マツダ3:300万円を切る価格でこの走りと質感を実現したマツダ3は、買いだ! 「マツダは裏切らない」実用性を失うことなく美しいデザインと走りを両立させたマツダ3セダン
- 2019/09/06
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MotorFan編集部
アクセラから世界共通の車名に変更となった「マツダ3」。発売前から話題のマツダ3には人気のファストバックのほかにセダンもラインアップされる。セダン離れが久しい昨今だが、マツダ3のセダンはどうか? SKYACTIV-G搭載のマツダ3セダンに自動車評論家の瀨在仁志が試乗した。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
「若者の自動車離れが大きい」と聞いて随分と経つけれど、その間を振り返ってみても、出てくるクルマは軽自動車やミニバンばかり、たまに走りに振ったモデルに期待を寄せるものの、300万円を超すプライスに肩を落としてしまう。いまどきの働き盛りにしたって、こんな金額じゃ、手が出せない。ましてや免許取りたてのバイト諸兄にとっては食指を動かすことさえできないだろう。
誰が言ったか知らないが、若者の自動車離れじゃなくて、自動車業界の若者切りが先なのだ。もちろん利益に目がくらんだ自動車メーカーにその責任はある。マニュアルミッションにしたってFRモデルにしたって、若者離れを嘆くメーカーほど、さっさとカタログから消したのだ。たまに自慢げに出したMTに乗っても3速で150km/h 出てしまいそうなハイギヤードで、とてもワインディングを楽しむことはできない。言うに事欠いて、MTは売れないだのFRは共有部品が少なくコストがかかる、などのたまうが、こんな意識こそが若者のクルマ離れの元凶、走りの楽しさを知らない、作り手側の戯言なのだ。
そんななか、孤軍奮闘しているのがマツダだ。他メーカーが売れないだの儲からないなどと文句を言っているFRを、月に100台しか売れなくたって30年間作り続けている(ロードスター)。しかも、すでに4世代目になっても年々進化しているし、乗り味は変わらず新鮮で楽しい。価格に関してはさすがお手頃とは言えないまでも、専用シャシーやエンジン、ミッションの採用など、お金のかけ具合が違う。コストパフォーマンスの高さは、昔も今も変わらない。こんなクルマが各メーカーに揃っていたら、いまほど深刻な問題にはなっていなかったように思う。トヨタも頑張っているのはわかるけれど、トップメーカーの責任として、スープラじゃなくて身近なスポーツモデルを作る責任があるはずだ。
前置きが長くなった。マツダの頑張りは今回のマツダ3に乗って、いよいよ盤石な体制になりつつあるように思う。ロードスターへのこだわり同様、世界戦略車のマツダ3はシャシー構造を徹底的に磨き込み、先代のアクセラでさえ日本車離れした骨格を持っていたのにもかかわらず結合部分に小さな当て板を各部に追加したり、接合部分には構造接着剤等用いて一体感あるボディを作り込んできた。
数年前に乗ったマツダ3の試作車では、新設計のリヤサスペンションを採用することによって、安定感とハンドリングの両立を図り、ブッシュ回りのチューニングも的を射て、ヨーロッパ車を狙い撃ちにしていることが充分に理解できた。そのままデビューさせることは当然無理にしても、今回のデビューには大きな期待がかかっていた。
第一印象は『マツダは裏切らない』だった。
曲線を基調としていながらも力強いフォルムは、妥協を許さないマツダの顔を踏襲しているし、次世代に向けての新鮮味も感じる。デザインに関しちゃシロートでもお金がかかっているに違いないと思う仕上がりだ。
室内に目を向けてみれば立体的で肉厚感があるインパネやドア周りは落ち着きもあるし、高級感がある。各部のスイッチ類はデザインもさることながら、タッチが最新のパソコンに買い替えたときのような満足感があって、手抜きが無い。運転していなくてもフツーのセダンとは違って気持ちが動く。普通のクルマにロードスターの持つワクワク感を、見た目やタッチでしっかりと演出してくれている。
走り出してみると、静けさが際立つ。今回の2.0ℓガソリンエンジンは、加速時にシューンと空気が流れるような、力がともなわない吹け上がり感が耳につくものの、アクセル開度に変化がない領域では音の侵入は少なく、よくできていると思う。なによりもシャシー周りの摺動音が感じにくく、精度の高い作り込みが行なわれている印象を受ける。
たとえばリヤサスペンションが独立系からトーションビームに変更され、先入観的には物足りなさを感じてしまうものの、実際には部品点数が少なく各部剛性がアップしていることで、無駄な振動が発生しづらく感じる。摺動部分が少なく、剛性が高いことでスッキリとクリアな音振レベルを生み出し、高い静粛性に寄与してくれているようにも思う。
ただ、乗り心地に関してはリヤ両輪が同時に入力を受けてしまうためか、明確な上下動を発生してしまうのはマイナス要素。さらにタイヤを撓(たわ)ますことによる初期入力の緩和を狙ったコンセプトは、逆に足元をブルブルさせてしまったり、早い入力では減衰しきれずに常に上下動を繰り返させてしまうのはじつにもったいない。確かにタイヤでショックを吸収させるのはひとつの手段に違いないが、いまのマツダにとってはサスへスムーズに力を伝達させる、しっかりとしたタイヤこそがベストだと思う。ボディもサスも日本車離れしたこだわりをもって作り込んでいるのに、タイヤだけは時代に逆行しているようで惜しい。
それでもワインディングに持ち込めば、タイヤの動きからボディへの力の伝達は悪くない。操舵初期はやや頼りなさがあるものの反応後はスッとフロントが沈み込むと同時に一体感のあるボディがしっかりと力を受け止め、リヤサスは即座に踏ん張り方向に動いてくれる。ロールも適度な沈み込み感によって、接地感が失われることなく安定している。
エンジンは相変わらずシューシューと空気が漏れるような頼りなさを感じるものの、SPORTモードを選ぶと、ギヤがキープされることで3000rpmあたりを上下しながらロスなく走ることができる。パワーフィールが頼りなく感じられていたのは、ミッションとの組み合わせによって、キックダウンを待っていたり、ロックアップ制御の味つけのためかもしれない。
いずれにしてもエンジン自体は各ギヤをMTモードで走る限りは力の盛り上がりは薄いものの、2.0ℓNAエンジンとしては並のパワーはある。3人乗車でワインディングを走っても、周りのレベルより少し速い程度のペースは保つことができ、馬鹿にしたもんじゃないと思った。これにマイルドHVなどを加える手もあると思うが、価格が上がってしまっては元の木阿弥。このFF+2.0ℓNAのパッケージングのよさを理解した。
さらにGが高くなってくると手応えがちょっと物足りなくなるのは多分に燃費を稼ごうとしたタイヤのせいだと思って目をつぶる。それでも大きくステアリングを切り込んでいくときに支えてくれたのが腰周りのしっかり感。シートは決してフィット感が良いとか、サポートが良いとかは感じられない一方、背中の下て部分だけはピタリとフィット感があって、身体は横方向に動きずらいし、なによりステアリング操作がラク。シートの張り出しがきつくないから圧迫感が少なく自然なドライビングフィールを味わえた。サイドシートに座るとパッドの緩さは同様に感じられるから、シートが良いのではなくドライバーをサポートする機能が優れていることがわかる。
街乗りから、高速まで含めて3人乗車で走行してきても、大きな不満が残ることはなく、むしろ、SPORTモードでパワーを上手に引き出してくれたり、シートがドライバーの操作を助けてくれたり、安定感の良さが高速ドライブを疲労感なく味わわせてくれたりと、長く乗ってみると意外なほど、走りの良さを実感。チョイ乗りでは力がなく感じられたエンジンも、実用域では悪くなかった。
セダンボディならではのトランクスペースは、開けてみると驚くほど奥が深くて幅広。実用性の高さにも驚かされた。デザイン優先のクルマにありがちなラゲッジルームやキャビンの犠牲が少ない上に、個人的にはスタイリングも悪くないと思う。むしろ、ファストバック以上にまとまりが良く感じられるほどだ。
若者のクルマ離れ同様に、セダン人気の低迷も同時に言われているけれど、実用性を失うことなく、古臭さを感じさせないこんなセダンが早くにあったら、各メーカーも頭を悩ますことがなかったはず。
しかも、お手頃FRスポーツのはずのクルマでさえ大台をあっさり超えてしまうのに、新型マツダ3は300万円を切る価格を実現したことは見逃せない。そんな意味でもマツダはいまの市場に求められているクルマづくりをしっかりと実現している唯一のメーカーだといえるだろう。
マツダの努力が報われるよう、ファストバックはもちろん、このセダンでこそ成功してほしい。各メーカーも嘆いてばかりいるのではなく、ニッチな市場でこそ実力が試されると思って、是非、買いたくなる普通のセダン作りに挑んでもらいたいもんである。
SPECIFICASIONS
マツダ3セダン 20S L Package(2WD)
全長×全幅×全高:4660mm×1795mm×1445mm
ホイールベース:2725mm
車重:1350kg
サスペンション:
F|ストラット式
R|トーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHC
型式:PE-VPS型(SKYACTIV-G2.0)
排気量:1997cc
ボア×ストローク:83.5×91.2mm
圧縮比:13.0
最高出力:156ps(115kW)/6000pm
最大トルク:199Nm/4000rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
燃料:レギュラー
燃料タンク:51ℓ
燃費:
WLTCモード燃費 15.8km/ℓ
市街地モード 12.0km/ℓ
郊外モード 16.0km/ℓ
高速道路モード 18.2km/ℓ
トランスミッション:6速AT
車両本体価格:270万3000円
※試乗車はオプション込み292万3300円
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