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海上自衛隊:潜水艦「とうりゅう」就役、「そうりゅう」型最終番艦の登場で潜水艦『22隻体制』へ

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自衛艦機を艦尾の掲揚塔に掲げた「とうりゅう」。掲揚した瞬間から自衛艦として扱われる。乗員は約65名。吸音タイルを貼り巡らせた艦体表面にも注目だ。写真/海上自衛隊

2021年3月24日、海上自衛隊の新鋭潜水艦「とうりゅう」が就役した。造船所の川崎重工業株式会社 神戸工場で海自に引き渡された。「とうりゅう」は海自の主力潜水艦「そうりゅう」型の12番艦で、同型の最終番艦だ。

TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

海上自衛隊の新造艦就役が続いていることを連続紹介するのも今回でひと段落。ここ最近、約半年間で就役した新鋭艦艇を整理しておくと、

2020年10月14日、リチウムイオン蓄電池を搭載した潜水艦「たいげい」就役
2020年11月19日、多目的性を持つ護衛艦「くまの」就役
2021年3月4日、音響測定艦「あき」就役
2021年3月16日、FRP製掃海艦「えたじま」就役
2021年3月19日、イージス艦「はぐろ」就役
2021年3月24日、潜水艦「とうりゅう」就役

となっている。次に、これらの新鋭艦就役を順に概観してみる。まずは新型潜水艦「たいげい」だ。

新造潜水艦「とうりゅう」(SS-512、「512」は艦番号)。「そうりゅう」型12番艦で、最終艦だ。写真/海上自衛隊

潜水艦「たいげい」型は「そうりゅう」型の後継艦に位置するもの。「そうりゅう」型は水中での高速性や機動性、連続潜航能力の向上などを狙った潜水艦だ。本艦の主機にはディーゼル・スターリング・エレクトリック方式を採用している。これは「非大気依存推進(AIP: Air-Independent Propulsion)システム」という機関部を搭載した潜水艦だ。これは外燃機関であり、機関稼働に大気を必要とせず長期間潜航したまま活動可能な技術の総称となる。

「そうりゅう」型は1番艦から10番艦まで本システム搭載艦として建造されたが、搭載は10番艦で中止。11番艦「おうりゅう」、12番艦「とうりゅう」では主機をディーゼル・エレクトリック方式に戻し、発電された電力を蓄えるバッテリーをリチウムイオン蓄電池とした。これは世界初のことで、諸技術の進歩発展と同調しているように筆者は思う。とくに蓄電池技術の進歩だ。

核動力艦を持たない我が国としては長期間潜航能力を持つ潜水艦の保有は戦力アップと抑止力維持のために必要で、そのためのAIP艦「そうりゅう」型の開発と配備だった。

式典を終えて出港、セイル上部の艦長などをはじめとした乗員が帽子を振りながらの挨拶をしている。ちょうど真後ろから捉えた写真で、X舵が大きな角度をつけており、おそらく右へ舵を切っている状態。写真/海上自衛隊

「そうりゅう」で一定の技術開発は行なえて、隻数も増やせている。そして蓄電池の性能が向上し、AIPシステムを積まなくとも高速性や機動性、長期間潜航能力を獲得する見込みがついた。で、AIP方式をやめて従来の方式に戻し、さらに高性能蓄電池を搭載した潜水艦「たいげい」へと世代をあらためている。こうした経緯だと理解できる。

ちなみに「そうりゅう」型は手間がかかるようだった。拠点港には「そうりゅう」型のAIPに液体酸素を補給する設備が必要で、その整備と維持には「手がかかりますね」という潜水艦乗りや海自幹部に少数ながら話を聞いたことがある。これもAIPをやめた理由のひとつなのだと思う。

神戸港を発ち外海へ向けて進む「とうりゅう」。艦の上に整列して登舷礼を行っている。セイルに書かれた艦番号と艦尾の艦名は、のちに消されたはずだ。写真/海上自衛隊

高性能さと引き換えに高度なメンテナンスとバックアップが必要なトンがったメカ。そうした横顔や背景には惹かれるところもあるが、乗員の立場で考えれば使い勝手に優れる方が良いに違いない。高性能で整備も簡便な潜水艦の数が増えることがまず大事ということだ。

海自は潜水艦の『22隻体制』を防衛大綱(22大綱、平成22年、2010年のもの)で打ち出した。それまでの潜水艦保有数16隻から22隻へ増やし、警戒警備や哨戒・パトロールできる海域面積を増やし、全体の能力を上げる狙いだ。現在、「そうりゅう」型が12隻、「おやしお」型が9隻、「たいげい」型が1隻、これで合計22隻になった。約10年かけて増勢したことになる。

式典会場で俯瞰した「とうりゅう」。全長84.0mというのは旅客機B-747ジャンボジェットの胴体長とほぼ同じ長さ。ジャンボ機の胴体が海中にあるイメージで良いと、ある艦長に教えられたことがある。この写真でも水没部分は見えないのでジャンボ機ほどのボリューム感がつかみにくいが、そうした大きさのものが海中を走っていると想像するのはグッとくる。写真/海上自衛隊

この体制で臨むのは中国を睨むことだ。加えてロシアや北朝鮮なども警戒対象になる。つまりまずは東シナ海の海防戦力を増強したい。22隻すべてが同時に航海するわけではないが、オホーツク海から日本海、対馬海峡、東シナ海、南西諸島、台湾近海と守りを固める海は広いから隻数を増やし、稼働率も高めたい。潜水艦は日本の抑止力だから、22隻体制にとどまらず、「たいげい」型は数を増やしていくと思う。

続いて見ていくと、護衛艦「くまの」はマルチミッション艦で、多目的な作戦に対応できることが特徴。とくに沿岸域での各種作戦に能力を発揮するはずで、沿岸防備・島嶼防衛の戦力となる。

音響測定艦「あき」は平時からの情報収集・蓄積手段で、これを増強した。

掃海艦「えたじま」就役にみる掃海艦艇の増勢はつまり島嶼防衛のためだ。機雷除去などを行ない、危機状況のその先へ突っ込む能力のある掃海部隊は島嶼防衛の尖兵役で、陸上自衛隊の水陸機動団を上陸・揚陸させるための海自輸送艦部隊とともに、離島を脅かす相手に対抗する戦力となる。

防衛白書にある潜水艦部隊の増勢のイメージ図。16隻から22隻へと増やし、カバーする領域を増やそうとする計画は進み、今後も増強されてゆくと思われる。図/防衛省

そしてイージス艦「はぐろ」就役は、艦隊防空能力や弾道ミサイル防衛(BMD)能力のバージョンアップだ。現代の紛争・戦争では航空優勢や制空権を握らずに勝利は見込めないという法則がある。相手の航空戦力の侵攻を止め、航空自衛隊が制空権を握るために洋上防空力や対空戦闘力に長けたイージス艦の増勢は、とくに空母を保有し、洋上航空打撃力を向かわせようとする相手には必須の戦力だ。このように海自の新造艦整備は主に東シナ海とその向こうを睨んでいることがわかる。

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最後に潜水艦「とうりゅう」の概要を見てみる。基準排水量は2950トン、寸法は全長84.0×全幅9.1×深さ10.3m、機関はディーゼル電気推進で蓄電池は先述のとおりリチウムイオン蓄電池、これで1軸シャフトでスクリューを回す。魚雷発射管一式を備え、乗員約65名で航海する。

艦名「とうりゅう」の由来について、海自の発表を引用すると次のとおり。
『潜水艦の名称は「海象、水中の動物の名、ずい祥(瑞祥)動物の名」を付与することが標準とされています。本艦は「そうりゅう」型潜水艦の12番艦(最終番艦)であり、引き続き「ずい祥動物の名」から選出することとされ、海上自衛隊の部隊等から募集し、防衛大臣が決定しました。「とうりゅう」は「闘龍」と書き、兵庫県の加古川の名勝「闘竜灘」に由来し、荒々しく闘う龍を意味します』。

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