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陸上自衛隊:強火力と兵員輸送能力が光る「89式装甲戦闘車」、歩兵とともに前線で活動する

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89FVは装甲車体に砲塔を載せ、その内部に兵員を乗せて輸送し、味方の戦車戦力などとともに機械化・装甲化された相手勢力を退けることを目的とした戦闘装甲車両だ。

従来の陸上戦闘は侵攻と防御のせめぎ合いで、つまり地域の争奪戦だ。戦車を大量に投入した機甲部隊の前線突破力は大きいが、対峙した相手の最前線を破っただけではその地域を手に入れたことにはならないのが戦闘や紛争・戦争というものだとされる。では決着はどうつけるか。それは歩兵がその地域を制圧し、占領が伴って決着したとみなされるという。つまり最前線にはつねに歩兵の存在が必須で、これが歩兵を最前線の戦闘地域へ運べる89FVの必要とされる理由のひとつだ。

車体側面の球形物が銃眼孔(ガンポート)。車内から89式小銃などを射撃できる。銃眼孔は左右に各々3カ所、車体後部に1カ所の計7カ所が設置されている。

こうした陸上戦の想定は冷戦時代の北海道にあった。第二次大戦後の脅威は旧ソビエト連邦だった。当時の日本、自衛隊は、オホーツク海や日本海を渡って旧ソ軍の主力戦車が上陸し占領されると考え、備えていた。

1976年9月6日には「ミグ25・ベレンコ中尉亡命事件」が起きている。ソ連軍現役パイロットのヴィクトル・ベレンコがMiG-25戦闘機で函館空港に強行着陸し、亡命を求めた事件だ。この当時、航空自衛隊千歳基地で戦闘機パイロットだった方が言うには「本当に臨戦態勢を敷いた」とのこと。旧ソ軍がミグの機体を奪回しに来ると考え、備えた、具体的な有事だったのだ。

車体後部には観音開き扉を設置、乗員室への出入り口となる。扉には銃眼孔が設置されている。戦車部隊が地域を制圧した直後に89FVは前進、戦闘員を安全に素早く送り込むことができる。

そんな時代に計画されたのが89FVだ。配備先はまず北海道の第7師団。陸自唯一の機甲部隊であり当時から現在も置かれ続けている。89FVも北海道専用装備といえる状態で北の大地に配備された。

第7師団のような機甲部隊は機械化され、歩兵・普通科も全員が装甲車で移動する。しかし、ほかの師団や旅団では装甲車化されているのは一部だけで、移動のほとんどは非装甲のトラックだ。すると、機甲部隊に比べてトラック移動の歩兵部隊の機動力や防御力、攻撃力は弱いものになる。まして機動力に優れる相手に対しては有効な応戦・攻撃手段を持っているとはいえなかった。こうした歩兵部隊の攻撃能力を向上させるために考案されたのが戦闘装甲車という車種であり、陸自でいう89FVになる。『装甲兵員輸送車×機関砲+対戦車ミサイル』という方程式で作られるものだ。その代表格が米陸軍のM2ブラッドレーである。

89FVは、本当は北海道以外の全国の歩兵・普通科部隊にも配備したかったはずだ。歩兵随伴装備だからである。しかし、本車の調達当初の価格は1両6億数千万円と極めて高価なものとなり、数が揃えられなかった。揃えられないまま時代は移り、日本の安全保障環境は変わった。ソ連崩壊で脅威は北方から南西地域へシフトし、離島を守る必要が出てきた。沖縄県石垣市の尖閣諸島では艦砲を積んだ中国公船が領海侵犯をしているからだ。

話は広がってしまったが、現在は新冷戦と言っていいだろうし、それもすぐ熱いものに変わりそうな危険性がある。北方を疎かにするわけではないが南西地域の島嶼防衛が重要なのも事実だ。

島々の防衛でも歩兵・普通科が必須なのは同じだから、89FVやその後継機も必要になるはず。89FVはもう30年選手だからだ。しかし、89FVや87式偵察警戒車、96式装輪装甲車も含めて、これらの後継機研究や開発事業の具体的なものは進行中のはずだが筆者の不勉強も関係して聞こえてこない。水陸両用車AAV7で上陸できるのは今のところ水陸機動団だけ、16式機動戦闘車や10式戦車では一般の普通科を輸送できない。島を守りに最前線へ行く普通科が冷戦時代と同じ非装甲のトラックではダメだ。

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