マツダから初代ロードスターが登場! 第28回・東京モーターショー 中編 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2020/10/16
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荒川 健
1989年は歴史上まれにみる激動の年であった。新年早々に昭和天皇がご崩御、平成元年をむかえ11月にはベルリンの壁が崩壊、そして12月29日の東京証券取引所大納会で38,900円台の史上最高値を記録しバブル経済はピークに達した。
そして世界が注目する東京モーターショーは晴海会場の狭さとアクセスの悪さが問題視されていたが、ようやく近代的な国際展示場である幕張メッセが10月9日に完成し第28回東京モーターショーにギリギリ間に合ったのである。
我が渾身のマツダ ユーノス・プレッソその裏側をお話ししましょう! 第29回・東京モーターショー 2/4話 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
荒川氏にとって1991年の第29回東京モーターショーは、実に感慨深いイベントだった。特に氏がチーフデザイナーとして手がけた...
技術屋三菱がHSR-IIで見せた、本気の空力!
さて、先週に引き続き注目を集めたクルマをご紹介しよう。
トヨタ4500GTやユーノス・コスモはバブルの頂点を極めた展示車両だったが、技術面で頂点を極めたコンセプトカーも登場した。
自動車技術開発のための走行実験車として展示されたのが三菱HSR-Ⅱである。
様々な技術分野の提案を1台に凝縮しようという欲張ったコンセプトで、4WDや4輪操舵、4IS、4ABS、アクティブECSと何のことやら分かりにくい装置で武装し300㎞/hで周回路を疾走したそうである。
当然ながら最高速チャレンジに重要なCd値低減に欠かせない低い全高、最小の最低地上高、長めの全長、それと滑らかな面造形を特徴としたデザインであった。
当時の三菱自動車車両実験部は国内トップの実車風洞実験棟を持っており、コンピュータでのバーチャル解析との整合性や自動車における空気抵抗と空気の流れなど研究論文を多発、世界会議で論文発表するなど学会をリードしていた。
したがってデザインは目的達成のために空力実験部門の厳しいコントロール下にあり、ソフトで流麗という印象は有るものの特徴の薄いデザインにならざるを得なかったと思われる。
おそらく高速走行のためホイールハウスとタイヤのクリアランス、エンジン冷却などで前回登場のHSRよりデザインには制約が多かったようで、個性やカッコよさが退化したのが残念だ。
他社のコンセプトカーは顧客の好みやライフスタイルに合わせた、いわゆる商品性の提案がほとんどなのに対し、三菱自動車はとにかく最新技術、最高の性能の追求を重要視していて、技術屋の夢の結晶を東京モーターショーに展示したのである。
しかしその頃はこれ以上の空気抵抗低減の余地が少なくなり、最高出力もDOHCエンジンやターボが進化し量産エンジンの技術的な到達点に近づき、今後はコスト低減や合理化が近々の目標となり始めた頃であった。したがってこの1989年をターニングポイントとして、その後も毎回出品し続けるHSRシリーズはその目的を失ったかのように居住性の改善など当初の目的から逸脱し、回を重ねるごとにデザインが衰退し変なカタチが目立つようになっていったのは極めて残念だ。
世界にロードスターブームを巻き起こしたマツダの情熱
かたやスポーツカー開発にプライドをかけたメーカーの技術屋も意地を見せた。
マツダのユーノス・ロードスターである。社内でもビジネスとして難しいのではないかと不安視されていたライトウエイト・スポーツカーにチャレンジしたのだ。
熱い志を持った技術屋たちが基礎研究と称し社内の片隅でバックヤードビルダーのように試作車を作り、技術研究発表会で評価され経営陣から正式な開発許可を得るといった、苦労の末に自力でつかみ取ったプロジェクトなのであった。
RX—7やフェアレディZなどスーパースポーツと比べ車両価格が安いため利益率が低いとされていたが、マツダは“魅力あふれる商品性”で技術屋の夢を実現、翌年の1990年には世界総売上げ9万台オーバーを記録し異例の大成功を収めた。
商品コンセプトはカタチの表現ではなく「人馬一体」、走りの体感を真正面からキーワードに掲げたのは設計者がクルマに対しての明確な開発目標とゆるぎない信念を持っていた証なのである。
マツダに移籍したばかりの私は、1988年に三好テストコースでF試と呼ばれる量産前の最終試作車に乗る機会に恵まれた。地面に吸い付くような運転感覚はマニア垂涎の1974年アルファロメオ2000GTVにそっくりだったが、ボディが軽くペダル類もめちゃくちゃ軽くはるかに運転しやすかった。これは女性でも楽に運転できる世界初のオープンスポーツカーではないかと思えた。
チーフデザイナーは田中俊治氏でデザインコンセプトは“能面の美”、日本の美意識を端的に表した名キーワードで海外での受けが良かったようである。
やさしい曲面で構成され、凝縮された塊としての美しさが際立つ造形は個性的な魅力にあふれていた。ちなみに美しい曲面が特徴のテールランプはニューヨーク近代美術館にグッドデザインとして永久保存されている。
日本に登場したピニンファリーナのコンセプトカー!
今回の締めくくりは、このモーターショーで私が最も感動したコンセプトカーを取り上げたい。フェラーリ・バルケッタ“ミトス”である。
テスタロッサをベースに、フェラーリにとって最高のコラボレーション・パートナーであったピニンファリーナがデザインを担当したロードスターだ。
F40の流れをくむ、要素を極限に減らした理論的でシンプルな面構成が際立つ美しいデザインは、おそらく他の誰も真似ができないだろう。私にとっては神の仕事に思えた。
とにかくバランスの良さ、絶妙なボリュームとそぎ落とされたシャープでフラットな面との対比の素晴らしさは磨き上げられた完璧な塗装とも相まって、それまで見たことがない新しさと美しさに光り輝いていた。力強い緊張と緩和のリズムが絶妙に心地良い面構成は哲学的でさえあった。
その後のピニンファリーナの作品はこのミトスをピークに新鮮さが失われ、少しずつ演出過剰で本来の高貴さが失われたデザインに変化し始めてしまい、バブル崩壊の影響とはいえ残念なことであった。1989年第28回東京モーターショーはまだまだ凄いクルマが控えている。次回も独自の視点で解説するので是非読んでいただきたい。
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