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可変圧縮比エンジンとは何か──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第8弾

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Nissan KR20DDT。VC-Turboのペットネームが表すように、可変圧縮比機構を備える。

宣伝上手の日産であるにもかかわらず、マツダのスカイアクティブ-Xほど話題になっていないのが、量産車世界初の可変圧縮比エンジン“VCR(Variable Compression Ratio)”。北米向けのSUV・インフィニティQX50と、中国向けの4ドアセダン・アルティマに搭載されているが、日本向けのモデルに搭載されるかどうかについては、日産は沈黙を続けている。今回はこのエンジンの将来性について、考察してみたい。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 構造や作動については、文章で説明するより動画を観てもらったほうがわかりやすいので割愛するが、コンロッドとクランクシャフトにシーソー式のリンクを噛ませることで、圧縮比を連続的に変化させることができるのが特徴。この機構が採用されたKR20DDT型では、圧縮比を8から14の間でシームレスに変えることができる。

 可変圧縮比サイクルといえば、有名なのがアトキンソンサイクルだが、それと決定的に異なるのは、VCRは同一サイクル内で圧縮比を変えることができない、ということ。アトキンソンサイクルの狙いは、圧縮行程で圧縮比を落としてノッキングと圧縮損失を回避し、膨張行程では長い膨張比にして燃焼圧を長く使い、熱効率を改善することだが、VCRはそれができない。
 ならばなぜ、VCRは圧縮比を可変化するのかといえば、過給を前提としているからだ。過給エンジンは、過給した際のノッキング限界が圧縮比の上限を決めるため、高過給をかけて大きなトルクを取り出すには、圧縮比は下げざるを得ない。しかし低圧縮比化すれば、過給が必要ない低負荷域での熱効率まで下がり、ダウンサイジングのうまみが薄れてしまう。そこで、過給をかけない低負荷域では圧縮比を高めて熱効率を向上させ、高負荷域では燃費は泣いても高過給をかけて大トルクを取りだそう、というのが、VCRエンジンの狙いである。

本物のアトキンソンサイクルの例、ホンダのEXlink。副リンク機構を用いて同一サイクル内でストロークを変化させる仕組みとし、高膨張比サイクルを実現している。(FIGURE:HONDA)

 となると、用途としては、6気筒や8気筒でないと出せないトルクを直4過給で出す、という使いかたになる。

しかも、圧縮比14の領域が使えるのは、トルクにして130Nmぐらいまでのようだから、あまり重たく大きなクルマに使ったのでは、加減速の多い市街地では、燃費のうまみはほとんど得られない(ぜひ等燃費線図を見てみたい)。

 特定領域の熱効率を高めれば良いハイブリッド用エンジンなら、圧縮比は可変にする必要はないし、無過給2.5ℓ(直4の上限がこれくらい)のトルクで足りるクルマに使用する意味もない。となると、用途は意外と限られてきそうだ。

 実はVCRと良く似た機構で、同一サイクル内で圧縮比を変えることができるエンジンは、すでにホンダが量産している。家庭用コージェネレーション(熱電併給)システムのガスエンジンに採用されているEXlinkがそれだ。ホンダはこの機構を車載用にするつもりは無いようだが、これをシリーズ式ハイブリッドに使用したら、面白いものができるのではないか。

EXlinkの解説ページはこちら(https://www.honda.co.jp/tech/power/exlink/)

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