マツダSKYACTIV-X、全負荷時にはどんな状態で回っているのか——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第42弾
- 2020/01/19
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安藤 眞
SPCCIが白眉のSKYACTIV-X。低回転高負荷域の燃費率を著しく高める世界初の技術であることはご承知のとおり。では、全負荷域ではどのような燃焼で運転しているのか。発表された資料から読み解いてみる。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
ようやく市販が開始され、試乗記も出そろってきたマツダのSKYACTIV-Xエンジン(HF-VPH型)。毀誉褒貶があるとはいえ、おおむね好評のようである(僕はまだ乗る機会が得られていない)。
発売が遅れた理由や、SPCCIの何たるかについては、あちこちで既報なので改めては触れないが、技術発表の当時から、僕が疑問に思っていたのは「全負荷時には、どんな状態で回っているのか?」ということだ。
HF-VPH型の最大トルクは、224Nm(22.8kg-m)。一般的な自然吸気エンジンで言えば、2.3ℓ相当のトルクが出ている。普通の無過給エンジンのリッターあたりトルクが100Nm前後であることを考えると、HF-VPH型は「全負荷時には、ストイキ+20%ぐらいの過給をしているのではないか」と推理したくなるところだ。
ところが圧縮比は15と高いから、予混合のストイキで過給をかけたらノッキングの嵐になって成立しないはず。分割噴射で混合気分布を制御して、ノックの起点となる燃焼室外周部に混合気が行かないようにすればノッキングは防げるが(SPCCI領域ではそうしている)、ストイキでは吸気量に見合った噴射量の確保が間に合わない可能性があるし、圧縮行程で吹いたら成層燃焼になってPMが大量に発生するはずだ。
いったいどうやって?と思ったら、どうやら正反対のことをやっているようだ。
全負荷時には、圧縮行程噴射でシリンダー外周部に過濃な混合気を送り込む。外周にストイキ以上の混合気があったのではノッキングするのでは?と疑問になるが、そこは直噴の利点が活きる。気化潜熱でエンドガスの温度は下がるから、自己着火温度には達しにくくなるのである。一方で、燃焼室中央寄りはほぼストイキで、トータルでは出力空燃比で燃やしてトルクを確保する。
さらにスワールコントロールバルブを閉じて強スワールを利用すれば、過濃な混合気は遠心力でシリンダー外周部を循環する。吸気ポート形状は上に向かって反り返った高タンブルタイプだが、反り返った分だけ断面が減り、流速は高まる。これを片側だけ使えば、スワール形成にも有利になるはずだ。
しかし全負荷域でスワールコントロールバルブを閉じては、充填効率が下がってトルクが出ない。そこは「高応答エアサプライ」という名前の付いたルーツ式スーパーチャージャーの出番で、最大200kPaレベルの過給をかけているという。
しかし、200kPaといえば大気圧の二倍で、通常のエンジンならば、黙っていても最大トルクは350Nmぐらい出てしまう。なのに224Nmとは少なすぎではないか?と考えて思い当たるのが、EGRの大量導入だ。最大EGR率は、内部と外部を合わせて約35%。これを使って反応速度を落とせば、ノッキング抑制効果はさらに高まる。
EGR率が35%ということは、空気は65%ということになり、最大トルクは普通の2L過給エンジンの65%ぐらいになるはずで、350Nm×0.65=227.5Nm。おっ、だいたい計算が合ったぞ(ホントか?)。
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