「クラウンの伝統的な乗り心地」に重きを置いた今後の進化が望まれる 〈トヨタ・クラウン1200km試乗〉純和風の景色に溶け込む「日本の高級車」らしいスタイルは健在。三代続いた走りの悪癖は改善されるも小ぶりなシートが疲労感を助長
- 2019/07/08
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遠藤正賢
15代64年もの歴史を持つ、トヨタひいては日本を代表する高級セダン、クラウン。2018年6月に発売された、その新型15代目において最もスポーティな性格を持つと思われる、2.0Lターボガソリン車の最上級グレード「RSアドバンス」FR車に乗り、都内から大阪城までの往復約1200kmをドライブした。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、トヨタ自動車
「クラウン」と言えば、お金持ちのお父さんやおじいさんが乗る、静かで乗り心地の良い高級セダン……というのは、クラウンに対して抱く代表的なイメージとして、今なお時々耳にすることがある。だが、2003年12月にデビューした12代目「ゼロクラウン」以降、特にスポーティモデルの「アスリート」に関しては、必ずしもそうとは言い切れないのが実態だ。
ユーザー層の若返りを図るため、内外装のみならず走りもスポーティな性格にシフトしたことで、ハンドリングはクイックになりロールは抑えられ、高速域での安定性は向上。だが、マルチリンク化されたリヤサスペンションの過大なフリクションなどにより、路面の凹凸に対し特にリヤまわりが左右へと揺れやすく、それまでのクラウンとは真逆の方向性で酔いやすいクルマとなったことは、12代目以降のクラウンに乗ったことのある人ならよく知る所だろう。
また、このゼロクラウンのNプラットフォームは13・14代目クラウン(マジェスタ含む)やマークX、レクサスIS・GSなどにも継承され、これらはいずれもこの悪癖の解消に苦慮することとなった。
このような進化の足跡を経て登場した15代目クラウンは、三世代15年ぶりにプラットフォームを一新。低重心化とボディの高剛性化、クイックかつフラットでしなやかな乗り心地の実現を主眼とし、レクサスLCおよびLSにも用いられている新世代の「GA-L」プラットフォームを採用している。
……のだが、このGA-Lプラットフォームを先に採用したLCやLSは、従来のNプラットフォームに近い乗り味の持ち主。しかもクラウンは、日本の道路事情に最大限配慮し、全幅1800mmを新型でも死守した結果、全幅はLCおよびLSより100mm以上、トレッドも70mm以上狭まっているため、ますますその傾向が強まっているのではないかと、試乗前に強い懸念を抱いていた。
だが、実際に試乗してみると、その懸念は半分当たり、半分外れていた。左右に揺すられやすい悪癖は今回のクラウンにも残念ながら見られたのだが、その度合いは少なからず抑えられていたのである。
考えられる要因としては、LCが20or21インチ、LSが19or20インチのランフラットタイヤを装着するのに対し、今回のクラウン2.0Lターボガソリン車「RSアドバンス」は225/45R18 91Wのブリヂストン・レグノGR001を装着。タイヤがランフラットではなくなって路面からの入力を吸収しやすくなり、ホイールも2インチ以上小径化されバネ下重量が軽減されたことが、やはり大きいのだろう。
そして2.0Lターボガソリン車のRS仕様には、電子制御式ダンパー「リニアソレノイドAVS」に加え、専用のリヤパフォーマンスダンパーやリヤフロアパネルブレースが装着されている。そのためか、別の機会に試乗した3.5L V6ハイブリッド車の「Gエグゼクティブ」よりも、リヤ周りの揺れや微振動が抑えられていた。
今回は東名から新東名、伊勢湾岸自動車道、第二京阪を通るルートで大阪城まで向かったため、新東名の速度制限120km/h区間を含め、直線の多い良路を高い速度で走行することが多かったのだが、それでも時折遭遇する凹凸の多い路面、あるいは市街地で、不快な揺れに苛まれることは少なかった。完全にフラットライドとは言えず、細かな揺れは常時感じられるものの、ゼロクラウンのことを思えば劇的に改善されたのは間違いない。
そして、ゼロクラウン以降のアスリート系が持ち味とする、重量を感じさせないクイックでレスポンスの良いステアフィールと、スピード感がないとさえ思える高速域での直進性、そして静粛性の高さは、健在どころかさらに進化を遂げている。
なお、先代の後期型から引き継がれた、8AR-FTS型2.0L直4直噴ターボエンジンは、その245ps/5200-5800rpm、350Nm/1650-4400rpmというスペック通りにパワフルかつトルクフルで、矢継ぎ早に変速する8速ATの助けもあり、1730kgの車重には充分以上のパフォーマンス。タービンノイズがやや耳につくものの、ダウンサイジングターボにありがちなトルク不足、レスポンスの悪さを感じることはなかった。
だから、片道約600km、しかも夕暮れ時から深夜にかけての長距離ドライブは、ほとんど疲れ知らずで走り切れた…とはならないのが、新型クラウンの残念な所。今なお歴代クラウンを乗り継いでいる小柄な高齢ユーザーを最重視しているのか、単にコストカットしているためかは分からないが、身長176cm・座高90cmの筆者にとって、そのフロントシートは依然として小さい。フィット感も非常に乏しく、ほぼヒップに面圧が集中するため、一度の夕食休憩を挟んで日付が変わる直前に大阪城前へ着いた時、筆者の身体は運転席から降りるのがやっとというほど疲労困憊になっていた。
また、単眼カメラとミリ波レーダーを主体とする予防安全技術「トヨタセーフティセンス」も、LTA(レーントレーシングアシスト)やAHS(アダプティブハイビームシステム)は他社が採用する同様のシステムと比較しても違和感は少なかったが、最も疲労軽減に貢献するACC(アダプティブクルーズコントロール)は車間距離取りすぎ、再加速のタイミング・加速度とも遅すぎ、減速のタイミング・減速度とも早すぎの三重苦であることは従来のシステムと何ら変わらず。周囲に並走車がいない状況に恵まれなかったため、今回はほぼ全行程でACCを使わずに走行している。
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