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「脱エンジン車」は儲かる! パナソニックは車載電池工場建設の裏事情を読む

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日本と英国。この東西の島国での先週の出来事が興味深い。日本ではパナソニックが欧州に車載電池工場を建設するための市場調査を開始すると発表した。英国ではボリス・ジョンソン首相が「グリーン産業革命」案を発表した。両方ともキーワードはBEV=バッテリー電気自動車である。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

英国は2030年にエンジン搭載の乗用車の販売を禁止する

PHOTO◎Equinor
パナソニックはノルウェーのエネルギー最大手エクィノル(Equinor)と電力・アルミ・エネルギーの老舗であるノシュク・ヒドロ(Norsk Hydro:英語読みノルスク・ハイドロ)の2社と組んで電池事業の市場調査を開始する。欧州全域を対象に(ノルウェーはEU非加盟)電池工場建設のためのフィージビリティ・スタディーを来年夏まで行なうという。工場を建設する場合はノルウェーの2社との提携あるいは協業になる可能性が高いと見ていいだろう。

いっぽう、ジョンソン首相が発表した「UKグリーン・インダストリアル・レボリューション・プラン=英国グリーン産業革命プラン」のなかで、広く英国国民に関わるテーマは自動車と家庭用暖房だ。自動車については、ICE(内燃機関エンジン)搭載の乗用車と小型商用車の販売を、以前発表した予定より10年早く2030年までに禁止することが盛り込まれた。英国内での報道内容を見るかぎり。ジョンソン案では「一部のHEV(ハイブリッド車)」は2035年まで販売が許されるようだ。ただしPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)が2035年以降も販売継続できるかどうかは不明である。

この案には「25万人ぶんの雇用を創出する効果がある」とジョンソン首相は付け加えた。雇用創出がなければこの手の政策は支持されない。発電を再生可能エネルギー利用へと転換し、家庭用暖房をガスボイラーからヒートポンプに切り替えることが雇用を生むという説明だ。

すでに使用されているICE車は2030年以降も道路を走ることができる。また、中古車としてのICE車販売は規制の対象外である。ただし、来年10月25日にはロンドン市内のUlez (ultra-low emission zone)がほぼ市内全域に拡大され、ユーロ4排ガス規制を満たしていない2006年以前に製造されたガソリン車とユーロ6排ガス規制を満たしていない2015年9月以前製造のディーゼル車は1日12.5ポンド(約1700円)の通行料を支払わなければならなくなる。こうした規制が英国各地の都市に拡大するとICE車には乗りにくくなる。

英国の場合、自家用車は会社が供与するカンパニーカーである場合とPCPs(パーソナル・コントラクト・プラン)と呼ばれるリース契約との合計は全乗用車登録の70%以上を占めると言われる。クルマを「所有」している人は約30%であり、残り70%は「利用」しているだけだ。英・ガーディアン紙は「PCPsを使えばVW(フォルクスワーゲン)ゴルフTSIより日産リーフのほうが安くなる」と報じている。

また、ジョンション首相は「ゼロまたは超低排出ガス車を購入する人のための助成金として、さらに5億8200万ポンド(1ポンド=138.5円で計算して8兆円強)を拠出する」ことを明らかにした。さらに一般家庭や市街地、高速道路などに充電施設を設置し「英国国民はいつでもどこででもECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部充電できる電動車、BEVとPHEV)を充電できるようになる」とも語った。

英国の2020年10月の販売データと2020年1-10月のデータ。SAUCE◎SMMT

現在、英国ではPCPsではなく現金(ローン含む)でBEVを購入する場合に政府から3000ポンド(約42万円)の補助金が給付されるが、ECVへのシフトに当たっては8兆円強の補助金が今後は必要になるわけで、これは税収から支出される。充電設備の設置については2兆3500億円程度が必要と試算されている。

英国には民族系の大手自動車メーカーは存在しない。旧ローバー・グループは解体され、そのメンバーだったジャガー・ランドローバーはインドのタタ財閥、ミニはBMW、ローバーの知的財産とトライアンフは中国の上海汽車、ローバーの商標権はフォードがそれぞれ所有する。ロータス・カーズは中国の吉利汽車がオーナーである。英国の自動車工場はトヨタと日産であり、ホンダは撤退した。

自国資本の自動車メーカーがないという事実は、「ICE車禁止」を言い出しやすい。アメリカではカリフォルニア州が独自のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無排出ガス車)規制を敷き、ニューヨーク、マサチューセッツ、メリーランド、アリゾナ、オレゴン、コロラドなどの12州も賛同しているが、自動車工場を抱えるミシガン、ノースカロライナ、ケンタッキー、テキサスなどは賛同していない。これと同じだ。

フランス、ドイツ…自国に自動車産業を持つ国とノルウェーなど持たない国の違い

同時に、自動車産業を抱えるフランスとイタリアで「ICE車禁止」の法案が議会に提出され可決される可能性は、現状ではそれほど高くないだろう。フランスは2017年7月、エマニュエル・マクロン大統領が「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を終了することを目指している」と発言したものの、燃料価格に対する炭素税引き上げへの抗議活動「黄色いベスト」の勃発以降はこの問題に触れなくなった。

ドイツではVWのディーゼル排ガス不正問題を機にICE車とその製造企業への嫌悪感が高まり、緑の党が躍進した。選挙で選ばれるEU議会のなかでも、いわゆる環境保護政党が躍進した。選挙で落ちないようにするためにはICE車を悪者にするのが一番であり、このムードはドイツだけでなくEU内の「政治の空気」を支配している。

欧州でもっともECV販売比率が高いノルウェーにも自動車産業は存在しない。すべて輸入であり、自動車部品サプライヤーもほとんどない。そのためBEV優遇は行き届いている。購入税と付加価値税(VAT=日本の消費税に相当)の免除、フェリーや高速道路料金の減免、バスレーン走行可などが適用されている。

もともとノルウェーは産油国であり、北海油田およびガス田に関わっているのがノシュク・ヒドロとエクィノルである。ノシュク・ヒドロは水力発電業者でもあり、この電力を生かしてアルミニウム事業を展開している。エクィノルはノルウェー政府とノルウェー政府年金基金が合計70%を出資する国策会社である。石油と天然ガスを諸外国に売り、自国では水力発電比率90%以上を確保することでエネルギー自給率800%を達成している。国内で使う100%を除いた700%は輸出している。

2019年3月、ノルウェー政府年金基金は「石油・ガス関連の一部を投資先から外す」と発表し、波紋が広がった。同基金はエクィノルが北海で算出する石油と天然ガスの利益を元手に世界中に資産と投資先を持つSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド=政府系ファンド)であり、その資産は100兆円を超え、運用は国営ノルウェー銀行が行なう。SWFとしては世界最大であり、クウェート投資庁、アブダビ投資庁、サウジアラビア投資庁といった中東産油国系SWFもノルウェー政府年金基金の規模にはかなわない。

石油を売った利益でSWFを運用し、投資先から石油を外すというノルウェーの行動は、世界の機関投資家にも「石油・ガス外し」という潮流をもたらした。しかし「王室つながり」の投資は例外であり、ロイヤルダッチシェルやBP(ブリティッシュ・ペトローリアム)への投資は撤収しなかった。

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