いよいよ納車開始となるテスラ モデル3は、電気自動車の雄、日産・リーフの牙城を崩せるか? テスラ モデル3:“未来のクルマ” を手にする歓び。日産リーフとの価格差は38万円。
- 2019/08/19
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MotorFan編集部
長蛇の列ができた2016年の受付開始から3年半が経ち、8月下旬から待ちに待った納車が始まる。その出来栄えは? 走りは? 次世代のクルマとして注目度の高いテスラ モデル3に自動車評論家の瀨在仁志が試乗した。
TEXT:瀨在仁志(Hitoshi SEZAI)
PHOTO:MF.jp
テスラのモデル3が19年8月下旬から日本での納車がようやく始まるという。16年3月に受付が始まり、現在も受付中とのことだが、早くから予約をしていた人にとっては、東京オリンピックのチケット以上に待ち焦がれたことに違いない。もっとも、評価する側にとっても、この3年半を超すタイムラグは、すでにモデル3を過去の存在のように思えてしまうほどの時間だった。
発表と試乗がこんなにも時間が離れてしまっていると少々期待が薄れてしまうが、モデル3はともかく、テスラの実力はすでに確認済み。デカいモーターでドカンと加速して、天井知らずの伸びを持つことは理解している。そのポテンシャルを基本に、お手頃サイズのボディと、FR(というか後輪駆動)を基本とした走りは、容易に想像がつく。きっと面白いに違いない! 3年の時を超えてムラムラとやる気になってきた。
が、実車を見てみると、まるでショーモデルがそのまま外へ飛び出してきたんじゃないかと思えるほど、数年前の印象と変わりがない。室内はモックアップモデルに架装を施したようなスッキリとしたデザインで、開放感があると言えば聞こえは良いが、なにもないと言っていい。
センターにiPadのようなディスプレイがあるだけで、ステアリングコラムからレバーが伸びている以外は、メーターもいつもあるべきはずのスイッチ類もなし。ほとんどすべての操作機能がディスプレイ内に集約されている。
一般的に言うところのエンジン始動に関する儀式や、室内に乗り込んだ時のインジゲーターのサインも気づかない。果たして、このクルマに受け入れてもらっているのか、走りがほんとに可能なのかすらわからない。コックピットドリルが手順が多くて戸惑うレーシングカーより、なにもなくて手探りさえできないのはもっと厄介だ。接点がないのはアナログ世代にとっては致命的。
同行の編集部員にご指導いただき走行の準備をすると、これが理解できてしまえば便利であることはもちろん、コストかけずにクルマが作れるうまい方法だと膝を打つ。キーカードを指定の位置に乗せてモニターを立ち上げれば、さすがのガラケー利用者でも良くわかる。iPadを初めて使った時に、ウインドウズのかったるさから解放された感動にも似たものがあった。これだけでクルマが動いてしまうのか、次世代のクルマに接している実感が湧いてくる。
シートポジションを始め、エアコンや目的地など、ひと通りの準備をしたら、あとはメルセデス同様、コラムにあるシフトレバーをセレクトすれば、音もなく走り出す。まるでiPadがクルマを動かしているような錯覚さえうける。
日産リーフなどいままでの電気仕掛けのクルマであっても、基本は従来から馴染みのあるパッケージングで、パワートレーンがモーターに代わっただけ、という印象だったが、モデル3はまるで別物。この感動だけでもこのクルマを手に入れる価値があるに違いない。
もっとも走り出してしまえば、アナログであろうがデジタルであろうが、操作の基本は変わらない。加減速を味わったり、ハンドリングを楽しむなど、評価の基準に相違はない。3年前の最新モデルといった点は気になるものの、パワーフィールに関しては想像以上。従来のテスラ同様に右足を大きく踏み込めば、音もなく速度を増していくし、その伸びの良さは国産の電気自動車では経験のなかったもの。普通なら頭打ちになったり、パワーが鈍化していくはずなのに、モデル3は高速の合流を過ぎてもまだまだ速度を伸ばしていく。変速機がついていないことが後からわかったものの、まるで多段ギヤで速度を上げていくように、伸びがある。
なかでも今回は北米仕様のロングレンジモデルということもあって、シングルモーターながらも航続距離はWLTCモードで530km、最高速も225km/hとガソリン車以上のスペックを持つ。出力も225kWということで306ps。3.0リッターターボエンジン並みの性能が与えられている。重量が1770kgというのも、バッテリー重量を考えれば常識的な範囲。
それを無段階でパワーを引き出してくれるのだから、加速が天井知らずと唸ってしまうのも理解していただけるだろう。もちろんすべてがうまく馴染めたわけでもない。レスポンスが良く、パワフルなモーターは右足の動きに対して敏感で、街中では微妙な加減速をしてしまう。ガソリンエンジンならごまかせる範囲に違いないが、テスラ3では加減が難しい。回生が強く、ワンペダル的な加減速は少々扱いづらい。
再び、ディスプレイを操作して回生ブレーキの状況を確認してみると一番強い側となっていたため、これをSTD(スタンダード)に変更。すると右足の戻しに対して、スーッと流れについていくことができるようになった。アイコンひとつで1770kgのクルマの動きをコントロールできてしまうことに、少々不安が残るものの、これに自動運転のロジックを組み合わせればすぐにでも自動運転のレベル3が可能なことは容易に想像がつく。またひとつデジタル化への理解が深まった気がした。
もっとも停まって車内をいろいろと探し物などをしているときに、クルマの作りを見てみると、ラゲッジルーム内の仕上がりは、まさにショーモデルレベルで、カーペットをめくればボディ材が見えてしまったり、音対策に関してはあまり気遣いがされていない様子。考えてみれば、動力音や排気音がないから、タイヤさえ静かでいてくれれば、遮音性にこだわる必要がないこともわかった。少々荒っぽいけど、これも次世代のクルマ作りならでは考え方のひとつといえる。
走りに関してはパワートレーンは期待値以上。大きなアクセル開度からの加減速は回生ブレーキがSTDであっても適度な減速感があって、ガソリン車同様に荷重移動を行なっていける。右足の操作に対して高負荷領域でも加減速両方向に反応が良いから、ラインの修正もしやすく走りやすい。音もなく攻められる感動は、まるでアトラクションの乗り物に乗っているようで別次元の楽しさを味わえる。
だが、ハンドリングに関しては、3年以上の古さを感じさせる。リヤの蹴りだし感は充分だし、荷重がかかっていて安定感は高いが、フロントの動きが少々物足りない。ステアリングフィールも電動アシストが段階的な動きをするし、そもそも操舵初期が頼りない。低重心で安定してはいるものの、ボディ上屋は全体にヤワな印象で、重さに対して剛性感が低く感じられた。
軽量化が行なわれた結果なのか、そもそもエントリーモデルとしての宿命なのかは判然としないものの、シャシー性能に関しては、次の10年のためにももう一歩しっかり感がほしかった。
レーンキープを含めた機能の確認できたものの、シャシー性能に物足りなさが感じられてその良さが期待ほど味わえなかった。
自動運転に向けての可能性は満載で、アナログ世代にとっても受け入れざるを得ないパフォーマンスを実感できた一方で、クルマはやはり走ってナンボ! 基本のシャシー性能なくして、次世代をリードできるとは限らない。と実感。
これからも多くの新世代車両が登場してくると思うが、4つのタイヤで路面を捉えていく限り、走りの性能をおざなりにしてほしくないと、改めて思う。
あとを追う日本メーカーも心して対応してほしいものである。
SPECIFICASIONS
テスラ・モデル3(ロングレンジプラス)US仕様参考値
全長×全幅×全高:4694mm×1849mm×1443mm
ホイールベース:2875mm
車重:1770kg
サスペンション:
F|ダブルウィッシュボーン式
R|ダブルウィッシュボーン式
駆動方式:RWD
モーター
形式:三相交流磁石式同期モーター
型式:3D1
定格出力:225kW(306ps)
バッテリー容量:75kWh
テスラ・モデル3「バッテリー残量を気にしないEVって、いいかも!」アナログ派・ヒトシ君×助手75の言いたい放題本音インプレ
瀨在仁志さんが編集部員ナコ(75)とテスラ モデル3に乗ってドライブしつつ、感じたことを勝手に言い合うという新企画第二弾。こちらもどうぞ。
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