ダイムラーグループ チーフ・デザイン・オフィサー ゴードン・ワグナー氏に聞く :火曜カーデザイン特集 新型メルセデス・ベンツSクラスのデザインはデジタルとの融合だ
- 2020/09/08
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CAR STYLING編集部 松永 大演
先代のメルセデス・ベンツSクラスが2013年の発表だったので、新型Sクラスの登場は7年ぶりとなる。ほぼ順当なモデルサイクルとなるが、その間に車を取り巻く常識は大きく変わっている。そして投入された新型Sクラス。ここでは、そのダイムラーグループのチーフ・デザイン・オフィサー、ゴードン・ワグナー氏のインタビューをお届けする。
新型メルセデス・ベンツ新型SクラスがYoutubeでワールドプレミア!
Sクラスがフルモデルチェンジを果たした。 新しいSクラスは、ドライバーの支援、保護、そしてインタラクションの分野で数多く...
極めて大きな一歩の歩幅
その改革ぶりは劇的でもあり、最新の技術はすべて織り込んだといってもいいほど。
そして今回は注目となるデザインについて、ダイムラーグループのチーフ・デザイン・オフィサーであるゴードン・ワグナー氏とのインタビューが実現した。そのインタビューとともに新型Sクラスのデザインを見ていこう。
まず驚かされるのが、そのサイズだ。現在発表されているエンジンは、3.0リットル・ガソリン(EQブースト付:マイルドハイブリッド)&3.0リットル・ディーゼルがともに直列6気筒エンジンを搭載する。というように、小型化されている。しかしながらボディはさらに大型化された。
ユーロスペックの標準ボディで、全長は5179mmと54mm長く、全幅は1954mmで55mm広くなった。また全高は1503mmとなり10mm高い。ホイールべースは3106mmとなって、71mm延長された。こうして大型化されたものの、空気抵抗係数が0.22となることから、前面に受ける空気抵抗はむしろ削減されているという。
また、全幅でミラー・トゥ・ミラーを比較すると新型は2109mmとなって、現行モデルよりも21mm狭められている。さらに4WSを採用して最小回転は、直径で最大1.9m削減されたことも含めて、実用性ではむしろより扱いやすさを実現したということがわかる。
対する室内幅では、肘部分の幅(最大幅)がフロントで1592mmと38mm増加、リヤで1583mmと23mm増加している。対する肩部分の幅(最小幅)は、フロントで1516mmと増加幅0mm、リヤで1469mmと増加幅はむしろ30mm減となっている。全長方向ではレッグルームがフロントでは1051mmとなり増加幅0mm、リヤでは1004mmと41mm増加となる。
後席足元空間は拡大されたが室内幅については、全幅ほどには拡大されておらず、むしろドア厚が拡大されている。このことは大きくすることが空間の拡大ではなく、安全性の向上であることがうかがえ、前述の通りそのために実用性を決して犠牲にしていないことも主張されている。
こんなことを前提に、ゴードン・ワグナー氏のインタビューをご確認いただきたい。今回はSクラスの発表に併せて、電話での取材という形を取ることで実現できたものだ。
デジタル化をクリーンでピュアな造形に包括
ー今回のSクラスデザイン開発において、重要なポイントとなったのはどんな点でしょうか?
ゴードン・ワグナー(以下GW) 「もちろん全体にわたってですが、全て構成しているものがコンテクスト(環境)とでもいうべきでしょうか、特にSクラスはそれぞれがおよそ10年にわたる歴史があります。今回のSクラスのデザインも10年、20年先の産業化、工業化を読み、デザインを考えています。
デザインに関しても次の10年を見据え、進歩的であることを表現しています。プロポーションについては、セダンにこれまでなかった素晴らしさを実現しました。車を非常にクリーンで、ピュアに表現したものになっています。そうした中で、最新のテクノロジーをふんだんに取り入れることを進めています」
ー最新のテクノロジーとは、どのようなものですか?
GW 「プロポーションの中にある様々なディテール、ヘッドランプやリヤランプなどに関して、最新テクノロジーのショーケースとしたともいえます。ヘッドライトも車両あたり260万ピクセル以上の解像度を持ったものを採用し、プロジェクターのような機能も実現しています。狙いは、デザインに関しデジタル化を見据え、Sクラスで新しい定義づけを行なっていくということです」
Sクラスに搭載されるデジタルテクノロジーは、ワグナー氏の言う通り、まさにショーケースだ。
そしてわずかな一例だが、このSクラスのDIGITAL LIGHTシステムではさらにその先の技術を標準化したともいえる。130万個のマイクロミラーによって、対向車や標識に対する除光を精巧に自在に調整することが可能となった。これまでの84ピクセルのヘッドライトに対して、100倍以上の精度を持ちことができたという。さらに、ピクトグラムを路面に表示させるといった技術を具現化している。例えば、先に道路工事があることが認識された場合には警告として、掘削機のピクトグラムを路面に投影し工事の警告を行なう。また、信号機、一時停止標識、進入禁止の標識も路面に警告記号を投影。路面にガイドラインを投影し、道路工事による狭い車線を支援する。さらに路側で検出された歩行者にもスポットライトを向け、注意意識を高める。
こうした先進装備をいち早く採用することによって、新たなスタンダードを全体のフォルムに収めることを実現している。
クラシカルな伝統との融合を図り未来のステータスを
ーステータスの再定義ということですが、その中にはどんな要素が織り込まれていますか。
GW 「すべてがコネクトしているのも大きな点ですが、全高と全幅も大きくなったことをはじめとして、さらに拡張されたイメージを持っています。そして、社会、環境に対する責任を持っていく、それを車に反映させています」
ーエクステリアデザインとしては、先代Sクラスと大きく変わっていながら、それでもSクラスに見えると感じる。それはどんな部分が影響しているのでしょうか。
GW 「Sクラスの伝統的なクラシカルな部分と、未来的な部分を組み合わせているのです。進化的なデザインを新しいプラットフォームで考えています。例えば、さらにロングフッドとなっていますが、ドアからフロント部分の距離が非常に大きくなっています。キャビン部分が後ろに下がりコクピットの位置も変わってきていますが、リヤセクションに関してはこれまでのSクラスの印象を受け継いでいるのです」
新型Sクラスのプロポーションにおいて、最大の見所がここにあると言えるだろう。さらなるロングホイールベース化に対して、居住部分のキャビンをやや後方へ移動。フロントオーバーハングは同様に短いながら、ボンネットをさらに長くしている。これが、新たなSクラスのステータスを強く感じることになる部分だ。
GW 「サイドはスマートな印象になっていますが、Sクラスやこれまでのメルセデスのシルエットを継承しています。それと同時にキャットウォークラインと呼ぶハイラインを取り、こちらがスリークな印象を醸し出しているのです。クリーンなイメージの一種の言語として、メルセデスがこれまで持っていたイメージ、高級車さをメッセージとして伝える要素にしています」
ボディサイドのキャラクターラインが、これまでのようなパワフルなものからボディサイド上端に、フロントからリヤにまで一気に流れるライン一つでまとめられている。このラインが、車体の低さを印象づけるものともなっている。
脱帽させられるのは、5mを超える極めて大きなサイド面に対してキャラクターが、このキャットウォークラインとドア下部からリヤバンパーに流れるほのかなウエッジラインの2つのみ。それ以外、緩やかな面構成だけで緊張感を与え続けているのには、生半可ではない造形検討が必要だっただろうと感嘆する。また、ストレッチ版との違いはリヤドアの長さがほとんどとなるので、この大きな面の流れをショート版、ロング版ともにリヤドアの違いだけで成立させているのも、極めて高い技巧センスが必要となるはずだ。
GW 「加えてそのプロポーションに、グリル部分などのより新しい要素を投入し統合させています。ヘッドランプ部分も大きく変わり、スリムな印象になっています。よりハイテクな印象を醸し出しながらも、同時に典型的なアイブローシグネチャーを受け継いでいます。また、リヤランプ造形は進歩的なイメージで、他の車にはないデザインとなっている。これは路上でも新鮮なイメージを醸し出し、未来的で進歩的でありながら歴史とのバランスをとっているのです」
ーフロントのグリルの大きさは、やはりかなり大きいようですが、かなり検討されたのでしょうか
GW 「新しいSクラスのステージというコンセプトを反映させていて、大きめで幅も広くなっていますが、洗練された印象をインテグレートさせています。バンパー、エアインテーク部分も統合され、グリルまわりが存在感を増して新しい次元の高級車というイメージをフロント部分に与えているのです」
メルセデスにとって、良くも悪くも伝統となるのがこのラジエターグリル。ともすると古臭さもイメージされがちだ。徐々にEQ系の新たな解釈のグリルが増えると想定される中で、どう先進のステータスを維持するかは実は大きな問題でもあるはず。
これまでは、ヘッドライトの下端ラインをグリルの下端と一致させることで、グリルを低く小さくしながらもその存在感を主張し洗練させてきた。
しかし、ここにきてこの新型Sクラスによって、新たなトレンドを明確に示したといえる。左右に大きく下にも拡大されたグリルは、冷却機能だけでなく様々なセンサーを統合するエリアとしての機能も持っており、その象徴的存在としてのイメージも表現されているように思う。また、張りのあるグリルは躍動感をもち、さらにめっきのモールディングは、バンパー下のインテークとのコンビネーションによって、低重心ながらも強い存在感を示すものとなっている。デイライトとなるアイブローシグネチャーも、グリルとのハイレベルなバランスを見せている。
これから先の操作性の観点からワイドディスプレイは採用せず
ーインテリアについてもかなり変貌した印象ですね
GW 「これも、新しい次元の高級車を反映したものです。現行モデルはなかなかロマンティックなモデルかと思うのですが、今度のモデルはもっとクリアな印象を持たせています。デジタルを搭載したSクラスということで、明快さを与えようと思いました。まずインテリアのデザインはスクリーンから始めて、後部座席のスクリーンももちろんですが、現行車とは表現言語が大きく変わっています。もっと洗練させながら、暖かい印象を出したいと思いました。
また、Sクラスの後席には、言葉では表現し得ない存在感があるのですが、そのSクラスならではの印象が継承されています。さらに安全性、高級感が反映されています」
ー最も注目点なのは、ワイドディスプレイを採用しなかったことですね
GW 「実は、このSクラスで変更したのです。フォーマットを変える第一号ということになります。センターのタッチパッドを操作にふさわしい場所で、なおかつまわりの交通状況もよく見えることを両立させるため、高めに設置しています。ドライバーが見下ろさず、視界を外さなくていい位置で考えているのです。操作性を考慮しデザインに反映させていくことを考えているのです」
ーまた、ダッシュボードの造形も印象的ですね
GW 「ダッシュボードは水平方向の幅を感じ、さらに水平に広かっていくような効果を狙っています」
ーインテリアは日本人の目から見て、落ち着くような懐かしい印象があるのですが
GW 「これまでは進歩的なデザインを考えてきていたのですが、洗練されていく、よりハードでクールなものを狙ってきていました。今回はWater for Design ということで、非常にクリアなものを狙っています。Sクラスでは水平方向の広さはこれまでも狙ってきたのですが、伝統的な部分を残しつつ、先進的な部分とうまく組み合わせていこうということはここでも狙っています」
ーそうでしたか、新型Sクラスのデザインについて、色々なことが見えてきました。良い話をありがとうございます
GW 「テクノロジーとの融合については極めて難しい話なのですが、次の10年、20年を見据えてのデザインコンセプトについて、お話しができたと思います」
新型Sクラスの進化は、技術面において極めて大きい。その存在を一目で理解してもらうのが、デザインの役割でもある。そんな大役にありながら、言葉少なに、しかし悠々たる存在感を見せるのが新型Sクラス。モデルサイクルの長いハイエンドモデルだけに、その形には流行にブレない、本質を極めた形作りが要求されていることが実感された。
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