ボルボXC60ドライビング・インプレッション①「抜群の運動神経」|SUVレビュー
- 2019/11/21
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MotorFan編集部
美しいボディスタイルに目を奪われてしまうが、新型XC60のポテンシャルは相当高いレベルにある。新プラットフォームの採用により、先代モデルからどのような進化を遂げたのか?T5 AWD Inscriptionのドライバーズシートからインプレッションをお届けする。
TEXT●石井昌道(ISHI Masamichi)
PHOTO●宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)
※本稿は2017年10月発売の「ボルボXC60のすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
新型XC60に採用された新プラットフォームとは?
2009年に登場した初代XC60はボルボの新たなキャラクターを決定付けたエポックメイキングなモデルと言える。それまでも、安全性では絶対の信頼感があり、北欧ブランドらしい上品なイメージで他にはない独自の立ち位置を得ていたが、その昔はデザインや走りにおいては目立った評価を得るほどではなかった。
それが変わり始めたのは1990年代後半から。四角く角張っていたボディは徐々に丸みを帯び始め、インテリアにも独自のテイストを持ち込むようになった。その歩みはゆっくりと見たが、明らかにデザイン・コンシャスになっていったのだ。決定打となったのが初代XC60。SUVにクーペの要素を見事に融合させたフォルムは、数多あるプレミアムSUVのなかでも最も美しいという評価を得て世界中で人気を博すことになった。
また、走りのほうでも驚かされた。もともと快適性や安心感には定評があったボルボの走りが、都会的なSUVに相応しいキビキビとしたスポーティさを持つようになったのだ。プレミアムSUVのライバル達は、走りでも競い合っていたが、そのなかでもハンドリングの楽しさは光っていた。XC60はもとのボルボの良さはそのままに、デザインと走りという新たな魅力によってブランドイメージを飛躍させた立役者なのだ。
そのXC60がフルモデルチェンジを受けることになったが、単なる正常進化の枠に止まらないことは容易に想像がついていた。リーマンショックなどによって親会社が傾き、新たな資本の元に再出発したボルボは、当初は先行きを心配する声も聞かれたが、結果的にはこれ以上ないぐらいに最良の状態になっている。平たく言えば「金は出すが口は出さない」という親会社のもと、自分たちのポテンシャルをフルに発揮して理想のクルマ造りを追えているように見えるからだ。
以前はグループ会社で共有しなくてはならなかったプラットフォームだが、新体制のもと開発したSPAはボルボがボルボのために造り出したもの。それもフロントアクスルからAピラー付け根付近までをフィックスとして、あとは車種ごとにフレキシブルとする新しい発想が採り入れられている。共通化すべきところと自由に設計させる部分を明確に分けたことで、無駄なコストを抑えつつ、モデルごとに最適なクルマ造りが行えるという賢い考え方だ。
SPAを採用した第一弾商品が2016年に発売されたXC90であり、そのV90/S90など90シリーズを続々とリリース。SPAによってクルマの本質的な実力が大いに高められたこと、新世代となったデザインもあいまってバックオーダーを抱えるほどの人気になったのは記憶に新しい。その背景を知っているからこそ新型XC60への期待値はとてつもなく高いわけだ。
そうはいってもヒエラルキー的にはXC90の下に位置するXC60。あまり期待値のハードルを上げすぎても冷静な判断が下せなくなるおそれもあるので、心をフラットにして初試乗へとのぞむことにする。モデルはXC60T5 AWD Inscription。エンジンはガソリンの直噴ターボで、XC60のなかではスタンダードな部類といえる。その他にスーパーチャージャーを追加したT6 AWDプラグインハイブリッドのT8ツインエンジンAWD、ディーゼルのD4 AWDが用意される予定だ。
このインテリアだけでも「買い」の太鼓判が押せる
エクステリアは従来モデルのようにクーペを融合させたものではなく、シンプルにSUVを表現している。だが、SPAはフロントアクスルが前出しされるので、フロントオーバーハングが短くなり、ロングノーズへ。さらに全長は45㎜伸ばされ、全幅は10㎜拡幅、全高が55㎜低くなったことによってフォルム自体に安定感があり、いかにも走りが良さそうなイメージを抱かせる。XC90は威厳があるが、XC60は前後バンパーの絞り込みなどで軽快な印象。格下という雰囲気はまったくないが、付き合いやすそうな親しみを感じさせるのが巧みなところだ。
Inscriptionは装備の充実したグレード。インテリアにおいてもXC90と差を付けられているようには思えない。縦型の大型スクリーンやキラキラとしたエンジンスタートスイッチなど新世代の特徴的なところは共通。ウッドパネルの面積が少し小さくはなるが、エアコン吹き出し口のデザインなどはよりユニークだったりする。新世代ボルボは、超ハイブランドから移ってきたインテリアデザイナーが担当しているので、1000万円以下のモデルが3000万円級のクオリティになってしまったと評されるほど。インテリアだけでも「買い」と太鼓判が押されるのも納得だ。
街中を走り始めて、しばし言葉を失ってしまった。SPAの実力が高いことは重々承知してはいるが、これほどまでに滑らかで軽やかで、動的質感が高かっただろうか、と驚いてしまったからだ。まったくの新型車を試乗するときは、まだ完成度が高くないと思わされることもままあるものだが、XC60は最初から完璧な擦り合わせを済ませたような熟した味わいを見せるのだった。間違いなくXC90の初期よりもこなれている。90シリーズも日を追うごとにどんどんと良くなっていったが、同じSPAを採用するXC60にはそれがキッチリと活かされているのだ。
ステアリングやペダル類の操作感は軽やか。それでいて操作に対してクルマが素直に反応して予測も付きやすい。これはかなり高度な造り込みの証でもある。操作感を少し重めにしたほうがインフォメーションを伝えやすく、軽やかにすると希薄になりがちだが、基本がしっかりとできていればしかるべき情報をクリアに伝えることができる。軽やかにしてインフォメーションは豊か。じつに洗練された味わいだ。
ボディ剛性は文句なしに高く感じられ、それに伴ってサスペンションがスムーズに動いている。試乗車はオプションのエアサスペンションを装着していた。低速域ではソフトタッチで快適そのものだが、速度があがってくるとダンピングが効いてボディがフラットに保たれる。
コンフォート・モードとダイナミック・モードではサスペンションの硬さが変わるが、わかりやすくはっきりと切り替わるというほどではない。
コンフォート・モードでも高速域でフラフラするなんてことはないが、大きな凹凸を越えた後などはダイナミック・モードのほうが上下動の収まりが良くてスッキリとしていて好ましく思える。また車高が下げられるのでピッチングやロールの動きが小さくなり、フラット感が増す。
逆にダイナミック・モードは低速域で少しだけ引き締まった感覚を伝えてくるが不快というほどではない。どちらも質の高い乗り心地や安定感が得られるが、ソフトタッチが好みか、ダンピングが効いたスッキリ系が好みかによって選択がわかれるところだろう。
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