最新ジープ・ラングラーの魅力に見る、そのデザイン
- 2020/09/26
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CAR STYLING編集部 松永 大演
クロスオーバーSUVとは、もはやブームではなくひとつの大きなカテゴリーとなった。それは、ある種クルマに対する付加価値として定着したのだ。しかし、そんな流れからは見えてきづらい現象も……。なぜ、極めて古典的にも見えるジープ・ラングラーがこれだけ街を闊歩しているのか?
「らしさ」ではなく「本物」であること
現在、大人気となっているSUVは、スタイリッシュなボディなどを、クロカン4WD性能と組み合わせることで生まれたクロスオーバーが牽引してきた。それが現在では、スタイルだけが重要となってきていて、機能はあまり重視されなくなってきている。SUVと称しながらもFFなどの2WDであることも少なくない。また、最低地上高が普通のセダンとそれほど変わらないものもある。
実際、SUVとはスポーツ・ユーティリティ・ビークルの略=スポーツのため使う車=スキーに使う、アウトドアスポーツに使う、などの目的から基本はスポーツ機材が積めること、そしてさらにスポーツの目的地となりやすい不整地も走れる車の代名詞ともなった。なので、実際は必ずしも4WDであることがSUVの条件ではないともいえる。自動車メーカーから見ればこの傾向は、同じセグメントのプラットフォームを使おうとも付加価値を高められることがメリットにもなる。現在大人気のBセグメントSUVは確かにその佇まいをみると、およそBセグメントとは思えない風格を備えている。
拡大したSUV市場はますます加速、拡大しているように見えるが、他方で伝統的なSUVたちも人気だ。
そんななかで注目したいのはジープ・ラングラーの人気だ。意識して見ると都内でもよく見かけ、街中での存在感を強めているように見える。
その始祖は第二次世界大戦で開発された軽量な4輪駆動車となり、1940年代から軍事用としてデリバリーされた。接地するタイヤを全部駆動させることで、高い悪路走破性を備えることは以前より知られていたが、それをよりコンパクトで軽快なツールとしたのがアメリカのアイデアだった。
第二次世界大戦のアメリカでは複数のメーカーが関わって、開発、生産がなされた。そして今となってはJeepという名前を受け、その血筋を強く引き継いだのがクライスラーのジープ・ラングラー。機能優先で、走破性を高めるための技術を継承してきた。
現在、ジープ・ラングラーは、キャンプなどアウトドアの足として、深く好まれている。その魅力はこの技術の継承にある。
キャンプやアウトドアスポーツにとって、ツールはどんな意味を持つのだろうかと考えると、ラングラーの魅力の理由が見えてくる。
必要なツールとは、テントやバーナー、マルチツール、ウエア、シューズなどなど。街中で使うものであれば、美しいデザインだけが重視されても不思議ではないが、アウトドアでは何よりも信頼が一番。やがて老舗ブランドに流れて行くのも、歴史あるブランドはそれ相応の経験をし、そのなかでユーザーにこよなく愛されてきたという実績がある。これこそまさに、信頼の近道なのだ。
また、それらのスペシャリストにとって至福の時となってくるのは、ビンテージもののツールを使い続けること。シンプルでクラシカルな世界観も、道具を扱う者としては充足したひと時となる。
そんなことを総括した延長線上に、ツールとしての車を見るのならばジープの変わらぬ価値の高さは容易に理解できる。伝統の価値と評価、そして本物の持つ機能と堅牢性。“本物感”や“らしさ”では及ばない、絶対的な能力と信頼性が存在する。
より多くのファンを作り出す「本物」の誘い
現在のジープ・ラングラーは、CJからそのスタイルを受け継いだ4代目にあたる。初代がYJ (1987年)、2代目がTJ (1996年)、3代目がJK (2007年)、そして現行のJLは2018年からの登場となる。
ベーシックなジープスタイルである、エンジンルームとフロントフェンダーを分離したスタイルを継承。さらに伝統の縦型7分割のスロットを持つグリルを採用。ハイパワー化するエンジンに併せたタイヤの装備により、オーバーフェンダーを装備。しかし角形ヘッドランプが示すように、より乗用車に近づけたモデルとしたのがYJ。
2代目のTJは、丸型ヘッドライトを復活させるなど、ジープへの原点回帰を果たしたモデル。デザイン的にもジープらしい定番スタイルを見直した。併せてサスペンションが前後リジッド式を採用するものの、コイルばねを採用して快適性を高めている。2ドアモデルのみながら、ロングホイールベース仕様のラインナップ。さらにヘビーデューティ仕様のルビコンを発表した。
3代目のJKはジープ・ラングラーの大きな転機となったモデルだ。大型化されただけでなく、2ドア仕様に加えてロングホイールベースの4ドア仕様を追加。快適な後席空間や必要にして十分な荷室空間を確保した。これまでが単にオフロードを遊ぶための車としてあまり実用的と言えなかったのに対して、充分な空間と快適性をさらに高めたことによってファミリーカーとしての価値も手に入れた。
3代目モデルの変革は、デザイン面でも注目だ。独立したフェンダーは、より明確化され、ジープのヘリテージを意識したものとなっている。その一方で、快適性を想像せるものとしてドアの存在感を強く意識している。伝統的な機能として、ルーフや前後ドアを外せるものとしながらも、薄っぺらく見せない造形を実現している。
ドアを外すために必須の外ヒンジとしながら、ドアの厚い印象を明確化するためにドアパネルと一体化されたサッシを持つプレスドアとしている。また、緩やかなRを持たせ、ウインドウ枠を内側に削ぎ落としウインドウとの間に奥行きを持たせることなども含め、厚みと安心感の得られるドアとしている。車全体にイメージできる丸みのある印象は、この豊かなドアとの整合性にも優れるものだ。このモデルが現在のジープのヒットの契機となっていることは間違いない。
洗練の度合いを高めた4代目ラングラーJL型
そして、現行の4代目となるJLは、先代でスラントさせたフロントグリルが直立に近い形となった。上端を少し後ろにスラントさせているが、縦スロットの7連グリルを大きくし、丸ライトを食い込ませるあらたなフロント造形。何よりも上部のスラントによってグリルの厚みを自然と見せることができている。
また、ボンネットを幅広くしフロントフェンダーをボンネットに食い込ませて、フェンダーの存在感を抑えているのも4代目の特徴だ。フェンダー造形自体もの前後とも、3代目よりエッジを抑えた丸みのある形。3代目がジープらしさを強調して力の入った、いわば「怒り肩」なのに対して、やや力を抜いた感じだ。
この4代目の狙いは、ジープフリークやオフロード愛好家たちに好まれることは当然だが、さらに間口を広くすることにあった。そこには、クラシカルなジープらしさに対する抵抗感も少なからず存在するはず。そのためにジープのアイコニックな部分を力強さ、安心感というイメージとして確保しながら、広さ、軽快さ、扱いやすさといったイメージも醸し出していったようだ。
なかでも4代目を象徴するのが、ボディ造形だ。3代目で面質の豊かさを表現し、ドアの薄っぺらさを感じさせないだけでなく、室内を守られている安心感を表現。対する4代目はその安心感を継承しつつ、全体の一体感という部分で彫刻的な表現を採用している。不必要な部分を削ぎ落とすことによって、軽快感と力強さを表現。エンジンカバーのサイド部分には、フロントピラーの延長された造形を残すことによって、骨太さとシェイプアップされたアスリート感を演出できていると思う。
そして見せ場となるのが小さな表現ではあるのだが、サイドウインドウ下から後方につながるキャラクターラインだ。このラインは、ルーフやリヤセクションを外したストリップスタイルとした時のオープニングラインとなる部分。サイドウインドウを持たない仮設ドアのラインでもあり、もっともジープらしいスタイルを通常の状態でも表現している。その意味深さをシェイプアップのスタイルを併せてきたあたりが絶妙だ。
このラインによって、ロングノーズを強調し、また低重心にも見せている。
伝統の本物であるにもかかわらず、その価格は後発となるメルセデス・ベンツGクラスの半分程度、同じヘビーデューティさでは定評あるトヨタのランドクルーザーとはほぼ同等程度。この価格も魅力的だ。レンジローバー・ディファンダーもそのカテゴリーであるし、ある意味、スズキ・ジムニーも同じ方向性がある。
3代目から4ドア版も追加し、荷室も日常使いできるサイズを得たラングラーだが、4代目にいたってもブレずに何よりもヘビーデューティに供せる本物であることを大前提に、実用性やスタイリッシュさを表現して見せるさじ加減。それが、ジープ・ラングラーの魅力となっているようだ。
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