自動車業界ウラ分析 激戦区BセグSUV×CO2排出95g/km規制の観点からトヨタ・ヤリスクロスの戦闘力を読み解く[毎週月曜日更新企画] トヨタ・ヤリスクロスにはPHEV仕様がある? 激戦区BセグSUVでの戦闘力予測
- 2020/07/13
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牧野 茂雄
ヤリスクロスの戦闘力を占うとき、HEV仕様を持つことは大きなアドバンテージになる。BセグSUVにはまだ、欧州勢の48VマイルドHEVがないし、ストロングHEVはもちろん存在しない。もっとも、欧州勢のHEV仕様追加は時間の問題だ。ルノーは日産設計の直1.6ℓ直4エンジンに電動モーターと発電機を組み合わせたE-Techシステムをキャプチャーに搭載すると発表している。発売はことし8月の予定だ。しかもキャプチャーにはPHEV仕様が設定されているらしく、そのCO2排出量が気になる。ひょっとしたらスーパークレジット対象かもしれない。
ルノーに限らず、B/CセグメントへのPHEV投入計画は欧州メーカーで着々と進んでいる。エンジニアリング会社に丸投げのケースもあるようだ。各社とも明言はしないが状況証拠は少しずつ増えている。ということは、ヤリスクロスにもPHEV仕様があるだろうか。筆者は「ある」と見る。
かつてトヨタの技術幹部は「PHEVはアンビバレントだ」と言った。「どっちつかず」という意味である。
「PHEVのバッテリー搭載量は慎重に選ばなければならない。30kmプラス少々を電動走行させるとなると、そこそこの量のバッテリーを積むことになるが、そのぶん車両重量が増える。かと言って、20km程度に電動走行を抑えるとHEVと大差がない。できれば通勤での使用では発電のためのエンジンをかけたくない。エンジンで走るPHEVはデッドウェイトを抱えている」
この発言は、まだLiB(リチウムイオン電池)が高価だった時代であり、トヨタがプリウスPHEVを発売される前である、しかし、まさにPHEVの姿を言い当てている。その後EUではPHEVに大甘な恩典を与え、CO2排出は「電動で50km走行可能」ならHEV走行時排出量の3分の1になり、「電動で25km走行可能」だと同2分の1、「電動で75km走行可能」の場合は同4分の1にそれぞれ割り引かれるようになった。これは欧州伝統の高級車メーカーを救済する措置だと言われている。
LiB価格がそこそこ安くなったいま、BセグSUVでPHEVを仕立てる場合は電動走行の50kmが目標になるだろう。50kmならCO2勘定は3分の1だ。これを狙わない手はない。HEV走行でのCO2排出が135g/kmでも、電動50kmが可能だと3分の1、約45gとなりスーパークレジットの対象になる。ヤリスクロスならWLTC/WLTP計測でも10kWh以下のLiBで間に合うだろう。
このスーパークレジット制度が2023年以降も継続されるかどうかはわからないが、トヨタが来年中にヤリスクロスPHEVを追加すれば、通常HEV仕様とあわせてライバルへの武器になる。HEVとPHEVの車両価格は、トヨタならかなり思い切った価格設定ができるはずだ。ヤリスの1.5ℓエンジン用HEVシステムは、コンポーネンツ構成と作動は1.8ℓ用と同じだが、オイルポンプの位置変更やIGBT(パワートランジスター)の改良で効率がアップしている。システム価格は量産で吸収するだろう。
ヤリスクロスには隠し球のPHEVがある……私はそう考える。おそらくBEVは作らないだろう。現在のTHS II(トヨタ・ハイブリッド・システムII)はモーターと発電機を並列に起き、両方のモーターを駆動に使うときにエンジンの逆回転を防ぐワンウェイクラッチの追加で2モーターPHEVになる。このソリューションを広範囲に展開しない理由はない。問題があるとすればLiBの調達量確保だが、ここは手当てしてくるだろう。
振り返れば、アメリカがシェールガス/シェールオイルという資源の開発に乗り出し、富と軍事力とエネルギーの3つを手にするという有史以来最強の国家への道を歩み始めたとき、欧州は脱石油社会、循環型社会へと舵を切った。自動車をBEVに切り替え、石油資源依存から少しずつ離脱し、産業界を再生可能エネルギー中心に作り直す。EUが狙ったのはここだ。しかし、BEVを売り出しても、EUでは発電量全体の61%が原子力と火力(石炭/泥炭/ガス)に依存している。再生可能エネルギーの比率は34.6%まで上昇したが、NEV補助金大盤振る舞いのフランスは70%を原子力に頼っている。
ECVを普及させたい。しかしECVを走らせるために当面は火力発電と原子力に頼る。ECVに価格競争力がつくまでは各国の税金から拠出する補助金で助ける。それはいいとして、EUには有力なLiBメーカーがなくLiB供給は日本、中国、韓国の企業に頼っている。欧州の自動車メーカーが「電池は安い会社から買えばいい」と言い続けてきたため、欧州のサプライヤーのいくつかはLiBパッケージ化ビジネスから撤退した。同時に、大量のLiBを資源リサイクルするシステムがEUにはない。中国勢によるLiB価格のダンピングは資源化再生のコスト競争力を完全に削ぐだろう。これこそアンビバレントではないのか?
ECV推進派は「それは時間が解決する」と言う。しかし、Bセグ車は利益率低下を避けようと少しずつ車両価格が上がっている。生活必需品としての安価なグレードのA/Bセグ車は確実に減っている。ヤリスでさえ、通常エンジンではCO2排出100g/kmを切れない。果たしてEUのCO2規制は何のために存在するのだろう。そこさえも疑問に思えてくる。
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