CX-30にはない1.5LガソリンNAエンジンは官能的なサウンドも魅力的。ただし燃費は…? 新型マツダ3ファストバック15Sツーリング ワインディング&市街地試乗…少ないパワー・トルクを使い切り意のままに操る「人馬一体」。これはFFのロードスターだ!
- 2020/07/09
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遠藤正賢
実際にマツダR&Dセンターのある横浜市内を走り始めると、早くも「クルマとはかくあるべし」というマツダの主張が右足に伝わってくる。端的に言って、アクセルペダルもブレーキペダルも、重い。より正確には、しっかり強く奥まで踏み込まなければ、加速も減速も充分に得られないのだ。
これは、単純にエンジンのトルクが細く、ブレーキの初期制動力が低いことも大きいのだが、ペダル自体も昔のドイツ車ほどではないにせよ、現代のクルマとしては強めの踏力を要求するセッティングになっている。
踏力に対し加減速度はリニアなため、慣れてしまえばコントロールしやすいのだが、逆に慣れるまでは思うように加減速してくれず、特に減速側では少なからず恐怖感を覚えてしまう。それ以前に、常に強めの踏力を要求されるのは、長距離長時間乗るほど疲労感が増すので考え物だ。
また、マツダ3では静粛性の向上、特に良路と荒れた路面とを行き来した際のロードノイズの変化を抑える取り組みに注力しているが、残念ながらマツダが主張するほど変化は小さくない。
良路での静粛性は高く、特に低速域のアイドリング付近ではエンジンが停止しているかのような錯覚にとらわれるほどだが(実際に停止しアイドリングストップすると振動もノイズもゼロになるので違いは分かるが)、良路から荒れた路面へ移るとロードノイズが急激に大きくなるため、かえってその落差が耳に付いた。
しかもこの時は、フラットな音質かつ音解像度の高い標準オーディオ「マツダハーモニックアコースティックス」のサウンドがロードノイズにかき消され、低音が痩せた貧弱な音に聞こえがちなのが痛い所。オーディオ側のノイズキャンセリングに加え、車両側もさらなるロードノイズの低減が必要と言えそうだ。
なお、オプションのBoseサウンドシステムは逆に低音が強すぎ、ロードノイズが大きい状況でも耳障りな傾向にあるため、率直に言ってオススメできない。
最大の懸念材料だった乗り心地は、テスト車両(車台番号BP5P-106716、初度登録2019年11月)が生産されるまでの間にランニングチェンジが行われているのか、それともテスト車両の走行距離が4600km超で当たりがついていたのか定かではないが、少なからず改善されていた。
以前試乗した2.0Lガソリン車やSKYACTIV-X搭載車は、わずかな路面の凹凸にも敏感にリヤが跳ねていたが、今回テストした車両は、大きな凹凸では低速域で左右に揺すられやすく高速域で突き上げが強いものの、細かな凹凸は綺麗にいなせるようになっている。
そして、箱根のワインディングへ持ち込むと、マツダ3本来のリニアなハンドリングが、1.5Lパワートレインとの相対関係で、より一層際立っているのを感じることができた。
装着されているタイヤは決してドライグリップ一辺倒のものではないが、絶対的な限界は高く、また大きなギャップを乗り越えてもそう簡単には破綻しない、懐の深さも兼ね備えている。つまりはそれだけボディ・シャシーとも剛性が高くバランスも取れていて、タイヤのグリップを有効に使えるものになっているのだろう。
また、マツダ3では全車に、旋回時のエンジントルクとブレーキを自動的に制御して操舵レスポンスと安定性を高める「G-ベクタリングコントロールプラス(GVC+)」が採用されているが、これが全く違和感をドライバーに感じさせない。エンジントルクのみを制御する前身の「GVC」は緩いコーナーで舵角一定でも不意にオーバーシュートしがちだったが、GVC+はカタログに記載がなければ恐らく多くの人がその存在に気付けないはずだ。
このワインディングで最も真価を発揮する車重1340kgのボディ・シャシーに、111ps&146Nmを発するP5-VPS型1.5L直4ガソリンNAエンジン+最終減速比が4.605(2.0Lガソリン車は4.095。各ギヤの変速比もわずかに異なる)と低い6速ATとの組み合わせは、完全にボディ・シャシーの方が勝っているため、コーナーの立ち上がりでは思い切りアクセルペダルを踏んでいくことができる。しかも3000rpm付近から吹け上がりが鋭くなり、室内に甲高い快音を響かせてくれるものだから、特に上りのワインディングでは「もっと踏め、もっと回せ!」とクルマに煽られているような気分になった。
だから、絶大な安心感と信頼感を持って、気持ち良くドライビングに専念することができる。この走りは、マツダが初代ロードスター以来掲げている「人馬一体」そのものであり、「FFのロードスター」とさえ言っていい仕上がりだ。
ただし、不満が全くないわけではない。3000rpm以下のトルクが非常に細く、その領域にエンジン回転を落としてしまうと、傾斜の強い上り坂では速度を維持するのさえ困難になる。通常のATモードの制御もそれを踏まえたセッティングとなっており、傾斜の強い上り坂では3000rpm以上を保てるギヤを選択するため、燃費が急激に悪化する傾向が見られた。
そのため、高速道路では16.4km/Lと良好な燃費を記録する一方、箱根のワインディングでは10.1km/L、そしてストップ&ゴーが多く坂も急な横浜の市街地では7.8km/Lと、落差の激しい結果となった。なおトータルでは11.8km/Lとやはり振るわず、WLTCモード燃費(総合16.6km/L、市街地13.7km/L、郊外16.5km/L、高速道路18.4km/L)との差も大きい。ツボにはまれば最新の小排気量車相応の低燃費になるものの、少しでも外せば一昔前のNAスポーツカーなみに落ち込むのは、大いに留意する必要があるだろう。
しかし、車両価格231万5989円で、このクオリティ、この仕上がりである。そして、オプションや諸費用を含めても300万円を下回る可能性が高い。つまり、Bセグメントのハイブリッドカーと同等のコストで、Cセグメントトップクラスの内外装と走りの楽しさが手に入るのである。
だが筆者なら、今回のテスト車両そのままの仕様は選ばない。タイヤが205/60R16 92Vとなり乗り心地の改善とイニシャル・ランニングコストの低減が期待できる「15S」の6速MT車こそ、最高のコストパフォーマンスで美しい内外装と「人馬一体」を堪能できるはずなのだから。
■マツダ3ファストバック15Sツーリング(FF)
全長×全幅×全高:4460×1795×1440mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1340kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:82kW(111ps)/6000rpm
最大トルク:146Nm/3500rpm
トランスミッション:6速AT
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:215/45R18 89W
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:16.6km/L
市街地モード燃費:13.7km/L
郊外モード燃費:16.5km/L
高速道路モード燃費:18.4km/L
車両価格:231万5989円
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