「脱エンジン車」は儲かる! パナソニックは車載電池工場建設の裏事情を読む
- 2020/11/24
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牧野 茂雄
おそらくノルウェー政府は、長い目で見たときのエネルギー転換、とくに脱石油という流れに対し、自国の石油産業を「細く長く」存続させることを狙ったのだろう。投資運用資金の大きさに物を言わせて再生エネルギー関連への投資を行なえば、ほかの投資家も右へ倣えでついてくる。投資が集中する株はリターンが大きく、株価上昇はノルウェーの国益になる。同時に国の富をさまざまな国に分散することができる。
そんなノルウェーの国策企業とパナソニックが連携し、欧州に車載電池工場建設するという計画が先ごろ発表された。現状では「市場調査」と言っているが、市場調査をするまでもない。工場の立地と規模を決めるだけだ。欧州ではECVがどんどん増える。そのほとんどがLiB(リチウムイオン2次電池)を使う。現在、欧州のLiB工場はスウェーデンのノースボルト以外ではハンガリーのサムスンSDIとSKイノベーション、ポーランドのLGケミカルと韓国勢が強い。中国勢ではCATL(寧徳時代新能源科技)がドイツに工場を建設中だ。現地生産では韓国勢が先行し、中国勢がその後を追っている。
日の丸バッテリーメーカーは進出が遅れた。やっとパナソニックが動き始めた。しかし、韓国勢がVW、ダイムラー、ルノー、グループPSAへのLiB納入で先行している。なかでもLGケミカルは、単年度で初めてLiB部門が黒字になるという。いっぽうのパナソニックは、おそらく車載電池事業では赤字と思われる。トヨタ向けのニッケル水素電池製造は、1997年の初代プリウスに納入して以来、やっと投資回収して黒字になったと聞いている。LiBの黒字化にはまだ時間がかかるだろう。
パナソニックの欧州電池事業が黒字化するかどうかは、ふたつの要素が密接に関係していると筆者は見ている。ひとつはテスラがドイツに建設中の車両工場だ。当初の計画ではLiB生産ラインも併設される予定だったが、これが中止になり車両工場に専念するという報道が7月にあった。パナソニックの電池工場は、テスラのこの決定を受けたものではないかと推察する。
もうひとつはEU企業との連携だ。昨年5月、VW監査役会は欧州でのバッテリー生産体制確立に向けた10億ユーロ(約1225億円)の投資を承認した。生産拠点の候補地はドイツのニーダーザクセン州だ。これとはべつに、パートナー企業を選択し大規模電池工場、いわゆるギガファクトリー(年間の電池生産量がギガワット単位になることから、一般にこう呼ばれている)の建設も計画している。ここには20億ユーロ以上が投資される見通しだ。
中国・韓国勢への牽制の意味もある
パナソニックはまだ何も明らかにしていないが、「市場調査開始」のタイミングでノルウェー企業との連携を発表した背景には、韓国勢・中国勢への牽制もあるはずだ。「出遅れたが出ないわけではない」というアピールだと筆者は想像する。
NEV(新エネルギー車)からHEVを外しすことで中国は「日本外し」を行なった。しかし、思ったようにNEVが売れないため中国政府は、今度はHEV囲い込みに出た。いっぽう、欧州ではHEVではなく過給ダウンサイジング・エンジン車がガソリンでもディーゼルでも省エネ車の主力になったが、ディーゼルスキャンダルでその流れが止まった。開発はBEVへシフトし、手間のかかるHEVは欧州のエンジニアリング会社や日本のサプライヤーが担った。
欧州は中国のような「日本外し」はしないが、BEVへのシフトが終わるまではHEVが必要である。同時に、LiB供給を韓国と中国の企業に握られているという点には危機感だけでなくある種の嫌悪感を口にする関係者すらいる。ノルウェー、英国、日本。EUではないこの3か国がEUのECV普及政策に外からどのような影響を与えるだろうか。ノルウェーは中国の比亜迪汽車(BYDオート)から電動連結バスを購入している。ドイツのMANやダイムラーより安価だという理由だ。英国は自動車産業が消滅しても影響力を維持しようとしている。かつてユーロNCAPが発足するとき、英国のTRL(トランスポート・リサーチ・ラボラトリー)はダイムラーとボルボ・カーズをまんまと騙した。ECV政策でも同じことを狙っているだろうと筆者は思う。
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