ホンダ Honda eが欲しい。問題はたくさんあるが、それでも「欲しい!」と思わせる魅力がある。では、その「問題」とはなんだろう?
- 2020/10/04
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世良耕太
Honda eの日本での販売目標は年間1000台である。ファーストロットはすでに売れ切れている。小さくて航続距離も長くないのに高価(ベースモデルで451万円もする)なHonda eだが、それでも「欲しい!」と思わせるなにかがある。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
Honda eが欲しい! どうせなら、Advanceが欲しい! 495万円
みなとみらい新港地区の横浜ハンマーヘッドを基点に小一時間Honda eをドライブしたが、その間ずっと、どうしたら問題を抱えたこのクルマを所有することができるか考えていた。答えは見つかっていないが、所有欲は刺激されっぱなしだ。考える時間ができたという意味で幸いにして(?)、Honda eの注文は一時停止中である。第一期の販売予定台数に達したからだ。
順不同で問題を列挙していくと、その1は価格である。ベースのHonda eは451万円。マルチビューカメラシステムやプレミアムサウンドシステムなど、装備が充実したHonda e Advanceは495万円だ。前者のタイヤは16インチ、後者は17インチである。モーターの出力もAdvanceのほうが高い。どうせなら、Advanceが欲しい。
そうなると、500万円弱になる。クルマの値段はサイズに比例すると相場は決まっている。車両サイズはほぼ同等なのに、フィットなら2台は買える値段だ。しかし、Honda eには代えがたい魅力があって、だから悩ましい。
その2は航続距離だ。でもシングルペダルコントロールがいい。走りが楽しい
問題その2は電気自動車(EV)であることだ。もともとHonda eはヨーロッパの街なかで使うことを前提に企画されているので、車両サイズが小さければ、バッテリー容量も小さくなる。搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は35.5kWhだ。実用電費が4〜5km/kWhとして、電池切れの不安なく乗れるのは120〜130km程度だろう。片道100〜150km程度のドライブを頻繁に行なう身としては、なかなか厳しい。そもそも、保管場所に充電設備が必要だ。
解決すべきハードルは複数あるが、どうやったらHonda eをメインカーとして成立させることができるのかを妄想するのは楽しい。なにしろ、かわいい。いろんなラインや折れ目が錯綜せず、すっきりしたラインと面で構成されているのがいい。線や面をそぎ落としていくと味気なくなりがちだが、Honda eはそうは感じさせない。
ポップアップするドアハンドルは「新しいもの」に触れる喜びを感じさせる。サイドウインドウのグラフィック内に埋め込んだリヤのドアハンドルは完全にデザイン重視で、使い勝手は後回しだ。しかし、その割り切りがいい。フロントもリヤもフツーのドアハンドルだったら、Honda eはつまらないクルマに見えたかもしれない。
すっとぼけた表情もいい。フロントのターンシグナルは、デイライトの外周がオレンジ色に点滅する。右折レーンで信号待ちするとき、前にいるワンボックスのバックドアにその点滅の様子が映り込んで、「あ、こんなふうに光るんだ」と発見した。その後、ハザードを点けた状態にしてクルマを降り、しばらく外から眺めてHonda eを愛でた。
だめだ、すっかりやられている。Honda eは愛らしさ満載だが、走りは男っぽい。開発期間が短かったこともあって好き勝手に新しいコンポーネントを開発するわけにはいかず、そんな理由もあってモーターはアコードハイブリッドで使っているユニットを共用する。車重は1540kg(Advance)もあるが、最高出力は113kW(154ps)もあり、最大トルクは315Nmもあって、モーターの特性により0rpmで最大トルクを発生するので、瞬発力と加速の伸びといったらない。
しかも、エンジンやトランスミッションを積んだクルマのような騒々しいノイズとは無縁だ。ほとんど無音である。モーター音もよく押さえ込まれていて、モーターを積んでいることすら感じさせない。アクセルペダルを踏むと、見えない何かの力でスッと動いているような錯覚すら覚える。専用設計の車体と前後のサスペンションは車輪への入力を上手に制御し、Honda eをスポーティに走らせる。それでいて、快適性は損なっていない。サスペンションは前後ストラット式で、フロントのロワーアームには(軽量化のため)アルミ鍛造品を採用した贅沢な設計だ。
Honda eはアクセルペダルの動きだけで加速側だけでなく減速側もコントロールできるシングルペダルコントロール(SPC)を採用した。オンオフはDレンジボタンの後方にあるボタンで切り換えることができる。SPCがオフの場合、アクセルオフ時は惰性で走り、回生ブレーキによる減速は行なわない。ただし、アクセルオフ時にステアリング裏のパドルを操作すると回生ブレーキによる減速度が発生する(次のアクセルオン時に解消)。
SPCをオンにした場合は、パドル操作で3段階に回生ブレーキ力を調節することができ、最大減速Gは約0.18Gに達する。最強にすると「こんなに?」と戸惑うほど強めの制動がかかる。普段はデフォルト状態でいいだろう。それでも、コーナーに差し掛かる際の荷重移動をつくるのに充分なきっかけを与えることができる。SPCオンでは、クリープ動作はしない(オフ時はクリープする)。アクセルオフだけで完全停止まで持ち込むことができ、停車時は自動でブレーキを保持してくれる(つまり、ブレーキペダルに踏み換える必要がない)。
個人的には断然SPCオン派だ。高速道路で長時間クルーシングする際は、ギクシャクした動きを避けるためにオフにして走るかもしれない。
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