航空自衛隊偵察機RF-4E/EJ:唯一無二の存在「偵察ファントム」退役 自衛隊新戦力図鑑12
- 2020/04/18
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貝方士英樹
日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は、航空自衛隊の「偵察機RF-4E/EJだ。唯一無二の存在「偵察ファントム」が退役した。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
日本の空から偵察機が消えた
航空自衛隊が配備する偵察機RF-4E/EJが退役した。この機体を運用する部隊が廃止されたことで機体も引退することになったのだ。
2020年3月9日、RF-4E/EJを運用する空自偵察航空隊・第501飛行隊はホームベースの百里基地(茨城県)で、「偵察航空隊飛行訓練終了セレモニー」という行事を催行し、文字通り偵察機RF-4E/EJのラストフライトを行なった。これで日本の空から偵察機が消えたことになる。後任は無人機が担う構想があるというが、詳細や正式発表はまだ無い。今回はこのRF-4Eと、RF-4EJを見てみる。
空自が初めて配備した偵察機は「RF-86F」だった。これは戦闘機F-86セイバーの偵察仕様機で、ノースアメリカン社製だ。1960年代のことである。その後継機として、1972年に採用決定したのがマクダネル・ダグラス「RF-4E」だった。これはF-4EファントムⅡ戦闘機を偵察機に作り変えたもので、機首に偵察用カメラを複数搭載した戦術写真偵察機だ。空自では1974年から14機を導入、第501飛行隊が置かれた百里基地に配備された。
RF-4Eの最大特徴は偵察専用機
RF-4Eの最大特徴は偵察専用機であることだが、同時に非武装の「丸腰」であることも挙げられる。固定武装や攻撃用兵装類の運用能力は一切無い。
航空偵察は地上目標や洋上の艦艇などさまざまなものが対象になる。相手に気づかれないようにあるポイントまで飛行し、発見されぬよう低空を高速飛行したり、攻撃回避のために大きなGのかかる激しい機動や、機体を振り回すような動きをする。戦闘機の空中戦でもやらない独特の飛び方をするという。そして必要な情報を収集して引き返す。取得した情報を無事持ち帰ることが重要だ。
そして機首には各種の偵察用カメラが複数搭載されている。主な撮影装備は前方カメラ、低高度用パノラマ・カメラ、高々度用パノラマ・カメラ、レーダー・カメラなど。作戦や使用目的によって複数のカメラを組み合わせて搭載可能だ。
カメラはフィルム式で、いわゆる「デジカメ」ではない。大判で長尺の生フィルムを専用カートリッジに巻いて納め、飛行前にカメラへセットする。そして飛行して撮影し、帰着後、撮影済みのフィルムを現像する。その後、大きな印画紙へ焼き付けたものなどを偵察情報として分析にかけるのだ。
偵察航空隊は、大きく3つの部隊で構成される。偵察機を運用し航空偵察撮影するのはパイロット集団である偵察航空隊・第501飛行隊で、撮影した写真情報を持ち帰り、他の部隊や組織の活動に役立てるのが飛行隊の役割になる。一方、同航空隊・偵察整備隊は、偵察機を飛ばすための点検作業や燃料補給など一般の整備部隊と同じ作業を行ないながら、カメラなど偵察機材を取り扱い、機材の点検や修理を行ない、偵察飛行後にフィルムを回収する業務までを担う。そして同航空隊・偵察情報処理隊は偵察機が撮影した写真の現像と、その写真を解析して他の部隊が望む情報としてまとめ、提供するまでを任務としている。こうした分担で偵察航空隊は編成されている。
RF-4EJは、戦闘機F-4EJを偵察型に改修することで生まれた
一方のRF-4EJは、戦闘機F-4EJを偵察型に改修することで生まれた機体だ。1990年に改造開発作業を開始し、1992年2月4日に初飛行した。戦闘機を改修したことで機首の20㎜バルカン砲や空対空ミサイルの運用能力もそのまま残されているのがRF-4Eとの相違点だ。
RF-4EJは胴体下面に偵察ポッドを搭載し、偵察を行なうのが特徴だ。偵察ポッドは3種類あって、それぞれ異なる機能を発揮する。戦術偵察ポット(TAC)は、低高度用カメラ、高々度用カメラ、赤外線偵察装置を搭載し、昼夜間の偵察に使う。長距離偵察ポット(LOLOP)は長距離斜めカメラを搭載する。戦術電子偵察ポット(TACER)は各種の電波を受信することで、その電波の諸元や発信位置などを測定、同時に地上施設にデータを送信可能だ。
RF-4E/EJは、各々の機体プロフィールや運用方法が特別なものだ。偵察航空隊・第501飛行隊は45 年近く飛ばし続け、とんがったオペレーションを続けてきた。大規模自然災害にも出動し、広範囲な被害状況を把握するのに偵察写真と情報は役立った。
しかし、いかんせん古くなった。RF-4Eのベースとなった「F-4ファントムⅡ戦闘機」は、その原型機の初飛行まで遡ると62年も昔、1958年のことになってしまう。機体の旧世代化は止めようもない。
後継機の計画として一時期、F-15Jを偵察型へ改修する案もあったようで、それはRF-4EJのように偵察ポッド搭載型とする予定だったが、空自が要求する性能にまで作れず断念、RF-4E/EJとそのシステムを継続使用せざるをえなかったようだ。
また、最新鋭ステルス戦闘機F-35Aの導入、部隊配備もジリジリと進めており、F-35Aはセンサー/レーダーの塊だから偵察専用機の代替は充分可能だ。同機が複数飛行していればなおさら、しかも情報はリアルタイムで共有される。もはや次元が異なる。
RF-4E/EJと偵察航空隊は、航空偵察の膨大なノウハウと実績を残した。そうした物事が忘れられることなく、次世代に引き継がれることが防衛力の厚みを増すことになると思う。
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