自動車業界ウラ分析 激戦区BセグSUV×CO2排出95g/km規制の観点からトヨタ・ヤリスクロスの戦闘力を読み解く[毎週月曜日更新企画] トヨタ・ヤリスクロスにはPHEV仕様がある? 激戦区BセグSUVでの戦闘力予測
- 2020/07/13
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牧野 茂雄
欧州はずっとHEVを無視し続けてきた。トヨタが初代プリウスを発売した1997年12月以降、一時期は各社がHEV開発へとなびいたが、結局はクリーン過給ディーゼルとガソリン過給ダウンサイジングへと舵を切った。両方とも燃料をシリンダー内に直噴するDI(ダイレクト・インジェクション)システムとターボチャージャーを備えるエンジンである。NEDC(ニュー・ヨーロピアン・ドライビング・サイクル)という排ガス・燃費モードへの対応に特化したこの手段は見事に成功を収めた。しかし、いまやEUはECV礼賛へと様変わりした。
まだBEVは内燃機関エンジン車と真っ向勝負できるだけの低コスト化を実現していない。しかし、A/Bセグメントの実用的エンジン車はCO2規制によってコスト増を強いられている。IHSマークイット、JATOダイナミクスやLMCオートモーティブといった世界的な調査・コンサルティング会社のデータやレポートを集めて読み漁ると、A/Bセグメント商品が置かれた立場がよくわかる。
たとえばドイツでは、ことし第1四半期(1〜3月)の価格帯別販売比率に異変があった。売れ筋である車両価格1万8000〜2万ユーロ(217万8000円〜242万円)の商品は、2016年の第1四半期に比べて構成比で5%下落し20%ギリギリになった。「エンジンや排ガス後処理関係への投資が増え、逆に装備が簡略化されて商品的な魅力が削がれた」との分析もある。逆に2万〜2万4000ユーロ(242万円〜290万4000円)の価格帯は2016年の14%から37%へと大きく躍進した。最大の理由はBセグメントSUVの台頭である。売れなくなったのはBセグのHB(ハッチバック)車や安価なCセグ車である。

Bセグ車はBEVの登場により平均車両価格が上昇した。環境ボーナスを加味すると、プジョー・e-208のドイツでの小売価格は3万ユーロ(363万円)を切る。同じくグループPSAのオペル/ボグゾール・コルサのBEV仕様も3万ユーロ(363万円)弱。たしかにBEVの車両価格は下がっているが、本来BセグHBの「そこそこの仕様」は1万7000ユーロ(205万7000円)程度。廉価仕様なら1万4000ユーロ(169万4000円)で買える。1万8000(217万8000円)〜2万ユーロ(242万円)の価格帯が減ったという事実は、BEVの投入という影響も受けた結果である。利幅の小さいグレードを、自動車メーカーは整理し始めた。
一方、SUVは小型から大型まで全体的に好調であり、ユーザーはSUVへの出費は惜しまないという傾向にある。「床下地上高が高く、そこそこの悪路でも走れる」ことも好まれる原因のひとつのようだ。しかし、SUV流行の結果、2017年以降はEUで自動車由来のCO2排出が増えている。VWのディーゼルゲート問題でディーゼル車への市場の支持が減りガソリン車が増えたこともその理由であり、ガソリンSUVが増えてCO2レベルを少し引き上げたのだ。

2021年からEUでは、自動車メーカーごとに平均95g(グラム)/kmというCO2排出規制をクリアしないと罰金を徴収される。95g以上の1gにつき95ユーロの罰金である。メーカーごとの平均だから、95g超過分の罰金に販売台数をかけた額が徴収される。JATOの試算では、2018年実績のCO2排出平均でそのまま2021年を迎えるとしたら、VWグループの罰金は91.9億ユーロ(1ユーロ=121円で1兆1120億円)、ダイムラーは30.1億ユーロ(同3642億円)になる。トヨタはEU域内での販売モデル数の約半分をHEVに切り替えた結果、罰金は5.5億ユーロ(同665億円)である。
ヤリスクロスのCO2排出値は、5ドアHBのEU向けHEV仕様がNEDC計測で84g/kmだ。EUが特例として設けたスーパークレジットの対象は50g/kmであり、ここに潜り込むと、2020年は「1台売ると2台分の勘定」になる。つまり1台としての実質CO2排出量が半分になる。2021年は1台=1.67台、2022年は1台=1.33台だ。スーパークレジット取得車が増えればメーカー全体としてのCO2計算がラクになる。

ヤリスHEVの場合、スーパークレジット対象ではないが、CO2排出量95g/km以下だからトヨタとして平均95g/kmを達成するには有利な車種ではある。ただしWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)/WLTP(最後のPはプロシージャー)で測ると最大114g/kmになってしまう。2023年以降はWLTC/WLTPでの計測になる。一方、ヤリスのEU向け非HEV仕様、通常エンジンの仕様では、もっともCO2排出が少ないグレードで104g/kmだ。Bセグ車でも100gを切るのは難しい。Bセグ車の開発・製造コストが上昇し、以前は売れ筋だった価格帯から外れつつある理由はここにある。
ヤリスクロスについてHEV投入のスケジュールはまだ明らかにされてないが、Automotive News Europe などの報道によると「一部の国ではHEVを先行発売」するようだ。今後EU市場ではHEVが増えるとの予測がすでに支配的であり、BセグでもP1/P2と呼ばれるHEVは増えるだろう。その意味でヤリスクロスHEVはライバル各社にとってベンチマークである。
ちなみにJATO Dynamicsのレポートには「Bセグメントでは3ドアとステーションワゴンが激減した」と書かれているが、そのためだろうか、スコダ(チェコのVWグループ企業)はBセグ唯一のステーションワゴンになったファビア・コンビを継続させる方針だ。ライバルがいなければ、Bセグ全体のステーションワゴン需要を独り占めできる。トヨタのストロングHEVは、いまのところファビア・コンビのようにライバル不在だ。

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