航空自衛隊:『ゲームチェンジャー』戦況を変える戦闘機・F-35 自衛隊新戦力図鑑
- 2020/06/27
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貝方士英樹
航空自衛隊の最新ステルス戦闘機、F-35ライトニングⅡには3タイプの機体が用意されている。A型/B型/C型である。それぞれ用途が違うのだ。詳しく見ていこう。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
最新のステルス戦闘機F-35ライトニングⅡは、3タイプの機体が用意されている。まず通常型・空軍向けのA型、そして短距離離陸・垂直着陸(STOVL)型で海兵隊向けのB型、さらに艦載機型で海軍向けのC型がそれぞれ製造されている。開発と製造は米ロッキード・マーチン社を中心に行ない、開発には国際共同体制を組み、米・仏・伊・韓、日本など世界12カ国が連携して行なっている。
開発製造主体のロッキード・マーチン社はF-35のことを「ゲームチェンジャー」と呼んだ。このキャッチフレーズは、野球などのスポーツで試合の流れを一気に変えてしまう選手のことを指呼したことに由来するという。ビジネスの世界でもこの言葉が転じて用いられ、市場の状況やルールを急激に変えてしまう製品や企業のことをこう呼ぶようになったそうだ。これをF-35に当てはめ『戦場の状況やルールを急激に変えてしまう戦闘機』と意味付けたわけだ。なにやら、ただ事ではない匂いがしている。
戦況やルールを急変させるために、F-35の機体は高性能レーダーとセンサー、情報通信能力の塊として造られた。結果、敵のレーダー探知・捜索範囲外から、敵に発見される前にミサイルで先制攻撃を行なう戦闘機となった。高速性や格闘戦能力で優位に立つのではなく、探知能力や情報処理能力で優位に立ち、遠距離射撃で命中させ制圧する戦闘機だ。この能力はたしかに航空戦闘の様相を変えるものだ。
速度や機動性ではない(これらがF-35は悪いという意味ではなく)要素で勝負することから、F-35はもはや戦闘機ではなくウェポンキャリアだと評する向きもある。ウェポンキャリアとは武器を運ぶものの意味だ。ドッグファイトなどは行なわず(行なう以前に)、ステルス性により発見されず探知外から遠距離先制攻撃で倒すことを指して『武器を運んでいるだけ』と言ってしまっているようだ。単なる戦闘機のジャンルを逸脱した新しい何か、戦闘システムの一部であり中枢、そうした表現もF-35は纏っている。
高度なステルス性能と統合センサーシステム、ネットワーク型情報通信機能を搭載するF-35は僚機とデータリンクで常時繋がる。情報収集能力は高く、6機のF-35で現有戦闘機14機以上の戦闘空中哨戒活動(CAP)が可能だという。
こうしたIT化を形成するのは機体のレーダー/センサー類だ。
◉機首に内蔵されたAN/APG-81レーダーは、全天候型、昼間・夜間兼用レーダー。
◉電子光学照準システム「EOTS(Electro-Optical Targeting System)」は、カメラと赤外線センサーを組み合わせて使用する全天候型光学照準装置で、昼間・夜間兼用で目標を視認する。対地攻撃では地上目標を指示する機能もある。
◉電子光学分配開口システム「EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)」は、機体各部に6個の赤外線センサーを配置し、機体全周を球状に覆うように見張る全球覆域状況認識センサーだ。取得した映像は操縦士のヘルメットバイザーに投影され、頭の向きを変えると映像も連動して可変する仕組み。バイザー内には3D映像として投影されており、一説には『3D酔い』すると言われているようだ。
その他に、AN/ASQ-239 統合電子戦システムを搭載、これは敵のレーダー電波を逆探知し、妨害も可能なシステムだ。さらにMADL(Multifunction Advanced Data Link:多機能先進データリンク)16データリンクで結ばれており、これは当システムを搭載する僚機や接続・通信可能な早期警戒管制機、地上レーダーサイト、洋上の艦艇や遠方後方の司令部などと繋がり、情報共有が行なわれる。通信は地球軌道上の人工衛星を介することが当然のように行なわれる。
つまりF-35は戦域の前方や後方を問わずあらゆる情報を積極的に取得し、コクピット計器盤の多機能モニターやヘルメットバイザーに投影しパイロットへ理解させる。攻撃するのに最適な位置へ移動する指示をパイロットに与え、敵機や地上攻撃目標を表示して自動追尾し続け、攻撃に適した武器を選び出し、射撃指示の入力をパイロットに迫る。そうした戦闘機だ。ゲームチェンジャー、ウェポンキャリアとの評がわかるようだ。
こういう戦闘機を航空自衛隊は導入配備し始めている。三沢基地(青森県三沢市)の第302飛行隊だ。長らくF-4EJ/EJ改を運用した第302飛行隊は2019年にF-4を廃止し、三沢基地へ移動、F-35Aへ転換中だ。しかし19年4月には訓練飛行中の墜落事故が発生し、ベテラン操縦士1名と機体を失っている。痛ましく残念な事故だったが302飛行隊は現在、訓練飛行を再開し、新戦力を整備中だ。
302飛行隊の後を追い、F-4のマザー・スコードロン(母体飛行隊)である第301飛行隊(百里基地)も2021年中にはF-4EJ/EJ改を廃止し、三沢へ移動、F-35Aへ転換を行なう。三沢には301/302と2つのF-35A飛行隊を置くことになる予定で、つまり機体導入配備数も2個飛行隊を満たす数のF-35Aを、日本は整備・保有することになる。
もうひとつ、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)型のB型も導入する。これは海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」型を改修して、F-35Bを艦載するためだ。「いずも」と同型2番艦「かが」のドック入りの順番や起工〜竣工時期も睨まれており、早ければ2022年には改修工事を終えた『空母いずも』『空母かが』のどちらかが登場する可能性がある。海自は空母とは呼ばないが、実態としての空母の誕生だ。
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