すべてが進化したデイズは新たな軽自動車のベンチマークとなる 【試乗記:日産デイズ】渾身のブレイクスルー
- 2019/06/02
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MotorFan編集部
日産が開発、三菱が生産という新体制で生まれた新型デイズ。新プラットフォーム&エンジンといった変更点はもとよりなんといっても軽初のプロパイロット搭載というのが最大の注目点。すべてが新しく、そしてすべての面において軽自動車という枠を超えるべく、日産のすべてが注ぎ込まれた。
REPORT●石井昌道(ISHII Masamichi)
PHOTO●神村聖(KAMIMURA Satoshi)
日産が自ら開発を行なった初の軽自動車
日本の乗用車市場は年間約500万台でそのうち軽自動車は200万台弱といったところ。中でもハイトワゴン及びスーパーハイトワゴンの人気が高く、これぞ日本の国民車と言っても過言ではない乗用車の中心的な存在だ。それだけに各メーカーの競争は激化していて、モデルチェンジのたびに商品力がぐいぐいと上がってきている。ひと昔前までは限られたサイズの中で広々とした室内スペースを確保することと、使い勝手の良さや装備の充実などが主な競争領域だったように見えていたが、近年では車体の軽量・高剛性化やパワートレーンの進化などといった走りの質感を高めることにも力が入っているのが特徴でもある。「今どきの軽自動車は走りも悪くない」なんて言っていた段階はとっくに通り過ぎつつあり、下手なコンパクトカーが簡単に叩きのめされてしまうほどに走りの実力の底上げが図られているのだ。
デイズは日産と三菱の共同開発会社、NMKVによって2013年に初代が発売されたが、二代目となる新型は開発が三菱主導から日産主導に移り変わってデビューすることになった。市場の動向を鑑みてプラットフォームとパワートレーンを新開発。ニッサンインテリジェントモビリティの「自動運転化」「電動化」「つながるクルマ」をも取り入れ、プロパイロット搭載などといった新機軸も目新しい。NMKV以前の日産の軽自動車は他社からのOEMだったので、日産が開発するのは実質的にこの新型デイズが初となる。商品力を大幅に向上させることで日本国内のシェアを上げる大チャンスとばかりに気合いが入っているのは間違いのないところだろう。
驚くほどに室内が広いというのは、近年の軽自動車では当たり前で、外寸を変えない限りはもう拡げるのは無理ではないかと思われていたが、新型デイズではエンジンルームを縮小することで進化を果たした。全長3395㎜のうち、従来はエンジンルームが545㎜を占めていたが、これを65㎜詰めて480㎜に。それはそっくりホイールベース延長に振り分けられてキャビンスペースが拡大された。後席ニールームは70㎜も伸びて、大型セダン並。荷室スペースの奥行きも従来から135㎜伸びている。万が一前方衝突した際に、硬いエンジン&トランスミッションがキャビンを変形させることがないよう、高度な衝突安全技術を投入したのだが、なるほどこれは日産の登録車の技術を応用しているわけだ。
走りを確かめてみようとドライバーズシートに腰掛けてみても、これまでの軽自動車とはちょっと違うことに気がつく。座面が適度に沈み込んで綺麗に体圧が分散して快適にフィット。ソフトタッチで心地いいが、ただ柔らかいだけではなくしっかりとした芯が感じられて自動車のシートとしての安心感もある。街乗りメインのイメージが強い軽自動車だが、これならロングドライブに出掛けても疲れないだろうといううれしい予感がある。
トルク感がありキビキビと走れるノンターボエンジン
まずはノンターボの標準車で走り始めたが、さすがに新開発エンジンだけあって常用域でのトルクが充実している。それなりに交通量がある街中での発進を想定した走りでは、2000rpm前後でもするすると30〜40㎞/hに速度が伸びていく。2000rpm以上に上げていけばキビキビ感が出てきて、3000rpmなら流れの速い郊外路のペースも無理なく維持できる。こういった日常的な走りの中ではエンジン音はかなり静かで存在をあまり感じないほど。遮音材なども増やされているが、エンジン自体の剛性が上がって音・振動が抑えられたことで音量が減り、音質としても安っぽい低級音がなくなったのだ。
活発な走りを楽しもうとすれば3000〜4000rpmを多用することになり、エンジンの存在を明確に感じるようになるが、やはり音質がいいので耳障りになることはなく、逆にドライビングの歓びを増してくれる。その回転域でもトルクの衰えはなく、右足の踏み込みに対してレスポンス良く反応。ノンターボでも必要十分を少し超えたぐらいのパフォーマンスだ。
CVTは、強い加速を求めるとエンジン回転が先行して上がり高回転に張り付いて、速度が後からついてくるいわゆる『ラバーバンドフィール』が気になるものだが、新開発のCVTはDステップ変速を採用して払拭した。強くアクセルを踏み込んで加速していくと、6250rpmで一旦張り付いた後に6500rpmまで上がってシフトアップ。5750rpmに落ちて再びトップエンドを目指していくという、有段ギヤのような制御をする。確かに間延び感がなくなり、ダイレクトな全力ダッシュが爽快だ。
新たなS-HYBRIDは従来の鉛電池からリチウムイオン電気に換装することで性能向上が図られた。回生エネルギーは従来比約2倍、アイドリングストップ時間は約10%アップ、モーターアシスト時間は10倍以上となる。
モーターアシストは明確に体感できるほど加速を上乗せするわけではないが、実用燃費向上には大いに効果を発揮。また、アイドリングストップからの再始動のスムーズさが際立つのがメリットとなっている。ノーマルはキュルキュルと、普通にセル始動するが、S-HYBRIDはモーター始動なので静かで振動もなく、自然な感覚でスタートしていけるのだ。エンジンが止まる時も、ゼロ㎞/hに速度が落ちる前にフッとアイドリングストップし、少しでも燃料を節約しようという意思を感じてうれしくなる。停止する直前に信号が赤から青に変わり、慌てて加速に移るなんて時も、素早くスムーズにエンジン再始動となるので違和感がない。S-HYBRIDはアイドリングストップの煩わしさを完璧に払拭してくれるのだ。
ターボに乗り換えてみるとさすがにパワフルで、すぐに全開加速を試してみたくなった。アクセルをベタッと踏みつけると、3500rpm以上の回転上昇が鋭く、一気に6500rpmまで上がっていく。シフトアップして5250rpmに落ちてからも回転上昇の勢いは衰えない。80㎞/hまでははっきりと速いと思える加速感があり、そこを超えても頭打ち感なく100㎞/hまでスムーズに伸びていく。
どの速度域、エンジン回転数でもトルクが充実していて頼もしいが、最も楽しいと感じるのは3000rpm前後。レスポンス良く太いトルクで応えてくれるから、思わず元気に走りまわりたくなる。これなら高速道路や登り主体のワインディングロードなどでもストレスを感じることはないだろう。
エンジンは新開発のBR06の自然吸気とターボを搭載。いずれもスペック上の数値で先代を上回るのはもちろん、全域で力強さを増し、運転した時の力感に明確な違いを感じられる。また、ハイウェイスターには自然吸気、ターボともに2.0kW/40Nmのスマートシンプルハイブリッドを搭載。加速時に駆動をアシストしてくれる。
運転しやすさを徹底的に追求したという運転席まわり。先代よりも左右方向に広がりのある視界を確保するとともに、ボンネットの見切りからバンパー前端までの距離を短くすることで車両感覚をつかみやすくしている。また、運転席足元とショルダールームも広げ、余裕のある広さを実感できる。メーター内にはカラフルで見やすい4.2インチTFT液晶を配置してさまざまな情報をわかりやすく表示してくれる。
軽自動車を超えた高い操縦安定性とそれでも損なわれない快適性
コーナーの連続を気持ちいいペースで駆け抜けていると、ハイトワゴンらしからぬ爽快なハンドリングの持ち主であることに気が付いた。この手のモデルは、一定のペースを越えると徐々にステアリングの手応えが薄くなって、あまり曲がらない印象になるのが常。それほど操縦安定性が高くないから、ほどほどの俊敏性に抑えているわけだが、デイズはステアリング操作に対して忠実で、ハイペースでも高い一体感を感じさせながらライントレースしていった。限界に近いような走りをしていても、ステアリングを切り増せばもう一段階グリップ力を引き出せてノーズがインへ向いていく様は、完全にハイトワゴンのレベルを超えていて、良く出来たコンパクトカーのよう。パワーステアリングもフリクションがなくてスッキリしていて滑らかだ。
こういった運動性能を持たせることができるのは、然るべき操縦安定性があることの証でもある。今回はテストコースでの試乗だったので、非現実的な領域で走らせても安定感のある走りを披露してくれた。
それでいながら乗り心地もいいのだから驚かされる。乗り味はフワフワと柔らかくはなく、しっかり感を基本としているが、ゴツゴツとしたイヤな突き上げ等がない。大きく鋭い突起に対しても穏やかな入力感で受け止め、上下動を後に残さないスッキリとしたテイスト。無用にフラつくことはないが、快適性を損なうこともない絶妙なバランスにセットアップされているのだ。
そして、プロパイロットを軽自動車に初採用したのもデイズの大きな話題。車格に合わせて何かを省いたりすることはなく、セレナやエクストレイル、リーフなどと同じフルスペック仕様となっている。
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