日産キックス車両開発主管に訊く「キックスがe-POWER専用である理由」第一世代e-POWERの完成形を搭載したキックス(後編)
- 2020/10/19
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MotorFan編集部 鈴木慎一
燃費の数字は過度に追いかけない
MF:e-POWERを買った人のうれしさって燃費よりもモーター駆動の気持ちよさだと思うのですが、カタログにはやはりモード燃費を載せなきゃいけない。でもモード燃費データでいったらトヨタのTHSⅡには敵わない。……難しいですよね。
山本:(苦笑)その通りです。今回のクルマは、燃費はもちろんこのクラスとして恥ずかしくない数字は必要だったんですが、けっしてダントツトップを狙ってなくて、そのぶんは全部運転性に振りわけてそっちを優先してきました。そこでEV走行の気持ちよさは必ず受け入れてもらえると確信していたので、燃費の数値的にはほかと比べると若干悪いんですが、そこは妥協した点ですね。実際、燃費を良くしようとすればできなくはなくて、多少出足の加速とかを我慢すればできるのです。まぁあえてそこはやらずにいまの性能にまとめたところです。
MF:燃費に関しては、多分いろんな考え方があって、このくらいあったもう良いじゃんという燃費値があると僕は思っているんです。でも、みんな意外と30km/ℓいったら35km/ℓがほしくなるのかもと最近は思っています。キックスは、おそらく普通に走っていると16~17km/ℓくらいですよね。なんの不自由もないし燃費が悪いなんてけっして誰も思わない。でも、ヤリスハイブリッドだと25~30km/ℓ走ったりするじゃないですか。とはいえ、1カ月半に一度ガソリンスタンドへいくか、2カ月に1度いくかくらいの違いで、その時払う金額は3000円とか4000円です。携帯電話代の方が高い。今後の発展性として山本さんがおっしゃったe-POWERのモーター駆動で気持ちいいだけじゃなくて燃費ももうちょっと上げていかなきゃいけないんだよね、と開発の方では思っているのか、もっと走る歓びに振っていこうか。両方いくのがもちろん一番いいとは思うのですが、それは難しいじゃないですか?
山本:そうですね。正直言うと、いまは燃費よりは運転性を狙おうとしています。とはいっても燃費はある意味、ライバルとの比べるものになるので周りが上がっていくと、これをやっぱり追いかけていかなければいけないので、そこは状況を見ながらやりたい。私個人的にも運転性を少し我慢してまで燃費に振るのはあんまりよくないかなと思っています。キックスには、ドライブモードが3つあるんです。エコとノーマルとスマート。ここをうまく棲み分けられたらいいと思っています。例えば、エコはすごく本当にエコにする。動力性はもっと我慢してもらう。スマートモードにするともっとスポーティに走れるとかですね。まだ私見ですけど。そういったのが気持ちいい、メリハリがあるほうがいいと思っています。
MF:ところで、ああいうドライブモードっているのはみんな切り替えて使っているんですか?
山本:……あまり切り替えないって聞いてます(苦笑)。お客さんはエコにしたらエコ、スマートにしたらスマートで使っている。ノートe-POWERのお客さんはそうだと聞いています。
MF:たくさんモードがあっても切り替えないかな。そうであれば、ベストなモードがひとつあればいいと思うんです。買うときはモードがいくつかあって切り替えられる方がうれしいと思うですけど。買ったら切り替えない。
山本:キックスでモードをひとつにすると、ワンペダルのモードになるので、あのワンペダルがどうしてもいやだというお客さんもまだいらっしゃるので。
MF:まだいらっしゃいますか?
山本:はい。ただ、馴れてくるとあれが非常にいいのですけど。ワンペダル(e-POWER DRIVE)、ちょっとだけ乗るとあまり気持ちよくないかもしれませんが、少し馴れてくると非常にいいんですよ。踏み替えの迷いみたいなのが、1ペダルだとないので楽ですし。今回キックスのe-POWERはブレーキ制御がかなり進化しているんです。ノートのeペダルとはまた違って自然な止まり方をするんです。そこはかなりブレーキ制御の性能設計チームに頑張ってもらいましたね。キックスでは人間がブレーキペダルを踏んだような止まり方をしてくれるので気持ちいいですね。
MF:今回、開発期間は3年くらいですか? 日本仕様のキックスでいうと。
山本:最初の本当に企画し始めたところからはそのくらいです。実際、モノを作り始めてからはそんなにかけてないんですけど。2年ちょっとくらいですかね。
MF:それで済んだのは、やっぱりリーフがからずっとやっているモーター駆動のノウハウがあったら?
山本:リーフも含めて、e-POWERも3代目(ノート、セレナ、そしてキックス)になりますから、制御の考え方はキックスに搭載する用というよりは先行開発でずっとやっています。そういう意味ではその途中のものをもってきたということですかね。
MF:冒頭お話したとおり、僕は1週間ほどお借りして、キックスをとても気に入ったんです。だけど少し気になるところもありました。もうちょっと内装が高級になんないかしらというのが正直なところです。気になったのはドアのインサイドハンドル、あそこがバシッと打ち抜いただけのところに填まっているように見えたり、シートレールのボルトが見えたりとか、ああいうところがもったいないな。せっかくモーター駆動で気持ちよくて上質なのに、手に触れるところやりクルマに乗るときにふっと見えるところにボルトがあると買った人ががっかりするだろうな、と。そのあたりはどうお考えですか?
山本:そこはICEのクルマ、ノートと同じなのですが、ノートをベースに作っているところでそこにまだ手を回せる余裕がなかったのが正直なところです。同様のフィードバックをいただいているので、そこは次期型に向けてはなにか考えないといけないかなと思っています。次期型というかこのキックスのライフ中にカバーをつけるとか少し考えていかないといけないと思っています。
MF:それだけでもずいぶん印象が変わると思います。300万円近くのクルマは、みんな300万円払った満足感がほしいと思います。
キックスの進化の方向性は?
MF:ちょっと答えにくい質問をします。先日、e-POWERのエンジニアの方のインタビューをした際に「これはe-POWERのジェネレーション1の完成形なんです」と。「ノートe-POWERのいろんなコンプレインは全部これで消しました」と。実際、キックスは音も静かだし走りも気持ちいい。でもおそらくジェネレーション2が待っているわけじゃないですか? 次のノートには新しいe-POWERが載ると噂されています。なにもおっしゃれないと思うですが(笑)タイミング的にはもうちょっと待ったら第Ⅱ世代の頭出しをキックスにできたんじゃないか。開発主査としては第一世代の完成形を載せるか、第二世代の頭出しにするか。それを選べたのか選べなかったのか? 選べるならどっちがよかったのか?というのはどうですか?
山本:キックス(e-POWER)の開発を始めた当時には、その第二世代という話はまだまったくありませんでした。当然かなり先行開発という意味ではあったんですけど、それを商品に載せる目途はまだなかったので、最初にお伝えしましたとおり、とにかく早くキックスe-POWER・2WDを出したかった。そこで、当時あったノートの仕掛けで積み上げていった次第ですね。
MF:いままで市場になかった新しい名前でニューモデルを出すのは相当大変だと思います。CMも打たなくてはいけない。出足が好調でよかったですね。
山本:はい。おかげさまで想像以上に反響いただいているので、ディーラーさんからも「早くよこせ」って言われています。非常にうれしいですね。ディーラーさんへいくと、「やっと新車も出してくれたんですね」と言われます。かなり待ち望んでいただいてみたいです。じつは発表前に半年くらいかけて全国のディーラーさんへエンジニアが行って、商品の説明をしてきたんです。
MF:半年前? ずいぶん前ですね。
山本:2019年11月くらいですかね。コロナの前だったので助かったんですけど、のべ200人くらいが全国のディーラーへ開発と広報で2人か3人くらいで行って、地域のディーラーさんを集めて、プレゼンテーションをしました。クルマも持ち込んで、見ていただきました。そのときの反響がすごく良かったので、すごく自信を持てましたし、なによりも非常に期待していただきました。私も3カ所くらい行きましたよ。
MF:通常半年前くらいからそういうことをやるものなんですか?
山本:このクルマはちゃんと理解していただくという意味で、開発自ら説明させていただきました。
MF:そういうときはドキドキするものですか?
山本:緊張しましたね。みんなお世辞をいう必要もないので、非常にキビシイ意見を言われました。この部品はいらないね、とかここがこうだったらいいねとかいろいろフィードバックをいただけますね。
MF:発表前のクルマを持ち込むのは大変だったでしょう?
山本:そうですね。だいたいトレーラー2台で持って行ったんで。保秘の関係上、スマホを預からせていただいて誓約書を書いてということでやらせていただきました。皆さん積極的に参加していただきました。
MF:まずは無事に船出をして、評判もよくてフィードバックも入ってきて、じゃあこれをどう育てていくか。山本さんとして、これからキックスのお客さんになってほしい人、こんな人に乗って欲しいとか、こんな楽しみ方だったりキックスがあるとこんなに楽しいカーライフが送れますよというよなメッセージをお願いします。
山本:このクルマ、EVネス、EVで走れる気持ちのいいクルマになっているので、ひとりで運転していても非常に楽しいですし、家族で乗って荷物も積んでというシチュエーションも考えて開発してきたので、あらゆる世代の方、家族構成の方でも乗っていただけます。いろんな人に勧めていただきたいなと思っています。EVで走れるので、そこはハイブリッドとはかなり違います。まだ一般の方はハイブリッドのe-POWERの区別がつかない方が多いと思いますが、我々は、e-POWERはEVだと思っていますし、その走りをぜひ乗っていただきたい。乗らないとなかなかわかりづらいと思うので、ぜひディーラーさんへ行って乗っていただければな、と思っています。
MF:そういえば、山本さんの義理の息子さんもキックスを購入されたとか。発表会の山本さんのプレゼンテーション(YouTubeで生配信された)に感動して、キックス、ご購入なさったんですってね。しかも、人生初のクルマとして!
山本:人生初クルマなんです。うれしいですね。先日納車されて、おっかなびっくり乗り始めてます。こっちはドキドキです。息子は6/24発表で30日に注文したので2ヵ月で納車されました。
MF:発売開始6日で注文したんですか? 素敵な話ですねぇ。試乗せずに注文してくれたんですね。お義父さま、信頼してもらっていますね。
山本:はい。信頼してもらいました(笑)。だからその信頼を裏切ったらまずいな、と。
日産キックス X(FF)
全長×全幅×全高:4290mm×1760mm×1610mm
ホイールベース:2620mm
車重:1350kg
サスペンション:Fストラット式 Rトーションビーム式
エンジン形式:直列3気筒DOHC
エンジン型式:HR12DE
排気量:1198cc
ボア×ストローク:78.0mm×83.6mm
圧縮比:12.0
最高出力:82ps(60kW)/6000rpm
最大トルク:103Nm/3600-5200rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:41ℓ
モーター:EM57型交流同期モーター
定格出力:95ps(70kW)
最高出力:129ps(95kW)/4000-8992rpm
最大トルク260Nm/500-3008rpm
最終減速比:7.388
バッテリー容量:1.47kWh
駆動方式:FF
WLTCモード燃費:21.6km/ℓ
市街地モード26.8km/ℓ
郊外モード20.2km/ℓ
高速道路モード20.8km/ℓ
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