なぜ我々はスポーツカーに乗るのか? その魅力について改めて考える 「スポーツカーと暮らした時間のある人生」を──2台のマツダ・ロードスターで木曽路を目指す旅
- 2019/06/07
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MotorFan編集部
ND5RCロードスター
最初は断った。会議が続いていてどうやっても一泊二日の時間が取れないから、と。それでも副編Kは、「いいからいいから、つべこべ言わずに。すでに2台、ロードスターの広報車を押さえましたから。行くところも決めてますから」という。
仕方なく、6月のある平日、最新のロードスター(ND5RC型)を乗り出す。もちろん、試乗会で乗ったこともあるし、初めてではない。
早朝、イグニッションをオンにする。盛大な排気音(と思っているのは、車内にいる人だけ。外で聞くと大人しいものだ)。カメラマンを迎えに行く。品川区の狭い裏通りを抜ける。ガード下、高架を電車が走る。とてつもなくうるさい。そうだよな、ソフトトップだもん。雨が降ってくる。リヤウィンドウは、ガラス製。初代のようなウエスは必要ない。でも、ナビゲーションシステムはなし。
1.5ℓ直4エンジン搭載。131ps/150Nm。車重990kg。全長3915×1735×1235mm。ホイールベース:2310mm。現行ロードスターの最廉価グレードの「S」である。もちろんMT。あれれ? なんだよ、これ? 同じじゃん?
最初に乗ったNA型ロードスターは、1.6ℓ直4エンジン搭載。120ps/137.3Nm。車重940kg。3970×1675×1235mm。ホイールベース:2165mm。税込価格は254万8800円。
なんだよ、NDロードスター、楽しいじゃないか! 変わってないじゃないか!
カメラマンとボクの一泊二日分の荷物はトランクにぎりぎり収まる。
左足でクラッチペダルを、左手でシフトレバーを、右足でアクセルとブレーキペダルを操作する。目は次の信号とコーナーを見ている。五感を少しだけ研ぎ澄ます。自転車やスキーと同じだ。一度覚えた操作は、身体が忘れていない。これも楽しい。中央高速に乗る。100km/hも出せば、もう充分「速い」。
中央高速の談合坂SAで、もう一台のロードスターに乗ってきた副編Kと落ち合う。型式NDERC型。マツダ・ロードスターRFである。RFの意味するところは、リトラクタブル・ファストバック。グレードはRS。現在最も高価なロードスターだ。試乗車は371万5200円である。RFは、ロードスターと違って、北米試乗で設定のある2.0ℓ直4DOHCエンジン(158ps/200Nm)を積んでいる。トップ上げたRFは、オトナっぽいオシャレなクーペだ。マツダが「マシーングレープレミアムメタリック」と呼ぶボディ色はじつに艶っぽくて高級だ。
高速道路で前を走るRFは、ロードスターのベーシックモデルSと比べてるとずいぶんペースが違う。2.0ℓのエンジンとハードトップのおかげか、ペースが速い。
高速道路をKがドライブするRFに続いて降りる。ここで、乗り換えだ。
RFの室内は、最新のクーペモデルに相応しいの装備と質感を持っている。2.0ℓエンジン、マツダ・コネクトのナビテーションシステム、レカロ製シート、ビルシュタイン製ダンパー、205/45R17サイズのタイヤ。その代わり車重は1100kgとなっている。こちらもトランスミッションは6速MT。ドライブコースは、ビーナスラインである。
平日の午前中に、ビーナスラインをスポーツカーで走る。これって、もしかして至福の時? ロードスター「S」とロードスターRF「RS」を乗り換え乗り換え、ビーナスラインを往復する。カメラマンが待つ撮影ポイントの前を何回となく走る。いつの間にか空は青空。もちろん、トップは両車ともに下ろしたまま。通り過ぎていったNCロードスターのドライバーが、手を振っていく。
本稿のテーマとは少しずれるが、RFとSの印象を記しておく。ボクが気に入ったのは、ベーシックグレードのSだ。マツダ開発陣が想定したとおり、「NAロードスターの再来を狙った」通りの乗り味だ。リヤのスタビライザーを省略したSは、コーナーで大らかなロールを許す。これがとても気持ちいい。乗り心地も常用域ではとても素晴らしい。もっと腕のいいドライバーがもっとハイペースで飛ばせば違ったインプレッションになるのだろうが、ボクも含めたアベレージのドライバーなら、Sの乗り味はまったく不満がない。車重が重く、ビルシュタイン製ダンパーとリヤスタビライザーを奢ったRFのRSは、NDロードスターファミリーの最左翼と最右翼となるわけだが(どっちが左でどっちが右かはここでは書かない)、ボクならSを選ぶ。
広報車を返却する際にマツダの担当者と話をしたところ、「SとRS、どちらが好みかは、完全に二分されるんです。NCの足を固めたカチッとした乗り味が好きな人は、RSが良いって言いますよ」だそうだ。「ボク、昔、NAに乗っていたんですよ」と話すと、「NAに乗っていた人は、そりゃもうSが一番楽しいっておっしゃいますよ」とのことだった。
さて、Kが決めた目的地は、中山道・奈良井宿だった。宿に到着したのが、午後5時前。いつもなら、まだ仕事に追われている時間だ。奈良井宿に2台のロードスターを停めて撮影。地元のおじさんやおばさんが寄ってきては、「これ、あれだろ? そう、これ、マツダだろ?」と声をかけてくる。「そう、マツダのスポーツカーですよ」と答える。
江戸時代の風情が残る奈良井宿に赤とグレーのロードスターは、自然と馴染む。日が暮れたら、撮影はお仕舞い。風呂を浴びて、手の込んだ美味しい夕食と日本酒。「おい、なんだよ、楽しいじゃないか」
オーストラリアから来た老夫婦、バイク・ツーリングのグループとどこをどう走るか走ったか、話ながら夜が更けていく。「どうです? たまにはいいでしょ? このところ、会議と会議の間、せかせか歩き回ってため息ばかりついてますよ。こういう時間、必要でしょ? スポーツカー、いいでしょ?」と副編Kが笑う。
そうだ。スポーツカーに乗ろう。これが本特集のテーマだ。そして幸運なことに日本にはたくさんのスポーツカーがある。多くの人たちは、一度もスポーツカーをドライブすることのない人生を歩む。「スポーツカーのある人生とない人生」なんて大げさなことは言わない。でも「スポーツカーと暮らした時間のある人生とない人生」なら、「ある人生」が断然いい。
ボクもいつか、スポーツカーを再び手に入れたいと強く思った。そして、それはたぶんマツダ・ロードスターになるんだろうな、と。
かつてスポーツカーと過ごしたことのある人はもう一度。ない人は、スポーツカーに「つべこべ言わずに」乗ってみてください。
■マツダ・ロードスター S
● 全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm ●ホイールベース:2310mm ● 車両重量:990kg ● エンジン形式:直列4気筒DOHC ● 総排気量:1496cc ● ボア×ストローク:74.5×85.8mm ●圧縮比:13.0 ● 最高出力:96kW(131ps)/7000rpm ● 最大トルク:150Nm/4800rpm ● トランスミッション:6速MT ● サスペンション形式:Ⓕダブルウィッシュボーン Ⓡマルチリンク ● ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク ● タイヤサイズ:195/50R16 ● 車両価格:249万4800円
■マツダ・ロードスターRF RS
● 全長×全幅×全高:3915×1735×1245mm ●ホイールベース:2310mm ● 車両重量:1100kg ● エンジン形式:直列4気筒DOHC ● 総排気量:1997cc ● ボア×ストローク:83.5×91.2mm ●圧縮比:13.0 ● 最高出力:116kW(158ps)/6000rpm ● 最大トルク:200Nm/4600rpm ●トランスミッション:6速MT ● サスペンション形式:Ⓕダブルウィッシュボーン Ⓡマルチリンク ●ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク ● タイヤサイズ:205/45R17 ● 車両価格:373万6800円
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