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驚きのコンセプトカーが登場! マツダ大気&メルセデス・ベンツF700 第40回東京モーターショー 2/3【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】

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これが未来のSクラスか? と、騒然とさせた提案。革新的プロポーションも注目された。

2007年の第40回東京モーターショーは、2002年頃から続いた好景気で自動車メーカーが輝きを取り戻し、異様なほど活気に満ち溢れたショーであった。
今思い返せば、翌年の2008年に起こるバブル崩壊の再来ともいわれたリーマンショックを予感させる、まるで散る寸前の大輪のバラのように、頂点に達してしまったような終末感が漂っていたように思える。

空気を纏うマツダ大気

ロータリーエンジンを搭載するFRレイアウトで、新たなスポーツカーの提案でもあった。

前回取り上げたレクサスLF-Aは量産車を予告したコンセプトカーであったが、純粋にメーカーのデザイン宣言としてのコンセプトカーも数多く展示されていた。
今回はその中でも衝撃的な大胆さで記憶に残った2台を取り上げよう。

まずは、マツダ“大気”である。
白鳥が翼を丸めたみたいなリヤタイヤがボディから飛び出したアイデアはさほど新鮮ではないが、前年から取り組んできた空気の流れをテーマにしたスタイリング提案の最後を飾るべく、風に舞う木の葉のイメージだと解釈すれば納得のアイデアである。

突然強烈なデザインメッセージを発信するに至ったのには2006年から2009年までマツダのデザイン本部長だったヴァン・デン・アッカー氏のダイレクションによるところが大きい。
新しくトップに就任した彼は、バブル崩壊後ちょっと勢いを失っていたマツダデザインに元気を取りもどしたのは確かだ。

独立したリヤタイヤが特徴的で、軽量、軽快を印象付けた。

しかし、“大気”に至る2006年発表の“流れ”から“流雅”“葉風”というコンセプトカーはせっかくの美しい面造形に波紋のようなラインを入れてしまい、ネーミングからして“和”をイメージしたとのことだが、妙に説明的で「西洋人の見たニッポンの美」みたいな軽さが気になった。
だが、この“大気”はハードモデルの造りこみが凄く、様々なディテールのカタチは芸術的といっても過言ではないレベルで、写真を見ながらこの記事を書いているのだが、現代工芸展に出品できるのでは?と感心しながらカメラのシャッターを切った当時の記憶がよみがえった。
またインテリアのアイデアが斬新である。強烈に黒と白にカラーを塗り分け、シート形状も異なり運転席と助手席の空間を完全に分けてしまったところが新しく、「ここまでやるか」と思わずつぶやいたことが思い出される。

独特なインテリアデザインは、エクステリア同様にエアフローを表現。

デザイントップが新しくなり、とにかく思い切り弾けたデザインを提案し、技術的にも持てる力のすべてを出し切った感がある。携わったデザイナーはさぞや気持ちが良かったことだろうと想像してしまい、こちらまでワクワクしたのであった。

ちなみにヴァン・デン・アッカー氏はこの実績を手土産に2009年ルノーに移籍し、デザイン・ダイレクターに就任した。
最近のルノーデザインは以前と比べ見違えるほど躍動感があり造形も際立って美しい。
ルノーのデザイン改革を大胆に行なったとのことだが、躍動感のあるクレーモデル製作などマツダから学んだ点が大きかったはずだ。以前取り上げたマイバッハもマツダ出身のデザイナーやモデラ―達が携わったし、こうして色々書いてみるとマツダのカーデザイン界に対する貢献度は大きいと思う。

衝撃のダイムラー・クライスラーF700

1.8ℓ直列4気筒の直噴ガソリンエンジンをベースとしたハイブリッドユニットを搭載した。

次はダイムラー・クライスラー(メルセデス・ベンツの当時名)のコンセプトカー F700だ。
こちらも度肝を抜くデザインで、見るものを圧倒していた。
「ここまでやるか!」という驚き具合も大気と同じレベルであり、この2007年は何か不思議なパワーがカーデザイン界を揺り動かしていたように思えるのだ。

とにかく大きくて低い。ウナギイヌみたいな、ホールベースの長さに威圧的なフロントデザイン、そこからリヤにかけて大波がうねるように盛り上がるベルトラインが特徴的で、これまでに見たことのないデザインであった。

メーカーの未来へのビジョンを凝縮したとのことで、複雑な運転操作を出来る限りなくしたインターフェイスや事故防止の運転サポート技術など盛りだくさんの提案と共に、ダイムラー・クライスラーが追求する高級感を可視化した意欲作であった。

得意なプロポーションながら、ディテールの表現によってクラシカルな存在感を醸す。

全長5.180mm 幅1.960mm 高さ1.438mmといったサイズを見ると、車高は楽な姿勢で乗れる乗用車としての適性寸法で、決して低いわけではない。あまりに長く幅も広いため、そう見えるのだ。
ボディサイドにはホイールアーチを強調した強烈なキャラクター造形が施され、自動車のデザイン処理としては1940年代以降タブー視されて来た空気力学的に不利になる装飾的な凹凸造形を復活させているのが大いに気になるところであった。

先ごろ発売されたメルセデス・ベンツ最新型Sクラスは、このF700で提案していた安全サポート機能や会話型情報処理機能なども実用化し、当時の未来ビジョンを着実に実現している。
デザインも旧型よりはシンプルにトーンダウンしてはいるものの、威圧的なフロントデザインやリヤコンビネーションランプは相変わらず装飾的で、少しずつ凄みの度合いも増しているように感じる。

サッシレスのドアやワイドモニターなどを採用。

あくまで私の個人的な見方ではあるが、こうした装飾性は当時から退廃的な印象があり、何か心に引っかかるものがあるのだ。
ちなみに今や絶好調の中国有力メーカーのチーフデザイナーは元メルセデス・ベンツに在籍していたのだが、中国の進歩的な高級車ユーザーは派手なキャラクターラインのメルセデス・ベンツよりも圧倒的にアウディA9派が多いと語っていたのが思い出される。

さてマツダはどうであったか。2009年にデザイントップが今の前田育男氏になり表面的な装飾が全否定され、今のマツダデザインの基本である骨太な流麗さの追求が始まった。
最近のマツダ3などを見ると、この時代の行き過ぎた自己主張デザインへの反動があったからこそ、デザインポリシー“魂動”(こどう)の構築に始まる地に足を付けた「永続的自動車デザインとは何か」への確かな答えを得ることが出来たように思える。
様々な危機を乗り越えたマツダデザインは、正に“雨降って地固まる”なのであった。

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