで「第一弾」って説明しました。マツダはクルマしか作っていませんが、クルマ以外のところでドライバーに対して人とクルマのインターフェースになる用具にもちゃんと走る歓びを増幅というか、より感じていただけるモノ、マツダの考え方、人馬一体の考え方、魂動デザインの考え方を織り込んだギアを提供していきたい。その第一弾がミズノさんとの共同開発です。第二弾もドライバーに向けたなにかしらのマツダの哲学を織り込んだものをいま考えています。
MF:4万円弱のドライビングシューズは、スポーツシューズとしてはボリュームゾーンに当たるんですか?
香山さん:いいえ、スポーツシューズにとってはすごく高額です。今回はとくにデザインも含めて開発陣のみなさんの想いが詰まったフルスペックの商品になったので、お値段的にも少し高くなっています。そういった値段の高いドライビングシューズを売ったことないので、どういった販売方法、どういったお客様に買っていただけるのかまったく知識がありませんでした。マクアケ(Makuake)さんはこれまで世の中になかった新しい商品を出すタイミングとか、そういった新しいお客様を捕まえるときに、どういった表現をしてどういったベネフィットを伝えるかということをされています。そういった面でミズノとマクアケさんはおつき合いがあったので、今回、ドライビングシューズに関しても私たちに知識がない、マツダさんもシューズを売ったことがないということでマクアケさんに伴走をお願いしました。4万円するシューズをどういったカタチでお客様にお伝えしてどういった売り方をしていくか、一緒に考えていただいた。それがあっての販売のプラットフォームに関してはそのままマクアケさんにお願いしています。
MF:そもそもドライビングシューズのマーケット規模は?
香山さん:そもそもドライビングシューズのマーケットデータってないんですよ。踵が巻き上がっているシューズがドライビングシューズとして売られていることが多いのです。普通のシューズもそうやって売られているので境目がない。スニーカーみたいなドライビングシューズもありますし、紳士靴みたいなドライビングシューズもあります。カテゴリーの分けがちゃんとできていないんです。
MF:正直申し上げて、よくやったな、と両社に対して思いました。
香山さん:開発のふたりにやらされている感がありました(笑)。ふたりとはうちの佐藤とマツダの梅津さんです。
児玉さん:両社の変態がぴったり合った感じ。ミズノさんの変態中の変態の佐藤さんとマツダの変態中の変態である梅津なので(笑)。
MF:そこから「靴何足いくら」以外の別の波及効果みたいなものもおふたりはお考えになって始めたんですか?
香山さん:私としては、作り方、考え方もまったく違うマツダさんと開発陣もデザイン陣も一緒になってひとつのものを作り上げることで、プロジェクトに関わった各個人のレベルは格段に上がったと思っています。ひとつのものを作るのにいろんな方向からアプローチがあって、いままでスポーツで常識だったものが、クルマではまったく別のアプローチがある。いろんな考え方の違いは一緒にやったことによって出てきたと思います。
児玉さん:引き出しというか懐が大きくなったというか、お互いの常識、クルマとシューズの常識でしか見てなかったのが、「ああ、そういうことか」みたいな……たとえば、図面を書く・書かない、3Dデータ作る・作らない、モノから入る、データから全部やってしまう、とにかくやり方が、クルマとシューズでは両極端ですから。いい刺激になりました。
香山さん:スタートの一歩目から違いますもんね。ものつくりの一歩目が。一歩目が違うので、開発当初「なんでできなんすか?」って言われても、「うち、そんなことやったことないし」って思っていました。
児玉さん:「なんでできないんですか?」「なんでやる必要があるんですか?」っていう感じでしたよね(笑)。硬モノと柔らかモノという違いがあります。クルマで一台の試作車を作ると何千万円、下手したら億いくので、クルマの開発はモノを作らない。まず、とにかくデータ、机上で全部やって、最後に「できた!」っていうところモノを作るんです。シューズだとそんなことをしていたらかえって効率が悪い。「とりあえず作れ!」って。
香山さん:作って現物見て修正。どんどんやっていく。シューズ作りではそっちのほうが効率的なんです。
児玉さん:常識が違うから最初はかみ合わなかったですね、会話が。「なにを言うてんねん」みたいな感じ(笑)。
香山さん:途中でなんとなく、お互いになんとなくわかってきてコミュニケーションがとれるようになってきて、そうなると急にぎゅーっとひとつになっていい感じに進み始めました。
児玉さん:そうそう。なんとなく腹を割り切れてなかったところで、「これじゃ前に進まへんで」って感じから、お互いをさらけ出してから進むようになりましたね。「靴だったらそうなんや、クルマはこうやで」みたいな感じです。開発途中ではじつは「このプロジェクトはダメやな」と思ったときがありました。半年か1年くらい開発が遅れるなと思っていました。
香山さん:お互い開発陣は頑固なので、受け入れられないんです。自分のやり方を否定されるみたいなことは受け入れられない。時間が経つとだんだんと……。
MF:最初から意気投合して進んでいたのは、あのふたり(梅津さん・佐藤さん)だけだったんですか?
児玉・香山さん:そうです。あのふたりだけです。あのふたりのせいです(笑)。せいというか、おかげというか。でも、ゴールが一緒だったので、モノにできました。
香山さん:マツダさんもカタイですが、うちも業界的にはガチガチにカタイんです。
児玉さん:カタイというかくそ真面目というか。
香山さん:モノはいいモノ作るのに、売れない……。
児玉さん:ホンマよう似てるんですよ。「乗ったらわかる、履いたらわかる」ですから(一同爆笑)。
香山さん:そうなんです、いい靴、作っているんですけど、履かないとわかってもらえない……。
児玉さん:開発当初は、梅津もミズノのシューズ、履いたことなかったのですが、いざミズノさんのシューズを履いたら、いまは開発チーム、みんなミズノのシューズを履いてますから。
MF:このドライビングシューズは何足売れたらいいんですか?
児玉さん:まずは1000足です。1000足売れたら、第二弾、第三弾へいけます。
香山さん:ランニングシューズ、ジョギングシューズの場合は、10万足、100万足という単位なんですよ(笑)。第二弾、第三弾ができるようなカタチで新たな展開を考えていきたいと思っています。
実際履いてみたらどうだった?
開発陣の熱い想いは充分にわかった。では実際に試したらどうだろう?
写真で見たとおり、デザインはマツダらしくカッコいい。そしてとても軽い。想定は、運転時だけ履き替えるのではなく、ロングドライブして、ドライブ先でも履いている、つまり日常履きもするイメージだ。だから、あまり奇抜なデザインでも困る。
履いてみると、どんなファッションにも合いそうだ。
用意されていた試乗車からユーノス・ロードスター(NA型)をチョイス。もちろん5速MT車だ。ドライビングシューズを履いたとくに右足は、明らかに普段履きのスニーカーよりもペダル操作がしやすい。足首のベルクロの締め付け具合でフィーリングが大きく変化するのも楽しい。
梅津さんによれば、ロングドライブでの疲労度も違ってくるという。欲しいか、と問われたら「欲しい」。新しモノ好きとしては、とても欲しい。3万9600円という価格は、開発の裏側を聞くと、「高くない」と思えた。
注文して手元に届くのは2022年3月末。
7/7朝10時にマクアケのページを見たら
先着100名 100足限定先行価格は3万5200円で、すでに売り切れ。
次は先着400名の400足限定先行価格は3万8500円。こちらも売り切れ。
その次の600足限定先行価格3万9600円分もすでに残りが399足になっている。このペースだと100+400+600の合計1100足はあっという間に売り切れそうだ。
一般販売予定価格は4万4000円(税込)だというから、気になる方はぜひチェックしてみてほしい。
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