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【アーカイブ・一世一台】偉大な先駆か、空前の失敗か? ホンダ・ロゴとJムーバーの光と影(その2・「Jムーバー」キャパ&HR-V 編)

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ホンダ「Jムーバー」第二弾、SUV仕立てのHR-V。日本では低迷したが海外では一定の評価を得ており、海外ではあるが、唯一、2代目に名前が引き継がれた。日本では「ヴェゼル」を名乗る。

何代もの代替わりでその名が永く継承されるクルマもあれば、一代限りで途絶えてしまうクルマもある。そんな「一世一台」とも言うべきクルマは、逆に言えば個性派ぞろい。そんなクルマたちを振り返ってみよう。

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ライフスタイル&ステージにあわせたロゴ派生車種群、その名は「Jムーバー」

ホンダCAPA(キャパ) Cタイプ 主要スペック

「Jムーバー」第二弾登場、そして再びロゴへ

ホンダHR-V JS4 3ドア 主要スペック

ライフスタイル&ステージにあわせたロゴ派生車種群、その名は「Jムーバー」

1997年の東京モーターショーに展示された「J」の文字を頭に持つ4台のコンセプトカー。これこそ、「ロゴ」の派生車種群であった。

コンセプトカー「J-MW」の正体は1998年発売のトールワゴン型の「CAPA(キャパ)」であり、「J-WJ」は同じく小型SUVの「HR-V」、クーペ型の「J-VX」はなんと1999年発売のハイブリッドカー「インサイト」である。「J-MJ」は「走ればクルマ、止まれば部屋」というコンセプトのトールワゴンだったが、これは「キャパ」とキャラクターが被るためか市販化は見送られたようだ。外観やコンセプトを見る限りでは、後年の「モビリオスパイク」に近い。これらの中でも「J-VX」=「インサイト」はキャラクターが違うためにシリーズ外とされ、結局、「キャパ」と「HR-V」の2車種が「Jムーバー」を名乗ることになる。ちなみに「Jムーバー」の「J」は「Joyful=楽しさ」、「Jolint=(人とクルマを)結ぶ」を意味する。

これら「Jムーバー」は、バブル崩壊後のホンダを救ったオデッセイやステップワゴンにCR-V、S-MXを加えた「クリエイティブ・ムーバー」シリーズの後を継ぐ第2のシリーズであった。「在来のRVやワゴン、ミニバンのいずれにも属さず、もちろんセダンやクーペといった既存の乗用車の形態とも異なるホンダ独自の発想によって展開される新鮮なイメージの車種」であり、「楽しさ」をキーワードに作られたクルマであるとされていた。

何やらわかり難い説明だが、要は「若者をターゲットに置いた、街乗りからレジャーまで楽しめるカッコよくて面白いクルマ」ということだ。つまりベース車のロゴで置き去りにされた感のあった「若者」というジェネレーション(多分、「男の子」というジェンダーが代表するような諸々も)、「走り」や「面白さ」、「楽しさ」といったエモーショナルな部分(今でいう「エモい」)を引き受けるのは、これら「Jムーバー」の役目だったのである。だからこそ、ロゴはあえて徹底的に堅実かつ実用に徹していた。いや、商品戦略の展開上、徹さざるを得なかったのだ。

Jムーバー第一弾の「キャパ」が発売になる際、ロゴやJムーバーの開発を統括された黒田博史RAD(=Representative of Automotive Development=自動車開発代表) (当時)は、「ホンダのなかで、あのように堅実で真面目なクルマ造りをするとは、結構たいへんなことだ。突っ走るクルマは、造りやすいという環境なのだ。そこに、セカンドカーとしては、この性能で充分です、という社内説得をしなければならない」と、ロゴがホンダには珍しく、甚だ「我慢」のクルマ造りであったことを認めている。そして「キャパを造った人達は、やりたいことが出来たと思う。今後の(Jムーバーの)クルマもそうなるだろう」とも。

Jムーバー第一弾の「キャパ」は、ベース車のロゴと全長や全幅(当然ながらホイールベースも)はほぼ変わらずに、全高が150mm以上もアップしたトールワゴンだ。全高が極端に高くなったように見える以外は、全体のイメージはロゴを踏襲していると言ってもいい。左右、中央と3分割されたようなバンパーのデザインも、実はロゴのデザイン案で最後の最後まで検討されたものを踏襲している。全体的にロゴのハイルーフ仕様とでも言いたくなるようなスタイリングだったが、その中身はかなり異なっていた点がホンダらしい。

まず、ロゴがベースとは言え、プラットフォームはかなり異なったものだった。普通ならフロア下に設けるアッパーフレームやクロスメンバーをフロア上に前後にまっすぐドンと配置した、言うなれば2階建ての新骨格二重フロア構造を採用しているのが最大のポイントだ。フロアの上に骨格部材を配置し、さらにその上にフロアを載せて骨格部材をサンドウィッチにするイメージである。

「フレームやメンバーをフロア上に配置すれば、エンジンマウント部との段差やサイドシル側への屈曲が軽減され、無理なくまっすぐ配置できる。まっすぐ配置できれば空間的な無駄を伴わず強度を高められ、コンパクトなボディの利点と全方位にわたる衝突安全性を楽に両立できるわけです」と、キャパの開発を率いた大蝶義昭LPL(=Large Project Leader)(当時)は語っている。

また、このフロア間の空間に前後席のシートレールや後席用ヒーターダクト、後席用フロアボックスといった邪魔物(?)をおさめ、居室空間のフラットフロア化を実現させた。つまり衝突安全性と空間性の充実のためのサンドウィッチ構造なのである。

ちなみに、このフロアのサンドイウィッチ構造、実はメルセデス・ベンツの初代Aクラスが先に採用(1997年登場)していたが、あちらは当時、メルセデス・ベンツが熱心になっていた燃料電池車をラインアップに加えるべく、フロア間に燃料電池(大型バッテリー)を搭載しようとした結果であり、それがガソリン車にも使われた形だ。同じく日産ルネッサも先行したが、これもEV化の際のバッテリー収納部として考えられたもので、後年、「ルネッサEV」が発売された。両車ともキャパとは、フロアのサンドイウィッチ構造に対するコンセプトが根本的に異なっている。

エンジンはロゴより増大した重量などを考慮し、同じD型だが1.5ℓのD15B型に拡大。トランスミッションは後に4速ATが加わるものの、発売当初は"高級装備”であったホンダマルチマチック=CVTに一本化されていた。このあたりの選択を見ると、ロゴのアドバンスド・モデルといった感がある。

ロゴで問題と騒がれたサスペンションは、キャパでは完全に対策が施された。いや、厳密にいえばロゴで問題とされたから対策したというわけではなく、ロゴより160mm高い全高や200kg増大した重量、排気量が増えてパワーアップしたエンジンといった、元からのクルマのキャラクターに合わせて最適設計されていただけの話だ。

「背の高いキャパの場合、ロゴのサスペンションのままでは操安性に不安を感じたのは事実です。ただ、ロゴには未設定のスタビライザーを追加しました。これは、デザインを見た段階から必要性を感じ採用を決めたのです。結果的には、それで万事解決し、問題となることはなかった」とは開発者の弁である。

サスペンションの基本ジオメトリーはロゴと同じだが、フロントには先述のようにφ28mmのスタビライザーを装着。ロワアームブッシュとコンプライアンスブッシュのボディ取り付け点を低く設定し、ロールセンター高を低くしてジャッキアップ現象の低減をはかった。

リヤはアクスルビームにφ19mmのスタビライザーを内蔵。また、スピンドル剛性を向上させた結果、リヤトレッドがロゴより僅かに増大。トレーリングアームの剛性アップもはかられた。バネやダンパーも最適化され、横力によるフリクションを低減させるカーブドオフセットスプリングや独自のバルブ構造を内蔵したHPV付きショックアブソーバーが採用されている。これらの措置により、キャパはロゴよりも背が高くて重いにもかかわらず、良好な走行安定性を確保している。

使い勝手に目を転じると、シートレールをフロア下に埋め込むことでフラットとなったフロアにしつらえられた後席は250mmもの前後スライド量を誇り、多彩なシートアレンジとあいまって、ラゲッジルームの使い勝手は非常に良好なものとなっていた。キャパは開発過程で30代を中心とするファミリー層――具体的には夫婦2人+幼児1人の3人家族――をターゲットにしており、3列ミニバンではないが、その使い勝手は初代ステップワゴンを彷彿とさせるものがある(まだこの時期は、ミニバンは大きくて当然であり、5ナンバー3列シートのコンパクトミニバンという要請は希薄だった)。

それもそのはず、キャパの開発を率いた大蝶LPLは、初代ステップワゴンでもLPLをつとめていた人物。つまりシビックに対するステップワゴン、ロゴに対するキャパという構図である。とすれば、次の「Jムーバー」がSUV仕立ての「J-WJ」、すなわち「HR-V」だったことは、「CR-V」からの対比の上でも明白であった。

1997年の東京モーターショーに展示されたコンセプトカー群。後に「CAPA」となる「J-MW」(左上)、「HR-V」となる「J-WJ」(右上)、「インサイト」になる「J-VX」(左下)、発売されなかったトールワゴン「J-MJ」(右下)
「Jムーバー」第一弾、背の高いコンパクト・マルチワゴン「CAPA(キャパ)」。走りともども決してスポーティではないが、それはこのクルマの狙いではない。ロゴのアドバンスド・モデル的な立ち位置でもある。
ワゴンだから当然だが、使いやすい大開口テールゲートを備える。リヤコンビランプが印象的だ。
ダッシュボードまわりはロゴに近い印象だが新規デザイン。各種スイッチの操作性も良好だった。
シートは意外としっとり、しっかりと体を支えてくれる。アイポイントもやや高く、ドラポジは良好だった。
「新骨格二重フロア構造」と呼ぶフロアの二段サンドウィッチ構造により、フロアはスッキリとほぼフラット。抜群の後席快適性を誇った。
オデッセイに範をとったというシートアレンジ。室内左半分すべてを荷室化できる発想は、現在のN-VANも同様。畳んだ後席と荷室に段差が出来るのが残念だが、ここは別売アクセサリーの「ラゲッジボックス」で埋めるよう想定されていた。

ホンダCAPA(キャパ) Cタイプ 主要スペック

全長×全幅×全高(mm):3775×1640×1650
ホイールベース(mm):2360
トレッド(mm)(前/後):1425/1420
車両重量(kg):1110
乗車定員:5名
エンジン型式:D15B型
エンジン種類・弁機構:直列4気筒SOHC16v
総排気量(cc):1493
ボア×ストローク(mm):75.0×84.5
圧縮比:9.4
燃料供給装置:電子制御燃料噴射式(PGM-FI)
最高出力(ps/rpm):98/6300
最大トルク(kgm/rpm):13.6/3500
トランスミッション:CVT(マルチマチック)
燃料タンク容量(ℓ):40
10.15モード燃費(km/ℓ):14.8
サスペンション方式:(前)マクファーソンストラット/(後)トーションビーム
ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク/(後):リーディング・トレーリング
タイヤ(前/後とも):175/70R13
価格(税別・東京地区):139.8万円

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