リトラクタブル・ファストバックという必然 マツダ・ロードスターRFは乗ってみてわかる!だがスペック解説を読んでさらに納得だ!
- 2019/04/03
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MotorFan編集部
マツダ ロードスターRFの電動ハードトップは、先代のNC型とは異なるスタイルが採用された。さらに、2.0ℓエンジンの搭載、ホイールの大径化など、ソフトトップ車と異なる点も少なくない。注目されるルーフ開閉システムの採用理由や技術とともに、ロードスターRFならではのメカニズムやスペックを解説していこう。
REPORT●安藤 眞(ANDO Makoto)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本記事は2017年1月に取材したもので、登場する車両は2018年夏のマイナーチェンジ前のモデルです。
マツダ ロードスターRFのパッケージング
■電動格納ルーフを採用しながらソフトトップ同等のパッケージ
マツダ・ロードスターの楽しさといえば、意のままに操れる“人馬一体”感だが、もうひとつ忘れてはならないのが、オープンエア・モータリング。空気の匂いや流動感を感じながらのドライブは、自然と一体になったような爽快感が味わえる。
とはいえ日本の気候では、オープンにして気持ちの良い季節は限られるし、近年ではゲリラ雷雨などもある。そうした状況にもスマートに対応できるのが、ロードスターRFの電動リトラクタブルハードトップだ。
しかも、単に電動式のハードトップを架装しただけではなく、ソフトトップ車とは異なる世界観を表現している。ソフトトップ車はカジュアルな服装で気負いなく乗るのが似合うが、リトラクタブルハードトップ車は、ネクタイに革靴姿で乗っても違和感がなく、ドレスアップした女性を助手席に乗せ、ホテルのエントランスに乗りつけるようなシーンもさりげなくこなしてしまう雰囲気を持っている。
それはルックスだけに止まらない。アクセルペダルを踏んで走り出した瞬間、ソフトトップ車はアドレナリンが分泌されるのに対し、リトラクタブルハードトップ車は、セロトニンが分泌されているかのような多幸感に包まれる。
こんな抽象的な解説を読むより、実際にロードスターRFに乗っていただくのが手っ取り早いのだが、ともあれパワーフィールからライド&ハンドリングまで、ソフトトップ車とはまったく異なるテイストをつくり上げたメカニズムについて解説していこう。
まず外形寸法。こうしたモデルを派生させる場合、ルーフの格納スペースを確保するためにホイールベースを伸ばす例も散見されるが、ロードスターRFはそれを行なっておらず、全長3915㎜×全幅1735㎜のコンパクトサイズと2310㎜のホイールベースは維持。全高のみ10㎜高く、1245㎜となった。
ロードスターNC型との大きな違いは、デザインを大きく変えていること。NC型がソフトトップのイメージをリトラクタブルハードトップでも忠実に再現しようとしているのに対し、ロードスターND型ではファストバッククーペスタイルとして、エレガントなイメージを訴求する。オープンにした際にも、Bピラーから後ろの骨格は残り、タルガトップ風のシルエットになる。
実はロードスターRFの開発段階では、NC型のように完全格納される案からスタートしている。しかし、ソフトトップの格納スペースに硬いルーフを収めるには、8つのピースに分ける必要があり、コストや重量、動作時間や見栄えなどの点で実現困難なことが判明。オープン時の安心感や整流効果などからも、ファストバックスタイルに落ち着いた。ちなみに車名の“RF”とは、「リトラクタブル・ファストバック」の頭文字を取ったものだ。
ルーフの構造そのものについては、 ボディの項で詳述する。パッケージングの観点からは、ルーフの格納スペースはソフトトップ車とほぼ同等。トランク容量は3ℓ減っただけの127ℓが確保されており、航空機持ち込みサイズのキャリーバッグ(550㎜×400㎜×250㎜)2個の積載を可能にしている。
キャビンのレイアウトや乗員配置 については、ロードスターRFはソフトトップ車と同じだが、ルーフの形状が居住性にどのような影響を与えているかを実車でチェックしてみよう。
ドアのオープニングラインもソフトトップ車と共通なので、乗降性も変わらず。もともとヒップポイントが低いため、大腿四頭筋にはそれなりの負担がかかるが、間口の天地が実測で750㎜と高く、サイドウインドウのタンブル(内倒れ角)も大きいので、身長181㎝の筆者でも頭の動線はスムーズだ。
サイドシル高は実測約370㎜と、セダンやハッチバック車と同等。幅も約180㎜と広過ぎないため、軸足をクルマの近くに着くことができる。重心の水平方向の移動量が少ないから、上半身を腕で支えなければならないという瞬間はない。
シートクッションとステアリングホイールの隙間もきちんと確保されているので、足を知恵の輪のように動かす必要もない。最後に足を引き上げる際に、腸腰筋に少し負担がかかる程度だ。
ドライバーに与えられたロードスターRFのワーキングスペースは、必要にして十分。素早い操舵をしても、ドアアームレストに肘が当たるなどということはない。左脚はフットレストとセンターコンソールでロックできるため、高Gでの旋回時にも、下半身の安定は得やすい。
マツダ・ロードスターRFでは、人間中心の開発思想に則り、ペダル類は体の中心からかかとが均等に開くように配置。アクセルペダルはオルガン式だ。ステアリングホイールはφ366㎜と小ぶりだが、小さ過ぎずメーターの視認性も及第点だ。
走行関連の情報はメーターパネルに集約、快適性や利便性の情報は高い位置にある液晶ディスプレイに配置した“ヘッズアップコクピット” によって、視線を落とすことなく運転することができる。“マツダ コネクト”と呼ばれるナビ・オーディオは、コマンダーコントロールを使ってブラインド操作が可能となっている。 ソフトウェアがアップデートされた2015年以降、非常に使いやすくなった 。
さて、シートポジションを合わせると、スライドは最後端から6ノッチで丁度良い。背もたれとリヤバルクヘッドの間には隙間ができるため、薄めのブリーフケース程度なら滑り込ませることができる。
ロードスターRFのヘッドクリアランスは設計値ではソフトトップ車より15㎜少なくなったとのことだが、筆者でも手のひら1枚、30〜40㎜の余裕はある。ソフトトップ車よりも、マインド的に背もたれを1〜2ノッチ寝かせたくなるから、実質的には「同じ」と言っても良いのではないか。
前方視界についてはまったく同じ。 運転姿勢からフェンダーの峰が見え、視覚的にもクルマの挙動変化が掴める。Aピラーが後方に引いてあり、水平方向の見開き角は大きい。
後方視界は、ソフトトップ車より良好(もちろんルーフを閉じた時)。リヤウインドウの幅が広く、ドライバーに近いため、見開き角が広く取れている。クォーターウインドウはダミーだが、助手席のヘッドレストと重なる位置にあるので、視界にはほぼ影響はない。
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マツダ ロードスターRFのボディ
■見た目にも所作にもこだわったロードスターRFの美しいルーフ形状と開閉機構
ロードスターRFのボディの基本部分はソフトトップ車と共通。ルーフを強度部材に使えないオープンボディであるため、フロアトンネルにも骨格を配置したバ ックボーンフレーム構造を採用。断面の確保と稜線の直線化によって、十分な強度と剛性を確保する。
高張力鋼鈑の使用比率は63%と高く、最高グレードは1500MPa級のホットスタンプ鋼鈑。ダッシュクロスメンバーとフロアトンネルの縦壁をつなぐ部分に採用されており、前面衝突荷重をトンネル方向でも支持する。さらに、サスペンションサブフレームも利用したマルチロードパス構造を採用し、北米の厳しい衝突安全基準にも適合する。
ロードスターRFの基本ボディの概要はこれくらいにして、ここからはリトラクタブルルーフの構造を見ていこう。ルーフパネルはフロントルーフとミドルルーフに分割されており、さらにミドルルーフの下方に、リヤウインドウが垂直に近い角度で配置されている。この3つのピースが片側7本のリンクで結ばれており、左右に付けられた2個のモーターによって、格納時は後方に回転。ミドルルーフはリヤウインドウの後ろを回り、いちばん下に格納される。
フロントルーフはアルミ合金製とする一方、ミドルルーフには鋼鈑を採用。格納部分の重量は約8㎏だ。ミドルルーフを鋼板製としているのは、厚みを抑えたかったから。アルミで薄くつくると剛性が不足し、鋼板の補強が必要になって、トータルでの重量は軽くならないからだ。
リヤルーフは、クォーターウインドウからルーフエンド、格納リッドまでが一体となっており、スチールの骨格にSMCプラスチックの外皮を被せた構造。SMCは“シートモールディングコンパウンド”の略で、GFRP(ガラス繊維強化樹脂。いわゆるグラスファイバー)の一種だ。ガラス繊維に熱硬化樹脂を含浸させ、フィルムでサンドイッチしたシートを金型でプレスして整形する。
リヤルーフは一部品が開閉するだけなので、リンク構造はシンプルなパンタグラフ式。こちらもモーターは左右に1個ずつ付いている。
リヤルーフは側面視ではクーペスタイルだが、最後部にウインドウガラスは嵌っておらず、ミッドシップ風のバットレススタイルとなっている。ウインドウガラスを嵌めてクーペ(タルガトップ)にしてしまうと、 開放感が減少するだけでなく、この角度は空力的にも避けたい角度。ロードスターRFの格納式リヤウインドウならば、排気音がドライバーの耳にダイレクトに届くという効果も得られる。
開閉部の見切り線にはこだわった。開閉機構の内蔵や組み付けを成立させるには、見切り線を外側に広げてしまうのが簡単だが、そうすると見た目がバスタブのようになってしまい、ロードスターらしい色気を感じさせるリヤフェンダーの抑揚が台無しになる。そこで、まずリンク機構の薄型化を実施。それでも真上から組み付けることはできず、一旦、キャビン側に落とし込んでから後方に移動させるという工程で組み付けを行なうことで解決を図った。
リッドが閉じた際の、リヤフェンダーやトランクリッドとの“合い・ 添い”品質にもこだわった。リヤルーフには2本のピンと2個の樹脂製ラッチが付いており、この4点で位置決めを行なっている。それだけなら「よくある構造」だが、リッド側のラッチには厚さ0.5㎜のシムが用意されており、規定の“合い・添い”になるよう、1台ずつシムによる調整が行なわれている。
さらにこのラッチはGFRP製で、操縦性能の面にも配慮されている。リヤサス上部をシェル状に覆うリヤルーフは、リヤサスの支持剛性向上にも効果を発揮するが、過剰過ぎてリヤの剛性が勝ち過ぎると、アンダーステアが強くなってしまう。そこで、ラッチの形状とガラス繊維の配合率をチューニング。剛性バランスを調整することにより、俊敏な操舵応答性の確保を図った。
ロードスターRFでは、ルーフを部分格納としたことで、格納動作もシンプル化でき、所要時間は量産車世界最短の約13秒。筆者も試乗時に信号待ちをしながら開けて見たが、十分な余裕を持って格納作業は終了した。
格納操作の上でロードスターNC型から進化したのは、開閉行程がすべて電動になったこと。NC型では、ヘッダー部のロックを手で解除/ロックする必要があったが、ロードスターRFはこれをモーター駆動とすることで、センターコンソールにあるスイッチ操作だけですべてが行なわれるようになった。こ れならば、高速道路のパーキングエ リアで休憩する際にルーフを閉めるのも負担にならない。
ロードスターRFのルーフの動きは非常に滑らかで、リヤルーフが上昇しきる前に格納部分が動き出す。その様は、日本舞踊の手の動きを見ているようだ。そして最後は、料亭の女将が襖を閉めるかのように、ゆっくりと減速してリッドが閉じられる。
この動きを実現するには、5個のモーターを協調制御する必要があり、NC型よりECUの容量を拡大している。作動音もチューニングされており、樹脂製ギヤの歯面強度を調整したり、グリスを塗布したりといった対策が行なわれている。
ロードスターRFは静粛性の面でもソフトトップ車を上回る。ルーフをハードにすれば遮音性が高まり、車内騒音が小さくなるのは当然だが、ルーフライニングに吸音効果を持たせ、フロントルーフにはシンサレート製の吸音材を内蔵することで、残響感も抑制している。
一方で、上からの騒音が少なくな れば、相対的に下からの騒音が大きく感じられるようになる。そこでロードスターRFは、まずリヤフロアパネルの合わせ面に開けた軽量穴の上に樹脂製の遮音カバーを設定。音の侵入経路には吸音材を貼ることで、リヤまわりからの騒音を低減している。
ダッシュパネルのシンサレート吸音材も、厚さと面積を拡大。フロアトンネルに開けられたシフトレバーの穴から抜けてくる音にも対策を行ない、パワートレーン系の発する騒音の侵入も抑制。その効果はオープン時でも感じることができ、パッセンジャーとの会話も痛痒なくできる。
しかも、「騒音」と感じられる周波数をカットしながら、「サウンド」はしっかり残されており、加速時には乾いた爽快なエキゾーストノートを楽しむことができる。
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