【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 5回目】いよいよスタイリング───その1
- 2019/07/11
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MotorFan編集部
美しいと多くの人に認められたクルマは強く記憶に刷り込まれ、次を生み出す際のモチーフになったりする。しかし、本来デザインとはその製品が果たすべき機能を表したもの。表面をなぞるのではなく、内から湧き出る結果であるべきだ。クルマに求める性能を満たしたい。そのためにスタイリングが決まっていく。空力要求から美しい姿をまとったクルマたちから受けた衝撃を振り返ってみる。
TEXT●難波 治(NAMBA Osamu)
このコラムの初回に書いたように少しばかり自動車(特に乗用車)に奥手だった僕は、大学で工業デザインを学んではいたのだが、大学も3年生になった頃にようやく自動車デザインへ進みたいという意識が芽生えてきたように記憶している。多分それはその頃に運転免許証を取り、兄が使っていた中古車のおさがりをもらい受け(サードハンドである)、少しづつではあるが、しかし急速に車の楽しさに気づき始めていたからだと思うのだが、やっぱりスタートとしては少々遅かったように思う。
当時、同級生には根っからの“自動車大好き青年”がおり、僕は彼から車のスケッチを学んだ(大学のデザインの先生で自動車デザインを教えられる先生のいない時代でしたから)。また、その同級生の下宿部屋の本棚に並んでいたCar Stylingを目にするまで、そのような自動車デザインの専門誌があることさえも知らずにいた(三栄書房さんすみません!)。ボールペンを使用したスケッチから始まって、パステルで仕上げたレンダリングなどを描き始めたのはさらに大学も4年生になろうかという頃だったように思う。
しかし一旦車が好きになると若さも手伝って一気に車にはまっていった。時間を見つけては自分の所有となったオンボロを必要もないのに磨いたり、それこそいま思えば何の足しにもならないのにボンネットを開けてプラグを磨いてみたり、ディストリビューターの接点を擦っていたり。もちろんホイールはアルミにし、70%扁平率のラジアルタイヤにもしたし、ヘッドランプはマーシャルに変えた。そしてどこに行くにも車を使った。さらには兄の影響もあって僕のオンボロ(当時すでに10年選手のポンコツ)で他大学主催のラリーに出場してみたり、兄の車でコ・ドライバー(ナビ)をやったり。そういえばJAFが開催しているライセンス講習会にも行ったように思う。そしてその頃に読み漁った自動車の構造に関わる入門書の中身は、その後のデザイナー人生で役に立った。
大学を卒業した後、カーデザイナーを志した諸先輩方がすでにカーデザイナーとして、しかも海外で大活躍されている頃に遅ればせながらようやく日本の片田舎の自動車会社のインハウスデザイナーとなった僕は、まだまだ鎖国状態で極度に視野が狭く、しかも折からのスーパーカーブームの影響もあって「カーデザイン」とはとにかく全高が低く、ウェッジシェイプでないと「カッコイイ」車ではないと思い込んでいた。もちろん自動車のパッケージなどわかっていない。だからミッドシップレイアウトでもないのにAピラーの付け根を前に移動させ、フロントウィンドウを寝かせ、ルーフを下げたうえに、ベルトラインが強くウェッジしたスケッチばかりを描いていたように思う。それが格好いいと思って社内のデザインスケッチプレゼンで恥ずかしくもなくスケッチを審査室のボードに得意満面で貼っていたのだから恐ろしい……。
いま、歴史を振り返ってみるとカーデザイン全体の流れからみて、当時はまだ「デザイン」というよりも「スタイリング」全盛の時代で、ブランドを立てるというような観点はほとんど考えたことがなく、各車種ごとに最適だと思えるスタイリングをトライしていた。イタルデザインができて10年後、ガンディーニがベルトーネを辞め独立した頃である。僕らは彼らを追いかけていた。日本の自動車会社もインハウスのデザイン組織ができつつあり、企業内で設計者とデザイナーが一緒になって車を設計し始めていたが、まだその頃はカロッツェリアが元気だった。日本の自動車メーカーも社内デザインを推し進めていたが、多分ほとんどすべてのメーカーがイタリアのカロッツェリアにデザイン委託をしていた時代だ(量産したかどうかは別として)。
とにかく僕はそのような巨匠達の仕事の上っ面だけしか見ていなかったので、デザインは完全に個人の感性に依るものだと思っていたし、純粋にデザイナー個人のクリエイティビティから発するスタイリングをすれば良いと考えていた。(このデザイナーとしての本質的な資質の部分は現代においても決して変わることはないのだが、企業としてのデザイン開発の姿勢や目的が変化しているのでいまは発想のアプローチが少しばかり変わっている)。
Cisitalia 202SC
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