衝撃デビューはトヨタ2000GT以外にも! 初代日産シルビア颯爽登場!/ 1965年 第12回・東京モーターショー 後編 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2020/08/07
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荒川 健
かのトヨタ2000GTのプロトタイプが登場した1965年の東京モーターショー。それだけでも、ウルトラ級の話題だが、この年はそれだけではなかった。まるでダイヤモンドのカットのようとも言われる、初代シルビアだ。そして、隠れた名車、ダイハツ・コンパーノスパイダーも愛すべき名車。ここでは1965年東京モーターショーの別のブースも見てみよう。
解説:荒川 健(カーデザイナー)
新たな時代を見据えた形
前回に引き続きTOKYO MOTOR SHOWの歴史上最も注目すべき第12回にスポットを当て、出品されたクルマのデザインを振り返ろう。
この年は、その後のニッポンの自動車文化に多大な影響を与えた車が出品されていた。
その代表格が日産自動車のシルビアである。
前年の東京オリンピック開会式の半月ほど前に開催された第11回TOKYO MOTOR SHOW、そこにダットサン・クーペ1500として参考出品、1965年4月にSILVIAという名前で発売になりこの晴れ舞台に展示されたのだ。
驚くべきは、そのデザインの斬新さだ!
ヨーロッパ車にも前例のないデザインであった。私が愛蔵している ”Encyclopedia of American Cars” 誌を調べた結果、デザインが似ているのは1963年発売のビュイック・リビエラである。
だが、日産では同じ63年に発売したブルーバード410のデザイン開発に、イタリアのカロッツェリア・ピニン・ファリーナを起用していた。したがって特徴的なデザイン処理であるベルトライン(デザイン用語でドアガラス下側のライン)下の幅10センチくらいのハイライト面をフロントまで回すといった新しいアイデアの共通性が認められる。
当時イギリスの自動車雑誌でAUTOCARという週刊誌があり、大メーカーは宣伝のため発売予定の1年ぐらい前からニューモデルを競ってリークする事が多かった。のどかだったのである。考えられるのは、1962年にはリビエラの何らかの情報が記事になっていた可能性がある。ちなみに私が在籍していた三菱自動車でも1950年代初頭から1975年頃までの全冊をハードカバーに製本し直し保存していた。
この本は当時最も信頼できる情報源として日産も購入していたはずで、これはあくまで私の推測だが、シルビアのチーフデザイナーも一目見て「これだ!」と、次世代の方向性を見い出していたのではないだろうか。
全幅1.94m、全長5.2mといった巨大なサイズのリビエラは、鉄板の魅力を誇示するかのような角と直線の造形でメタリック塗装がとてもよく似合っていた。
当時ニッポンやドイツのスポーツカーメーカーは、イタリアのカロッツェリア(自動車デザイン工房)が得意とする、丸みのある官能的なフォルムを自社製品に生かそうと懸命だった。そんな時代にトレンドを無視した前代未聞のエッジデザインがなんで大企業日産の経営陣を納得させることが出来たのか?
その理由はただ一つ。日産初の本格的な原寸大クレイモデルで開発したデザインモデルがめちゃくちゃ綺麗でかっこよかった! これしかあり得ないのだと思う。
≪美しいという事実はペンや剣(権力)より強し!≫
大粒のエメラルドを指輪にカットするときの、クリスプカットがデザインテーマだと云われているが、伸びやかな稜線で構成された全ての面は美しい緩いカーブ断面で構成されている。本家のリビエラより新しくて美しい!
シルビアは誰がデザインしたのか? で様々なことが取りざたされているようだ。同じデザイナーとしての経験から、「ありえへん」ことが無視されているので、この点のみをこの場で言わせていただきたい。
当時日産とデザインアドバイザー契約の記録があるドイツ人デザイナー、アルブレヒト・フォン・ゲルツ氏がデザインに関与した、あるいはデザインしたとの説があるが、彼は一貫してエッジの無い丸い砲弾型デザインを提案してきたのに50歳を過ぎて、自己否定するように突然実績のないエッジデザインを提案するのは不可能、あり得ない事だ。
原寸大クレイモデル製作と共に基本的なカタチの決め方を教えたと思われるが、自分のテイストとは相容れないエッジデザインについて、おそらく保守的な熟年ドイツ人デザイナーは社交辞令的に「いいね」といったレベルのアドバイスをしたと思われる。これって私も大昔メーカー時代に海外デザイナーのコンサルテーションを受けた時、経験したよくあるパターンなのである。
シルビアをデザインしたのは木村一男氏。公開されている三面図もゲルツ氏の丸いBMWのスケッチのニュアンスとは全く違う。
ご出身は東京芸術大学だそうで新しいものに恐れずチャレンジする、いわば唯我独尊タイプだったのであろう。こうした骨っぽいデザイナーが当時の自動車メーカーに何人か採用されていて、こうした大先輩が日本のカーデザイン創成期を引っ張ったという事実もこの場でお伝えしておこう。
和製イタリアン・コンパクトがダイハツより
次に取り上げたいのはダイハツ・コンパーノスパイダーだ。
1963年第10回TOKYO MOTOR SHOWに出品したコンパーノワゴンのバリエーションモデルである。1963年当時ヨーロッパはバカンス、ニッポンではレジャーブームの到来が予想され始めたばかり。キャンプ用品や長期滞在の大量の荷物が積めるのはワゴンだ。早くもこんなニッチ車種が登場したのには驚いた。さすが商売上手の大阪に居を構えるダイハツならではのスタンドプレーであった。そして今度は華やかなオープンカーで攻めてきた!
当初より車種展開がし易いようあえて旧式のラダーフレーム(ハシゴ状の足回り骨組みにボディが載っている)方式を採用、動力性能より多車種生産がしやすい商品性を重視した戦略であったが 、1967年には生産を終了してしまった。
もったいない! ヨーロッパ車に引けを取らない優雅でお洒落なデザイン。
国産車には見られない滑らかなフォルム、造形のバランスの良さ、ヘッドランプの小ささがクルマを大きく見せている等々。
それもそのはず、デザインをしたのはカロッツェリア・ビニャーレ。
あこがれのイタ車がダイハツから買えるなんて夢のような出来事だった。私があと10歳年上だったら絶対に買ったであろう。
しかし、予想を裏切る販売成果だったようで、当時は美しさよりも軽量モノコックボディーによる動力性能を顧客は選んだ。そんなわけで、ダイハツにとってはデザイン優先戦略失敗のトラウマになってしまったようだが、後年ミラジーノとしてコンパーノのデザインイメージを復活させ伝統をアピールしている。
そういえば先ほどの日産シルビアも、その後長きにわたりモデルネームを継承し続けた。
伝統の重要さはニッポンのメーカーも認識はしているようだが、デザインの完成度からはオリジナルを超えられずに、名前倒れになってしまったケースが多いように思える。
ニッポンも原寸大クレイモデルによるデザイン開発が始まって60年、自社が手掛けた宝物(デザインテーマ)をもっと大切にし、じっくり磨き上げてはどうだろう。
おまけのまめ知識 by Ken
1965年頃からニッポンはようやく景気が良くなり、基幹産業が急成長し後に「いざなぎ景気」といわれた5年間が始まりGDPは西ドイツを抜いて世界第2位になるという、夢のような時代を経験したのです。
カラーテレビやクーラー、そしてマイカー、3C時代の到来でした。
高給取りのサラリーマンなら手が届くコンパクト・ファミリーカーが各社から発売され、自動車メーカーは激しい競争の時代を迎えました。
こうした時代、1960年の全日本自動車ショーから自動車振興会が神田の老舗記章メーカーに製作依頼して作ったオリジナルの記念スプーンが存在しました。モーターショー招待券やガイドブック引換券とともに、上客にはこの銀製スプーンの引換券も入った「招待状」が販売店からお得意様や取引先関係に配られたのです。
写真はそのスプーン。白いサテン生地で内貼された立派な箱入りで1960年から65年の6年間で終了してしまいました。写真の左側が1960年で1965年のものまで順番に並べてあります。マイカーへの期待もさることながら、本当に景気が良かった証拠ですね。
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