McLaren 570S Coupe 随所に見え隠れするF1由来の技術に驚き、感心する:マクラーレン570Sクーペ
- 2019/02/22
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世良耕太
「マクラーレン」と聞いて、F1を想像するか、スポーツカー(あるいは、スーパーカー)を思い浮かべるか(ベビーカーを思い浮かべる人は、本サイトでは少ないか)、人ぞれぞれだろう。今回取り上げる570Sは、モノセルⅡと呼ぶCFRPモノコックを使うミッドシップのスポーツカーだ。F1ジャーナリスト世良耕太が、F1を思い浮かべながら、570Sに試乗した。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
8速縦置きギヤボックスを搭載するF1は、ステアリングの裏にあるパドルを操作して変速を行なう。発進時はハンドクラッチを使用するが、以後はパドル操作のみで変速する。右がアップシフトで左はダウンシフトなのが一般的で、さらにいえば、左右のパドルがつながっているケースが多い。つまり、左右に独立したパドルが配置されているのではなく、1本のバーで構成されている(分割式パドルを採用するチームもある)。
なぜこのような構造にするかというと、片側のパドルでアップシフトとダウンシフトの両方の操作を行えるようにするためだ。右のパドルを手前に引けばアップシフトするが、奥に押せば、(左側のパドルとつながっているので)左は手前に引いた状態になり、ダウンシフトが完了する。転舵していて左右どちらかの手が苦しいときに便利だ。
マクラーレン570SクーペのCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製シフトパドルには右に「+」、左に「−」の表示があるが、左右一体の構造なので、右のパドルを奥に押せば、自動的に左のパドルは手前に引いた状態になる。「F1と同じ」だと思うと、それだけで気分は高揚する。
F1と同じなのは車体骨格も同様だ。マクラーレン製ロードゴーイングカーの伝統で、570Sクーペも例外なくカーボンモノコックを採用している。モノセルIIシャシーと呼ぶカーボンモノコックの重量は、わずか75kg。「II」の表記が示すとおり進化しており、進化ぶりは乗り降りするたびに味わうことができる。
モノコックはバスタブ型で、上半分がオープンになった構造を引き継いでいる(ルーフまで一体になっていない)。剛性を確保するためにサイドシル部を太くするのがカーボンモノコックを設計する際の常套手段なのだが、引き換えに乗り降りはしづらくなる。モノセルIIは背反する要素を見事に解決し、乗り降りの際に足が通過するサイドシル部前側を低く抑えることに成功した。幅が広いのは相変わらずだが、乗り降りで苦労するほど高い(幅広い)ハードルではない。
カーボンモノコックの競技車両を自分で運転した経験は数えるほどしかないし、助手席での体験も含めてごくわずかだが、体は「乗った感じ」を覚えているとみえて、570Sクーペを転がした途端、「同じ」だと感じた。カーボンモノコックならではの味を伝えてくる。駐車場などを微低速で走っているときは、グリップの高いタイヤが砂利を跳ね上げ、その砂利がホイールハウスにあたってチリチリと音を立てる。
きっかけを与えるだけで跳ね上がるディヘドラルドアを開けて確認してみると、フロントのホイールハウスとキャビンが極めて近い位置関係にあることがわかる。砂利がカーボンモノコックをダイレクトに叩いているわけではないが、音の発信源の近さにも由来するチリチリ音は確かに、カーボンモノコックのレーシングカーと同種だ。
路面からの入力はタイヤ〜サスペンションを経由して最終的にはモノコックで受け止めるが、受け止めたときに起こる変位や発生する振動はカーボンモノコックに独特で、他の材料(スチールやアルミ、あるいはそれらの複合構造)とは異なる味を乗員に伝えてくる。カーボンモノコックでしか体験できないこれらの味は間違いなく、マクラーレン570Sクーペの魅力だ。
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