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クルマが安心して曲がれる道の設計:クロソイド曲線とは──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第33弾

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PHOTO:平野 陽

カーブに差し掛かったとき、なんの気負いもなくクルマが曲がるように操舵できるのには、じつは理由があった。「クロソイド曲線」というこの理論について考えてみる。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 夏休みを利用して、普段は走らない道路を通って遊びに出かけたかたも少なくないだろう。そうした中、初めて通るカーブでアンダーステアを出し、慌てて減速、という経験をされたかたもいるのではないか。
 その理由は、単に進入速度が高すぎたり、曲率の変化を読み間違えて、奥で詰まってしまったりなどいろいろあると思うが、道路側に問題がある箇所もあるのではないかと、僕は考えている。その「問題」とは、クロソイド曲線の不適切な使いかたである。

 現在の道路のカーブは、単純な円弧ではなく、「クロソイド」という緩和曲線が使用されていることがほとんどだ。クロソイド曲線がどんなものかは、キーワード検索していただいたほうが深く理解できるが、簡潔に言うと「一定の比例定数を持って曲率が大きくなっていく曲線」である。
 では、なぜクロソイド曲線が道路に使われているのだろうか。
 仮に、カーブが純粋な円弧だとすると、クルマがカーブに入った瞬間、ドライバーは時間差ゼロで、カーブに沿う角度までハンドルを切らなければならない。もちろん、そんなことは不可能だ。
 ドライバーの運転負担を考えれば、ハンドルを一定速度で切り増ししていけば曲がれる曲率変化が理想的で、それを再現したのが、クロソイド曲線である。世界で初めて採用されたのが、ドイツのアウトバーンで、日本では国道17号線三国峠で大型車の事故が多発したことから、1952年に初めて導入。事故削減効果が顕著だったことから、その後の道路建設の際には積極的に用いられるようになった。

1950年代のドイツ・アウトバーンの様子(PHOTO:DAIMLER)

 このように、理屈の上でも納得しやすく、実際に効果を上げているクロソイド曲線だが、「使いかたを間違えているのではないか」と思うようなカーブに出会うことがときどきある。特に、高速道路の進入路だ。
 クロソイド曲線の大前提は、「車速一定+操舵角速度一定」ということだが、高速道路の進入路は、徐々に加速していくのが大原則。そこにクロソイド曲線を使ってしまったら、先に進むほど横Gが増し、曲がりきれなくなるのは自明である。
 しかも、そもそも遠心力は「mv^2/R」であり、「R」が徐々に小さくなるのがクロソイド曲線だから、一定速で走っていても、横Gは徐々に高くなる。となると、クルマの性能向上に伴い、設計想定速度が実態走行速度より低くなってしまったり、クロソイド曲線の適用距離が長過ぎたりすると、最大曲率点に達する前に限界が訪れ、切り増ししてタイヤを鳴かせたり、アクセルを戻したりする必要が生じ、加速開始が遅れて、本線合流に必要な速度が得られならなくなる場合もありうる。

首都高速3号線〜中央環状線の大橋ジャンクションは、2種の曲率と直線が組み合わさったらせん状路で、走行には注意が必要。(FIGURE:首都高速道路)

 このようにクロソイド曲線は、高速道路本線上のカーブや、屈曲角が90度程度までのカーブなら具合が良くても、高速道路の進入路や、どうしても加速が生じる下り勾配のカーブに適用する際には、ドライバー心理や重力加速度の影響も加味しておかないと、事故多発地帯を作ることになりかねない。
 現状でもそういうカーブはときどきあるので、特に初めての道を走るときには、十分注意して運転されたい。

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