誰でも簡単にドリフト!? 異例の前後駆動力配分を持つトヨタGRヤリスのAWDシステムGR-FOURとは?
- 2020/01/11
- Motor Fan illustrated編集部
オンデマンド式なのにフロント30:リヤ70の駆動配分? 機械の構造からはどうなっているのかが理解できない数字である。果たしてどのような仕組みにしているのか。その中身は仰天の一言であった。
TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)
トヨタGRヤリスには “GR-FOUR” と呼ばれる新開発のスポーツAWDシステムが搭載されている。かつてWRCでも活躍したセリカGT-FOUR以来となる、モータースポーツを視野に入れたこのAWDシステムは、FF配置のパワートレーンをベースにPTO(パワー・テイク・オフ)で取り出した動力をプロペラシャフトでリヤアクスルへと伝達するというオンデマンド式。センターデフを持たず、フロントアクスル用の駆動力の一部を “分けてもらう” カタチとなるこの形式のAWDでは、駆動力配分でリヤがフロントを上回ることはないというのが一般的なところだが、GRヤリスのGR-FOURでは最大で30:70(前:後)という駆動力配分を実現しているという。
ひとつのカギとなるのは、前後デフユニットの減速比(最終減速比)。GR-FOURではリヤ側の減速比をフロントよりも小さく(つまりロングに)しているというのだ。
オンデマンド式AWDでは、前後の駆動力配分の制御と、後輪の駆動が不要なときにリヤアクスルの切り離しを行うため、フロントからリヤへのトルク伝達経路に電子制御式のカップリングを備える。GR-FOURではリヤデフユニットと一体となるカタチで、その入力部にこれが配置される。前後の減速比が異なるため、カップリングを完全に締結してしまうと前後輪で回転差が生じてしまうわけだが、それを逆手にとってスリップ状態で使うことでトルク増幅効果を生み出すというのだ。
じつは同様の原理は、すでにフォード・フォーカスのAWDシステムでも採用されているのだが、こちらでは前後減速比の差が3%近くあるのに対し、GR-FOURのそれは1%未満とごくわずかに抑えられている。これはフィーリングなどを確認しながらたどりついた値とのことで、上は4.5%から、3.5%、2.5%、1.5%、0.5%という前後減速比の差が開発のなか検討の遡上に載せられたという。
クルマ自体の向きが変わり始め(これを重心スリップ角がつくという)、遠心力によりアウト(外側)方向に横力が掛かってくると、後輪の軌跡が前輪の外側を通るカタチとなり、後輪の回転数が前輪を上回ることから、前後減速比の差は効かなくなってくる。つまり半クラッチによるトルク増幅効果がなくなり、駆動力配分が一般的なオンデマンド式AWDの上限である50:50に戻ってしまう。聞けば、前後減速比の差が3%近くある例では、ハンドルを切った瞬間にフロントがインに入るような、驚くほど良く曲がる印象が得られるものの、この効果がなくなったときの “落差” が大きな違和感を生み出してしまうのだという。
「雪道とかグラベルならステアリングを切るだけで簡単にリヤが出るので、たぶん誰でもドリフトができると思います。ただ、本格的なラリー走行ではリヤが外に流れるのを抑えて前に進めたいという面もありますので、逆に(前後減速比に)差をつけないバージョンも考えてはいます。それを実際にパーツとして販売するかどうかということも含めて、詳細はまだ決まっていませんが」(エンジニア氏)
また、こうしたフィーリング以上に興味深いのが制御だ。この前後の減速比に差をつけたオンデマンド式AWDでは制御が肝要で、むしろ制御技術があって初めて可能になる技術と思って間違いない。
エンジントルクとほぼイコールといってよい駆動力に関わる制御ということで、電子制御カップリングをコントロールする制御ユニット(以下AWD ECU)と、エンジンECUの間で協調制御を行なっているのだが、カップリングの制御に高い応答性が求められるため、一般に用いられることの多いCAN(Control Area Network)では通信遅延が大きすぎるということで、別の手段が使われている。具体的にはアクセルペダル開度などを基に生成されるトルク指令値をCANに流す前からネットワーク線を介せずAWD ECU直接伝送しているとのこと。CANコントローラー(回路)を経由すると、信号の同期やエラーチェックなど、CANのプロトコルに沿った手順(プロシージャー)が必要になるため、これを回避して高速で信号を伝送しようというわけである。
これによりAWD ECUにはエンジンがトルクを発生するよりも早く制御信号が届き、必要な応答性が確保できたというわけだが、高速の制御ということで適合(キャリブレーション)などの面で苦労も少なくなかったという。それゆえにエンジンのチューニングなどによってトルク特性などが変わると、AWD ECUによる制御にも影響が及ぶ可能性があるとのことだが、その点については対応を検討中だという。ただチューニングは大いに意識しているようで、少なくともプロテクトやセキュリティなどで手が付けられないような仕様にはなっていないとのこと。エンジンECU などの処理能力に関しては、市販に当たってコストも考慮したことから一般的なスペックとなっており、多くの処理が5ミリ秒周期で回っている(これを5msecジョブと呼ぶ)という。
ちなみに、電子制御カップリングをスリップ状態で使うということも、そう簡単なことではない。スリップには熱の問題が伴うためだ。そこで摩擦材にカーボンを採用、プレートの形状などにも工夫が凝らされた。また切断時のドラグトルク(引き摺りトルク)低減も意識された、非作動時にプレートを引き離すためのリターンスプリングも装備。リターンスプリングの存在は、応答性に相反するところもあるが、先のエンジンECUとAWD ECU間において高速で行われる協調制御を生かして、リターンスプリング分を考慮しながら待機電流をコントロールすることで、応答性との両立に成功しているとのことだった。
ここまでわかったトヨタGRヤリス、電子制御カップリングは、ジェイテクトのITCCを使う。トルセンはTypeB
東京オートサロンでワールドプレミアされたトヨタの新4WDスポーツ、GRヤリス。新しい4WDシステムや新開発プラットフォーム&...
トヨタGRヤリスのエンジンは化け物レベル!GR4のためだけに仕立てた、その名は「G16E-GTS」
東京オートサロン2020でお披露目となったトヨタGRヤリス。3気筒の1.6ℓという形式はこれまでのトヨタにはないものだったので、...
|
|
自動車業界の最新情報をお届けします!
Follow @MotorFanwebおすすめのバックナンバー
自動車業界 特選求人情報|Motor-FanTechキャリア
東証プライム上場、トヨタ系列の内装部品システムメーカー
先進技術開発<モデルベース開発・次世代シート開発>
年収
450万円〜800万円
勤務地 愛知県豊田市猿投工場に配属予定です。
この求人を詳しく見る
東証プライム上場、トヨタ系列の内装部品システムメーカー
新製品提案や新規PJT管理/推進<各完成車メーカー向け>
年収
450万円〜800万円
勤務地 愛知県豊田市豊田市に配属予定です。※転...
この求人を詳しく見る
東証プライム上場、トヨタ系列の内装部品システムメーカー 先進技術開発<モデルベース開発・次世代シート開発>
年収 | 450万円〜800万円 |
---|---|
勤務地 | 愛知県豊田市猿投工場に配属予定です。 |
東証プライム上場、トヨタ系列の内装部品システムメーカー 新製品提案や新規PJT管理/推進<各完成車メーカー向け>
年収 | 450万円〜800万円 |
---|---|
勤務地 | 愛知県豊田市豊田市に配属予定です。※転... |
これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。
日産キックス600km試乗インプレ:80km/h以上の速度域では燃費が劇...
BMW320d ディーゼルの真骨頂! 1000km一気に走破 東京〜山形往復...
日産ノート | カッコイイだけじゃない! 燃費も走りも格段に洗練...
渋滞もなんのその! スイスポの本気度はサンデードライブでこそ光...
PHEVとディーゼルで燃費はどう違う? プジョー3008HYBRID4とリフ...
スズキ・ジムニーとジムニーシエラでダート走行の燃費を計ってみた...
会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ
フェアレディZ432の真実 名車再考 日産フェアレディZ432 Chapter2...
マツダ ロータリーエンジン 13B-RENESISに至る技術課題と改善手法...
マツダSKYACTIV-X:常識破りのブレークスルー。ガソリンエンジン...
ターボエンジンに過給ラグが生じるわけ——普段は自然吸気状態
林義正先生、「トルクと馬力」って何が違うんですか、教えてくだ...
マツダ×トヨタのSKYACTIV-HYBRIDとはどのようなパワートレインだ...
3分でわかる! クルマとバイクのテクノロジー超簡単解説
3分でわかる! スーパーカブのエンジンが壊れない理由……のひとつ...
3分でわかる! マツダのSKYACTIV-X(スカイアクティブ-X)ってな...
スーパーカブとクロスカブの運転が楽しいのは自動遠心クラッチ付...
ホンダCB1100の並列4気筒にはなぜV8のようなドロドロ感があるのか...
ホンダ・シビック タイプRの謎、4気筒なのになぜマフラーが3本?
3分でわかる!アシスト&スリッパークラッチって何? 250ccからリ...
Motor-Fanオリジナル自動車カタログ
自動車カタログTOPへMotor-Fan厳選中古車物件情報
トヨタ ヤリス
X メモリーナビ ミュージックプレイヤー接続可 バックカメラ 衝突被害軽減システム ETC ワンオーナー アイドリングストップ
中古価格 156万円
トヨタ ヤリス
X Bモニター ミュージックプレイヤー接続可 電動格納ドアミラーウインカー 衝突被害軽減システム ETC スマートキー マニュアルAC リヤワイパー クリアランスソナー ハロゲン PS PW オートライト
中古価格 178.1万円
トヨタ ヤリス
X 純正8型ディスプレイオーディオ バックカメラ スマートキー オートハイビーム ETC オートライト コーナーセンサー Bluetooth接続 HDMI入力 セーフティセンス 禁煙車
中古価格 182.9万円
トヨタ ヤリス
X セーフティーセンス 禁煙車 8インチディスプレイオーディオ バックカメラ ETC Bluetooth スマートキー オートライト オートマチックハイビーム
中古価格 182.9万円
トヨタ ヤリス
ハイブリッドG 登録済未使用車 雹害修理車 フルセグ メモリーナビ バックカメラ 衝突被害軽減システム ETC LEDヘッドランプ
中古価格 231.4万円
トヨタ ヤリス
ハイブリッドZ ブラック&アバンギャルド ディスプレイオーディオTV付 車載ナビ HDMI Bluetooth PVM BSM SEA PKSB ETC2.0 アクセサリーコンセント カラーヘッドディスプレイ
中古価格 294万円